第19話

 夕飯のカレーを平らげた後、金魚達がテント内で配信することになった。設備の問題で4人同時に行ったのだが、大反響だったことは後で聞いて知った。あおいちゃんとキャサリンはお手伝いのためにテントの中にいた。だから、俺は羽衣と2人っきりで車の中で時間を潰していた。羽衣は思い詰めたような顔をしていた。どうしてそんな顔をしているのか、はじめ俺には分からなかった。


「ねぇ、景虎くん……。まりえのことなんだけど」

「あぁ、今日は大助かりだったよ」

「そうじゃなくって、何ていうかな……。」


 喋っている羽衣もまだ整理がついていないようで、しどろもどろだった。


「まずは、天活。いつまで続けるの」

「いつまでって、それはまりえの天職が見つかるまでだよ」

「天職が見つかった後は?」


 俺は、羽衣が本当に言いたいことが何なのか分からないまま、ただ聞かれたことにだけ答えていた。


「考えていなかったけど、見つかったらそこで辞めるかな」

「次。景虎くんは一生まりえ達の面倒を見るつもりなの」

「そのつもりはないよ。いつかは巣立って貰いたいよ。その時に天職が……。」

「……。戸籍もないのに? 本当に独立できるのかしら」


 羽衣は珍しく俺の言葉を遮って、食い気味に新たな問題を俺に投げかけた。それは、俺にとっては答え難いものだった。今のこの国で、戸籍がないのでは色々と面倒なことが多いだろう。羽衣の心配はもっともだった。だから、俺は黙り込んでしまった。


「……。」

「そもそも、学校には行かなくて良いのかしら」

「……。」

「将来、結婚とか出産とか、そういう生活が今のままでは……。」

「……。分かってるよ! そんなこと、分かってる」


 俺は羽衣の言葉を遮った。かなり大きい声を出してしまったような気がする。それでも、羽衣は怯むことなく話を続けた。


「分かってるのなら、どうするの?」

「……。分からないよ……。」

「だったら、1人で抱えないで、誰かに相談したら?」

「……。その誰かっていうのが、分からないんだ」

「……。」


 現実に、人に変わった金魚なんて他にはいない。だからどうして良いのかの見本がないのだ。小説や映画なんかでも描かれていない。少なくとも俺の知る限りは全くない。だから俺は意図的に戸籍とか将来のこととかを考えず、逃げていた。羽衣はそれを許してくれなかった。

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