きれいな川の側編②

第17話

「マスター、覚悟!」


 奈江の掛け声が合図となり、俺はエアジェットアタックストリームの餌食になった。といっても水鉄砲である。俺が羽衣やまりえとばかり話していたから、つまらなくなって絡んできたのだ。水は気持ち良い。そのまま撃たれ続けても良いのだが、水草姉妹とまりえが応戦してくれた。そして1度は3人を退けたのだが、キャサリンが参戦すると、ミリタリーバランスが大きく崩れた。キャサリンは映画で見る工作員のような身のこなしで、しかも戦略眼が鋭い。だから、俺達では歯が立たなかった。最後はキャサリン1人に7人掛かりで攻撃して、ようやくバランスが整い、白熱した1戦となった。濡れた白いTシャツから皆の水着や素肌が透けて見える。良きかな、良きかな。


「よーし、そのまま川へ入ろう!」


 そして、2台のゴムボートで競争することになった。第1回ますたー杯ゴムボートリレー競争である。俺と水草姉妹とまりえが同じチームとなった。


「よーい、ドン!」


 奈江の号令で競争が始まった。先鋒は羽衣とあゆみだ。オールが胸に支えて思うように漕げないあゆみに対して、羽衣はスイスイとボートを漕ぎ進めた。そしてそのままあゆみに20秒以上の差を付けてあおいちゃんとバトンタッチした。そのあおいちゃんは下りではリードを保ったが、上りに入ると息切れしてしまい奈江に逆転を許してしまう。3番手の俺の相手は優姫。既に40メートル位前に行っている。俺はあおいちゃんの声援に助けられたのもあるし、あゆみと同じ理由で優姫がもたついたのもあって追い付くと、さらに差を付けてまりえに繋いだ。そして、最終漕者はまりえとキャサリンだ。2人とも漕ぎにくそうだ。だけどキャサリンの追い上げは凄まじく、気付いた時には流れの速い外側からボートを並べていた。まりえもそこから粘り、100メートル位はサイドバイサイドで進んだ。


「マリエさん、ワタシガ勝ッタラ、マスターさんヲ貰イマス」

「キャサリン、マスターはモノではありません」

「イイエ、マスターさんハ、イズレハワタシノモノトナリマス」

「そんなの、許さない!」

「ワタシガ勝チマス!」


 2人がそんな会話をしていたことなんて知る由もないが、ジリジリと前へ出たのは、まりえだった。自力で勝るキャサリンに対し、まりえのど根性はそれをも凌駕した。応援する側にも熱が入り、興奮した奈江が川へ足を踏み入れる。


「2人とも、ガンバッ……。キャッ、マスター!」

「おっ、おわぁーっ!」


 一瞬のことだった。深みに入った奈江は足元をすくわれて、流される。とっさにしがみついたのが俺で、俺が踏ん張れば良かったのだが、俺も一緒に流されてしまった。あぁ、情けない。


「まっ、マスター」

「奈江ー!」


 異変に気付いたあゆみと優姫が浮き輪を放ってくれた。奈江はなんとか自力で浮き輪にたどり着いたようだ。さすがに泳ぎが上手い。これで一安心だ。俺はというと、足がつかないほど深く、しかも流れが速いカーブの外側に行ってしまった。


「景虎くん!」

「頑張って!」


 羽衣とあおいちゃんの悲痛な叫び声がこだまする。あゆみや優姫は奈江にかかりきりで動けない。俺は自力で脱出しなければいけない状況にある。だが、もがけばもがくほど足は流れにさらわれていく。水面に顔を出して呼吸するのがやっとだった。


 ーザッブーン!ー


 誰かが川に飛び込む音がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る