第2章 福引編

第5話

 あゆみの勘は鋭い。逆らわずに行動すると良いことが起こる。


「マスター。次の交差点、右に曲がってみませんか」

「遠回りになるけどいいの」


 右に曲がっても辿り着くことは出来るが、真っ直ぐ進むいつものコースが商店街までの最短ルートなのだ。曲がったところで大使館ばかりで、何もない。


「いや、何となくですが、その方がいいような気がして」


 俺はあゆみの何となくに付き合うことにした。


「じゃあ、曲がってみようか」

「やったー」


 あゆみは曲がるという口実を得て、右にいる俺に体重を預けると、左腕がぎゅっと2つの柔らかいもに挟まれる。二の腕と胸の柔らかさの違いは、はっきりと意識することが出来た。それほどに、あゆみの胸は大きく張りがあって柔らかい。俺はとても幸せな気持ちになった。


 あゆみの言うがままに行動してみると、不思議と幸せなことが起こる。金髪ロングストレートのグラマラスな女性が、困った顔をして俺に話しかけてきた。俺はこういう時に幸せを感じる。


「スミマセン。ミチヲオタズネシタイノデスガ」


 イントネーションは無茶苦茶ではあるが丁寧な言い回しをするのは、この辺りの大使館員の特徴である。


「アメリカノタイシカンハ、ドチラデショウカ?」


 少し違和感があった。大使館員なら、普通は大使館までの道を聞かない。だけど、それを主張するより前に、俺の鼻の下は伸びきっていた。警戒心を強めたあゆみが腕にグッと力を込め、柔らかさを再確認できたこともその理由ではあるが、はっきりいえばこの女性は美人だった。


「直ぐそこですよ。ご案内いたします」

「アリガトウゴザイマス。ニホンノミナサンヤサシイデス」


 俺の右腕は、左腕と同じような状況となった。案内すると言っただけでここまで密着してくるとは、アメリカは大らかなお国柄なのだろう。


 しばらくして互いに自己紹介を済ませた。この女性はキャサリンといい、アメリカの大統領の命令で日本に初めて来たらしい。出迎えの職員とはぐれ途方に暮れていたのだという。日本語が上手なのは、大統領の側近に日本人がいて、毎日習っていたからだという。キャサリンは、その男性はとても魅力的で、妻子ある身だが、隙があれば略奪しようと考えているのだという。アメリカは実力主義のお国柄なのだろう。

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