第39話

「どうしたの、景虎くん。何だか、気分が悪そうだけど」

「うん。何だか知らないけど、昔のことを思い出したんだ」

「昔のこと? そういえばこの近くにうちの別荘があって、昔、遊びに行ったわね」


 羽衣は、何の屈託もなく昔のことを口にした。父に授かった幼馴染というのは、羽衣やあおいちゃんのことではないのだろうか。気になるが、確かめる術がない。思い出そうにも、これ以上はなかなか思い出せない。俺は、1人で悶々としていた。


「モウスグ、目的地デス」


 俺の思考を遮るようにキャサリンの声がバスの中に響いた。それから数分間、車窓に広がる里山の風景を堪能していると、バスが停まった。


「という訳なんです。とにかく人手が足りなくて」

「では、早速、作業に取り掛かります」

「えー、マスター。奈江疲れた。休みたーい」

「仕事なんだから、頑張らないと!」


 俺は、何となくだが、ここに来てはいけなかったような気がした。遠い昔に父に禁じられた魚や自然の中での暮らしがある。だから、とっとと仕事を済ませ、東京に戻ろうと思っていた。依頼内容は、稲刈りの手伝いに過ぎない。しかも稲刈り機を使うから、難しい作業ではない。時間がないことだけが問題なのだ。台風が迫っていて、明日中に刈り取らなければいけないらしい。


「キャサリン、すごーい!」

「稲刈リ機モ、OKデス」

「ここの田圃、とても住みやすそう!」


 俺達は3人ずつ4つのグループに分かれて作業をしていた。奈江とキャサリンと素南のグループは盛り上がっていた。俺は、まりえと紗南と一緒に稲刈りをしていたが、100メートル以上離れた隣の田圃にも奈江達の声は響き渡っていた。

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