第23話

 俺は1人で緊張していた。全裸の女の子7人に囲まれているのだから当たり前だが、金魚達だけならここまで緊張しないのも事実だ。慣れというのは恐ろしい。


「奈江、終わったよ」

「いづぼばいがどぅ(いつもありがとう)」


 最近の石鹸も恐ろしい。あゆみの超高級石鹸だ。ほんの少量で全身を覆えるほどの泡立ちをする。その使い方は一味違う。泡を身体に塗って15分ほどじっとしているだけなのだ。それで肌はつるつるぴかぴかになる。泡が老廃物を綺麗さっぱり浮き上がらせてくれるらしい。ネットで買えるから入手が困難な代物という訳ではないのだが、高価で普通の高校生には手が出せない。金魚達の金力があればこそ入手可能なのだ。羽衣達も存在は知っていたようで、今日はそれを借りて全身を分厚い泡と薫りに包まれることが出来ると喜んでいた。だが泡立てるのには技術が要る。金魚達にはその技術がない。だからいつも俺が泡立ててあげ、俺が順番にその泡をのせてあげている。奈江の次は優姫、その次はあゆみ、最後にまりえというのがいつものことだ。


 羽衣達は自分で泡立てるのに挑戦するが、どうやらうまくいかないようだ。あおいちゃんとキャサリンは早々に諦め、まりえの後ろに並んだ。2人とも妙に堂々としているから、俺にも恥ずかしさはなかった。羽衣は凝り性で何度も挑戦するが、結局上手く泡立てられず、代わりに苛立っていた。


「何でこんなに難しいのよ」

「羽衣姉も景虎くんに塗って貰いなよ」


 あおいちゃんに促されて、仕方なくといった感じで後ろに並んだ。そして羽衣の順番となった。今日は7人分だからさすがに疲れた俺は、フーッとため息をついた後、正面にいる全裸の羽衣を眺めて赤面してしまう。他の6人と違い、羽衣が恥ずかしそうにしているから、俺も恥ずかしくなってしまった。俺は、そんな気持ちを上手に隠して羽衣の指先から、腕、肘、脇、肩、首、顔、胸、腹、背、尻、腿、脚と、なるべく手早く隈なく泡だらけにした。口を残して鼻と耳の穴まで塞いだ。羽衣はときどき、ふぅんと吐息をもらす。珍しく色っぽさがある。あぁ、緊張する。恥ずかしいけどなんか幸せだ。


 泡だらけのオブジェが7体完成した時、脱衣所に人影が見えた。まずい、ここは男湯。他に客はいないはずだが、もし地元の人が入って来たら厄介だ。全身泡だらけだから、金魚達の身体が直ちにその目に晒されることはない。でも俺1人で独占したいのに。人影は、目に入ってから服を脱ぐほどの間も空けずに扉を引いた。入ってきたのは、鯛焼きを美味しそうに食べた4人の女の子達だった。1番大人に見える子を先頭に、音も立てず身体も洗わず湯船に向かっていた。さっきは暗くてよく見えなかったが、この子達も金魚達や水草姉妹に負けないくらいの美少女で、しかも揃って巨乳だ。羽衣には見えていたんだろうか。1番大人に見える子はまりえ以上、キャサリン級だ。あまりの見栄えの良さに、俺は話しかけられるまで、身動き1つできなかった。あれだけ胸を膨らませていたのに、いざとなるとこの体たらく! 我ながら情けない。


「お邪魔します」

「ど、どうぞ」


 とほほ。会話はそれだけだった。

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