第16話

「運転ナラ、マカセテクダサイ」


 キャサリンの申し出で俺は運転しなくてもよくなり、中央の列の真ん中に座った。その右に羽衣、左にまりえ。良きかな、良きかな。キャサリンの登場で皆が団結し、席順は休憩毎にローテーションすることになったらしい。羽衣もまりえも俺の方に体を寄せてくる。かわいい。2人に挟まれて、俺は幸せだ。見目好いが、右を見ても左を見ても角が立つ。だから俺はなるべく正面を見るようにしたのだが、少し上を見ると、そこにもハニートラップが待ち受けていた。バックミラー越しにキャサリンの胸の谷間がきれいに見える。あぁ、この幸せがバレませんように!


 高速に乗った車は、快調に進んだ。渋滞に巻き込まれて時間をロスすることもなかった。キャサリンの運転が上手なのが大きい。キャサリンは喋りも快調だった。そんなキャサリンと話すうちに、皆は次第にキャサリンに対して心を開いていった。ホームセンターに寄ったときには、キャサリンは立派な隊長になっていて、テントの他にも浮き輪や木炭を買ったのだが、当然おまけも貰った。隊長の指示で皆が悪ノリしていたからえげつない。払った額の8倍相当の品物をゲットしていた。新記録かもしれない。


 極付けは『きれいな川の側キャンプ場』についてからだった。1人1人では難しい交渉も皆で力を合わせると難なくこなしてしまう。もはや俺にとっては、1区画の料金で4区画借りようが、発電機や併設の露天風呂が貸切でしかも無料だろうが、何も不思議なことはなかった。この施設は明日には閉鎖されることが決まっていたらしく、おまけする側も悪ノリしていたのだろう。


「あれ? おかしいな」


 テントを張り終え、更衣室に入った俺が異変に気付いたのは、服を脱ぎサポーターを履いた後のことだった。水着がないのだ。最初にリュックに詰めたから忘れるはずはないのだが、もしかしたら車の中に落としたのかもしれない。俺はサポーター1丁にタオルを巻きつけただけの誰かに見られたらちょっと恥ずかしい姿で更衣室を出た。すると、あるはずの車がない。俺が右往左往していると、あゆみがいた。かぎ編みの水着がよく似合っている。かわいい。そして穿いている方が恥ずかしいくらいのローレグローライズのボトムスは、持ち前のエロさを存分に引き出している。


「マスター、お探しものはこれですか」


 そう言ってあゆみは俺に水着を渡してくれた。ありがとう。俺は車の行方が気になったが、その後直ぐに忙しくなって忘れてしまった。


「水着は助かったよ。ありがとう」

「いえいえ、その代わりと言っては何ですが……。」


 あゆみはモジモジしながら言った。聞いてみると、ボディーオイルを塗って欲しいというものだった。


「先ずは、 私がマスターに塗って差し上げます」


 そう言うとあゆみは、とろーりとしたオイルをたっぷりと右手に広げた。エッ、エロい! 結局俺はあゆみにオイルを塗ってもらった。しかも、ほぼ全身。あぁ、幸せ。その後は俺があゆみに塗ってあげると、その後ろには行列が出来ていた。水草姉妹や、いつの間にか戻ったまりえとキャサリンも列に加わっていた。こりゃ、大変だ。でも、幸せ!


 行列が途切れた時にはバーベキューの準備は万端整っていた。サンオイルの甘い香りと焼きとうもろこしの芳ばしい香りとが混ざり合い、盛夏を演出していた。さぁ、思う存分食べ尽くすぞ! 俺が野菜を多目に食べたのは、美味しいからだけではない。金魚達になるべく沢山の魚介や肉をゆき渡らせるためである。そんなことには誰も気付いていないようではある。お腹いっぱいになったから、とっておきのデザートの『へまち』の鯛焼きを振る舞うのを忘れてしまった。

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