第7話
「福引券もらえたし、買い物はしなくても良いんじゃない?」
「そうはいきません。福引1回分の買い物をする約束です」
俺は完全に否定されたが、何も言い返せなかった。確かにあゆみの言う通り約束をした。言葉の綾である。だが、既に補助券は15枚あり、ちょうど3回もガラガラを回せるのだ。わざわざ買い物をする必要はない。商店街での買い物は楽しいのだが、苦痛もある。だから説得を試み言葉を探していた。そこへあゆみが先手を打ってきた。
「だから、5000円分のお買い物をしましょうね、マスター」
反論はできなかった。こうなっては仕方がない。俺はいつも以上に買い物を楽しんだ。
はじめに寄ったのは『へまち』という鯛焼き屋で、ここでは毎日買い物をしている。このへまち、2週間前に資金繰りがショートし、今は俺がオーナーをしている。だからおまけをされても嬉しくはないのだが……。
「いらっしゃい。今日の当番はあゆみちゃんかい!」
「こんにちは。店長!」
「相変わらずお綺麗で!」
俺の苦痛が始まった。苦痛とは、おまけが沢山付いてくることだ。しかもそのおまけの方が量が多い。1000円ほどの買い物で、3000円分くらい手に入るのが相場だ。それは嬉しい。だけど、持って帰るのも一苦労なのだ。だから、今日のように5000円分も買い物をすれば、両手が塞がるのは目に見えている。オーナーになってみると、こういうおまけは申し訳ないというか、身につまされるのだ。店長にはおまけはするなと厳しく言ってあるのだが、一向に聞こうとしないのだから困ったものである。悪い人ではないのだが。
「わぁ!クリームと豆乳。いつもありがとうございます!」
あゆみは上機嫌に言った。俺は1050円を支払い、わざとらしくため息をつきながら3500円分の鯛焼き21個と補助券2枚を受け取った。補助券にしても本当は1枚のはずだが、これもおまけする念の入れようだ。おまけは気になるがあゆみが喜んでいるから善としよう。
この後も、総菜屋・焼き鳥屋・ケーキ屋と、食べ物屋さんばかりを巡り、その度におまけを貰い、気が付けば俺の両手は一杯になっていた。
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