第12話

 観賞魚のコーナーは、金魚達にとってはとてもエキサイティングなものだったようだ。水槽もエアレーションも砂利も、全てが懐かしいのだろう。そこで、俺は金魚達にある提案をした。それは、我が家で1匹の金魚を飼おうというものだった。今回も含めて、まりえの天活は失敗続きなので景気付けの意味もあった。金魚達は大喜びしてくれた。


「わぁーい!」

「金魚を飼うだなんて、夢みたい!」

「身に余る光栄とはこのことね」

「マスターは本当に金魚がお好きなのですね」


 金魚選びは、4人の希望を別々に俺が聞き、最終的には俺が決めていいことになった。それで4人から欲しい金魚を聞いてまわると、不思議にも優姫とあゆみと奈江は同じ水槽の同じ金魚を指名した。そして最後のまりえも、同じ水槽に向かった。


「私、この子が欲しい!」


 そう言ってまりえが指差したのは、皆と同じ金魚だった。水槽内にはたくさんの小赤という金魚がいるのだが、4人が指名した個体は同じものだということが、俺にはなんとなく分かった。水草の周りをグルグル動き回っているが、他の金魚達に比べて元気がない。どこか群れからはぐれていてひとりぼっちなのだ。俺は、まりえに聞いてみた。


「でも、どうしてこの仔なの?」

「なんだか、愛おしくって」

「1番安い金魚だよ」

「あら、金額なんて気にもしませんでした」


 まりえは少し気まずそうにしながらも、基本笑顔でそう言った。金額のことを少しは気にしていたのだろう。全く気にしないのは嫌なものだが、気にされるのも嫌なものだった。そんな俺の気持ちを汲んで、気にしていないフリをしてくれている。俺はそう解釈して、かえって惨めになった。まりえはそんな俺の様子を見逃さなかった。ありがたいことで、俺を慰めるために優しく、本当の理由を話してくれた。それは、かえって俺を傷つけることになったのだが。


「だって、この小赤はどことなくマスターに似ているんです」

「どことなくって?」

「のんびり屋さんで」

「うん、うん」

「流されてて」

「ははは……。」

「放っておいたら、食べられちゃいそうで……。」

「……。」

「だから、持って帰りたいんです」


 小赤、エサ用、1匹8円。金魚達からみた俺のグレードはその程度なのだろう。オスとしての評価をされていないのだろう。客観的にみればそんなものだろうか。俺自身に何か特別な能力があるわけではないのだから。今はまりえの天活に付き合っているが、その活動を通して俺自身の能力や可能性をなんでも良いから見つけたいものだと思った。そして金魚達のマスターとして一流になりたいと思った。

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