第10話
「まずは初めまして。
私はサマー。
ミリーとメイは久しぶりね。最後に会ったのは、2ヶ月前かしら。
再開を喜びたいところだけど、2人は少し外してくれる?」
美女の目が妖しく輝いた。
「えっと、お邪魔なら、少し外します」
「いや少しでは終わらないだろう。我々は明日来るので、ごゆっくり」
メイとミリーがサマーを見て苦笑いしてながら答えた。
「ごめんなさいね。
この埋め合わせは必ずするわ。
あっ、忘れる前に、紹介状を出してもらえる?
あなたたちを雇うことは決めたから」
「どうぞ」
ミリーが紹介状を渡すと、サマーはペンでサインした。
すると、紹介状が僅かに光り、ペラリペラリと紙が剥がれて、3枚になる。
サマーがそのうちの二枚をミリーに渡した。
「この一枚はギルドに依頼を受注した控えとして提出する。
あとは依頼者と依頼を受けた冒険者がそれぞれ保管するんだ。
これで、トラブルを防いでいる」
ミリーが我と桜に説明してくれた。
「それじゃあ、何というか、頑張れ」
「大変かもしれないですけど、サマーさんに悪気はないですし、いい人ですから、頑張ってください」
含むところがありそうな言葉を残して、2人は部屋を出ていった。
「それじゃあ、話を聞かせてもらいたいところだけど、もう少しだけ自己紹介をさせてもらうわ。
私の専門は迷宮と異世界よ。
貴方達の力になれそうかしら?」
「どういう、意味ですか?」
桜が若干警戒するように聞き返した。
「貴方達2人とも、異世界から来たのでしょう?」
天使のような美しい笑顔でサマーは笑った。
「我はこの世界のエルフだぞ?」
「嘘っ⁉︎」
サマーが立ち上がって身を乗り出し、我を見つめる。
やはり、エルフよりも、顔が整っているな。
しかも、同じ黒髪なせいか、どことなく桜に似ている。
「おかしいわ。
この世界のエルフと特徴が合わない」
「そこのエルフは、無視して構わないと思いますよ。
とりあえず、私はそうです。
名前は、海堂桜といいます。
ぜひ、お話を聞かせてください」
桜が我に失礼なことを言いながら、サマーに頭を下げた。
サマーが我をガン見しながら、少し身を引いた。
「貴方にすっごい興味があるのに、そこのエルフの方が気になるわ。
ぜひ、解剖、じゃなくて解析したい……‼︎」
最後の方は聞かせるつもりがないのか、だいぶ小さな声で呟いていた。
こいつ、危険な奴だな。
「あの?」
「あっ、ごめんなさい。
まずは座って」
サマーがそういうと、何もなかった場所に3人掛けのソファが現れた。
ちょうど、サマーが座っている椅子と向き合う形だ。
「飲み物は、紅茶、緑茶、コーヒー、あとは水があるけど、どれがいいかしら?」
「では水をもらおう」
「えっと、私は紅茶をお願いできますか?」
我たちとサマーの間に、小さなテーブルが現れ、我の前には水が入ったコップも現れた。
「紅茶は2分ほどかかるけど、いいかしら?」
「もちろんです」
サマーはちょっとだけ残念そうな顔をした。
「どうした?」
「いえ、大抵の人はこうやって、テーブルや飲み物を用意すると驚いてくれるのだけど、
あなたたちは反応が悪いわね。
まあ、いいわ。
本題に入りましょう。
まずは桜ちゃん、あなたの話を聞かせて」
桜が少し困ったような顔で口を開いた。
「話しといっても、どこから話すべきなのか……」
「少しでも、この世界への転移に関係のありそうな話なら、全部話してくれるかしら?」
「それなら、まず、私の世界で起きた話をします。
私の弟の本が7日ごとに消えるってことが、1年続いたらしいんです。それで、私が疑われて、暇な時に、弟の部屋を家捜ししたんですよ」
「えっと、桜ちゃんの弟って、1年間もそんなことが起きたのに、対応しなかったの?」
「私が借りていってるって、本気で信じてたみたいなんです。
それで、私が暇だったから、真相をつきとめようとしたら、気がついたらここにいました」
ん?
ちょっと待て、我が聖書を拾ってから100年ほど経過している。
桜の話が本当なら、あの聖書は、桜の弟君のものではないな。
「それで?」
「どうやら、メロスが訓練しているところに弟の本が流れついていたみたいで、私も同じように流れ着きました」
「メロスが拾った本って、どんな本なのかしら?」
「いや、我はてっきり桜の弟君の聖書だと思っていたが、違ったようだ」
「どういうこと?」
「いや、あまり不思議には思わなかったもので勘違いしていたが、桜の話と、我が聖書の受け取り日には、大きな100年の開きがある。
だから、あの聖書は弟君のものではないな」
「ちょ、ちょっと待って。
どういうこと?」
「言った通りだ。
我が聖書を拾ったのは、今から102年前。
桜の弟君が聖書を失くしたのは、2年前からなのであろう?
ならば、同じ聖書でないはずだ」
「そんな訳ないよ。だって発行年数は同じだったから」「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」「あっ、すみません。2人だけで話してしまって」
「いいのよ。
すごく興味深い話だったから。
でもとりあえず、ひとつ話をさせて。
実は私、異世界転移について、ある仮説を立てているのよ。今はその裏付けを主にやっているわ。
2人の話は、仮説の裏付けになりそうなの。
桜ちゃんにとっては、とても悪いことにね」
「それは、どういう意味ですか?」
「まだ仮説だから、実験と検証が終わったら話すわ。
その結果次第で、元の世界に帰ることも可能かもしれないけど」「本当ですか⁉︎」「ただ、その検証のために、一つ必要ないものがあるの。
今回の依頼を少し変更して、一緒に取りに行かない?」
その言葉と同時に、桜の前に紅茶の入ったカップが現れた。
「……あっ、ごめんなさい。
紅茶を入れていたのを忘れていたわ。
冷めちゃったわね」
「いえ、気にしないでください。
猫舌なので、ちょうどいいくらいですよ」
桜が気を使う。
それを聞いて、サマーは少し冷静になったようで、長い息を吐いた。
「……そうよね、ミリーとメイにも話を通さないといけなかったわね。
詳しいことは明日、話しましょう」
エルフは筋トレ本を拾った。 →聖書として崇めた。→筋力が上がった。 青桐 @Kirikirigirigiri
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