第14話

 留守番の3人を乗せに、1度家に帰った。行き先は千葉県。あゆみ達が見つけた、その名も『きれいな川の側キャンプ場』だ。いざ出発! ところがその時ちょっとした事件があった。


「奈江、マスターの横が良い」


 金魚達は皆、奈江には甘い。奈江は見た目も言動も幼く、金魚達の妹分だ。金魚達のみならず俺や水草姉妹も奈江にはどこか甘いところがある。奈江は俺の妹のなごみが送り付けてきたこともあり、金髪であることを除けばなごみと重なるところが多い。だから大抵の場合は、奈江の要求というものは通る。しかし、この時のまりえはその要求を退けた。


「私だって、この席が気に入っているのよ」


 助手席のシートは他よりも少し広い。そんなのが理由なのかと思っていたが、まりえが続けて言うことを聞いて、違うのが分かった。


「マスターの側にいたいの! 横顔を観ていたいの」


 俺の側にいたい? 横顔を観ていたい? 泣けるセリフだ。奈江はまりえの身体を引っ張り出そうとするのだが、まりえも意地になっているようでいつまで経っても動こうとしなかった。そんな2人の姿もかわいくて泣ける。


「ずるい。まりえばっかり!」


 奈江は子供に見えるが、よく考えるとまりえとは同い年なのだ。そんな2人の言い争いはいつまでも続きそうで、すこしずつ周りの空気を悪くしていった。黙って聞いているというだけではすまなくなり、俺が仲裁に入ろうとすると、それより少し早く羽衣が怒鳴り声をあげた。


「2人とも、いいかげんにしなさい!」


 羽衣が俺以外の人に言うのは珍しい大きな声だった。


「まりえ、先ずは退きなさい!l

「はっ、はい。羽衣ちゃん……。」


 羽衣の迫力に気圧されてまりえは慌てて車を降りようとしたが、シートベルトをしたままで、胸に支えた。かわいい。それからやっと外して車から飛び降りた。これを奈江は援軍と思い喜ぶのだが、そんな奈江に対しても羽衣の怒鳴り声は続いた。


「奈江、勝手に乗らないの」

「えっ、駄目なの!」

「当たり前でしょう。皆助手席が良いんだから」

「イヤだ、イヤだ! マスターの隣じゃなきゃイヤだ」


 奈江が駄々をこねても、羽衣の怒りは収まらなかった。そんな興奮気味の羽衣に対してはっきりモノが言えるのはあゆみだけだった。


「じゃあ、助手席には羽衣が乗るの?」

「そんなの、景虎くんが決めることよ」


 その問いに羽衣は俺を右手で指差して言った。左手は腰にあてていて、その様はまるでランウェイでターンを決めたファッションモデルのような自己顕示欲もあり、クラーク博士のようでもあった。かわいい。俺は突然のご指名にたじろいでいた。俺には抱く大志などないのだから。それを見て面白がりはじめたのがいる。あゆみと優姫とあおいちゃんだ。


「それは面白そうね」

「代わり番こなんていうのはなしですよ、マスター」

「さあ、景虎くん。私達の中から好きな子を選ぶのよ」


 3人とも羽衣の真似をしているものだから、圧迫感が半端ない。誰を選んでも角が立つ。俺にとっては攻略不可能な無理ゲーに思えた。そもそも誰を隣に乗せても身に余るほどの光栄なのだが、俺は困り果てた挙句そのままの気持ちを伝えようと思った。しかし、それさえも羽衣に封じられてしまう。


「選べないなんてのも、なしよ!」


 全く、幼馴染ほど厄介な存在はない。俺の考えていることを全て見通されているようで、恐ろしい。俺は遂に言葉に窮した。誰も選ばないまま数分が過ぎた。その時、俺の目の前に侵略者が現れた。おっぱい星人だ。


「アラー、コノ前ノマスターさんデハナイデスカ!」


 でっ、出たー!

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