第9話

「なんにせよ、今メロスさんに発行できるランクは、4 。

それは変わりません。

ですからボランさん、早く、桜さんの試験をしてあげてください」


シエラが騒いでる人たち全員を、諭すように言った。


「しかしだな」


「いいから」


「男が」「黙れぶちのめすぞ」「はい」


シエラがボソッとボランの耳元で囁いていた。

その瞬間、ボランはやや緊張したように見える。

やはり、シエラの方が強いようだ。

なぜシエラはギルドの受付嬢をやっているのか。まあ、そのうちボランと一緒に聖書を読ませよう。

新たに決意していると、シエラが、あっと口を開けた。


「っとすみません。

そういえば、メロスさんに殴られてるんでしたね。

ボランさん、体に支障がありませんか?

もし試験官ができそうにないのであれば、別の方に、桜さんの試験をお願いしますが」


ポランは平然と立ち上がった。

まあ、傷つけるような拳を喰らわせたのではない。

ただ、少しの間動けなくなる程度の一撃を当てただけだ。

起き上がれて当然だろう。

ポランは腹に触れたり、グーパーと手を動かしたりして、体を確認している。


「問題ないな。

じゃあ、桜といったか?

お嬢ちゃんの試験をやろう。

それが終わり次第、メロス殿の件を」「どうにもなりませんよ」

「チッ。

仕方ねぇ。

本当に申し訳ない、メロス殿。

約束を守れそうにねぇ。

この詫びは後でいくらでもしよう。

まずは、桜の試験をやらせてくれ」


「気にするな」


まあ、ミリーかメイに協力してもらえば、迷宮学者とやらに会えるのだ。

ランクは4あればいい。


「恩に切る。

……さてと。

じゃあやるか、桜とやら。

あんたは、魔法を使うようだな。

使う属性と、クラスを教えてくれ。

もちろん、答えられる範囲でいいからよ」


「属性とクラス、ですか?」


桜がキョトンとした顔でボランを見る。

それを見て、ボランが胡乱な目をした。


「おいおい、嬢ちゃん。

魔法使いなんだろ?

いくらなんでも、属性もクラスも知らないってことはないだろ?」


ボランの問いかけに、桜は首を振った。


「マジか⁉︎

もしかして、エルフに魔法を教わったのか?」


桜が気まずそうに頷いた。

そして、我の方をやや恨めしそうに見た。

ちなみにだが、桜のことは拳で語っていない。

だから、この質問が必要なのだろう。


「……嬢ちゃん。

俺が土魔法で的を作るから、それに魔法をぶち当ててくれ。

その結果次第で、どんな試験にするかを決めるわ」


ボランは、ガシガシと頭を掻きながら——ツルツルと撫でながらの方が正しいかもしれないな——少し我を呆れたような目で見た。

そして『土王の盾』と呟いた。

その言葉と共に、巨大な土の壁が、ボランの後ろに現れる。


「さっ、これをぶち壊すつもりで魔法を使ってくれ」


「わかりました」


桜が片手を土壁に向かって向けると、バンと音がなった。

そして、壁が粉々になった。


「おい、嬢ちゃん。

なにをしたんだ?」


「空気を押したんです。

それで発生した衝撃波を、壁に全部当てました。

少しだけ、音が漏れちゃいましたね。

うるさかったら、ごめんなさい」


そういえば、前に桜が言っていたな。

真空とやらを作って、その大気の圧力とやらを、操る魔法を作ったと。

その時と同じ気配を筋肉が感じた。

多分同じ魔法だろう。


「そう、か。

まあ、風属性の王級かそれ以上の魔術師ってことでいいだろう。

桜はランク4スタートだ。

おめでとう。

メロス殿、桜、ドッグタグを出してくれ」


桜がボランにドッグタグを渡した。

我もさし出そうとしたが、シエラが制した。


「あっ、メロスさんのはすでにランクを発行していますので、桜さんだけお願いします」


「そうなのか、わかった。

じゃあ、これでいいな」


ボランが受け取ったドッグタグに、小さな水晶を近づけて、そして桜に返した。


「ありがとうございます」


「それでは、サマーさんの依頼を受けるんですよね?

手続きをしますので、カウンターに行きましょう」




手続きはすぐ終わった。

ドッグタグを全て回収して、水晶にかざすだけだった。


「それでは、こちらの紹介状を持って、国立研究室に向かってください。

ミリーさんとメイさんは、場所はわかりますね?

一応、メロスさんと桜さんには断っておきますが、あくまで実際に依頼を受けられるかは、依頼者の方次第ですので、あらかじめご了承ください。

それでは、幸運を」



「それじゃあ、ついてきてください」


メイが歩きだした。

その後ろをミリーと桜がついて行く。

我はその後ろを、軽く鍛えながら追う。


「そういえば一つ聞き忘れてた」


桜が思い出したように言った。


「どうした?」


「魔法の属性とクラスってなに?」


ミリーとメイが桜を見て、目をパチパチした。


「桜は、そうか。

メロス殿から魔法を教わったんだったな。

それなら、メイの方が詳しいから、メイが説明してくれ」


「はい、じゃあ僭越ながら、私が説明しますっ」


メイが嬉しそうに答えた。


「私たち人が使う魔法は、古代神聖連合王国式と呼ばれている魔法体系です。

長いから、古代式て略されてますけどね。

昔、各種族が敵対してた頃、人だけが暮らした国があるそうです、

その国の名前が、神聖連合王国です。

魔法の研究が盛んで、今よりも魔物が溢れてたこともあって、使える魔法で階級が決められていたんですよ。

偉い順に、神、教皇、王様、将軍、兵、民と。

やがてその階級を意識づけるために、魔法の詠唱にも、階級を組み込みました。

やがて、その王国ほ滅びるんですが、魔法技術は残りました。

その魔法の詠唱がどんどん、短く、効率的に進化していって、今に繋がっているんです。

その名残で、例えば、土属性なら、『土神の〜』『土皇の〜』『土王〜』みたいに詠唱します。

火属性なら、『火神の〜』『火皇の〜』『火王〜』ですね。

それで、使える魔法の階級を、クラスと呼んでいて、魔術師はそのクラスで戦闘能力を判断されることが多いんです。

ちなみに、私は将級魔術までしか使えないので、将級魔術師ですよ」


メイがちょっと恥ずかしそうに笑った。


「いや、魔術師も成長していくものだ。

メイはまだ16歳だから、かなら優秀な方なんだよ」


ミリーがフォローするように言う。


「でも、ボランさんは、剣士で王級魔術士でもあるんですよ」


「へえ、すごい人なんだね、ボランさんって」


桜はあまり興味がなさそうだった。


「まあ、桜さんをあえて古代式に当てはめると、皇級魔法使いだと思いますから、あまり凄いと思えないかもしませんね」


メイが苦笑する。


「あっそうだ。

これから会いに行く、サマーさんってどんな人なの?」


桜が聞く。


「サマーさんは、いい人だよ。

ちょっと研究熱心過ぎる部分もあるけど」


「でも、研究熱心だからこそ、こうして会いに行けるんです。

サマーさんは珍しいものに目がないんです。

だから、私たちみたいな冒険者と知り合うために、わざわざ依頼を出してるって言ってましたよ」


「サマーさんは、本来、中々会えないくらいすごい魔術士だからな」


「そうなの?

えっと、まあ聞いてもよくイメージができないけど、一応聞くね。

サマーさんは、何級の魔術士?」


「サマーさんも、桜と同じ、規格外の魔術士なんだ。

桜と同じく、クラスがわからない。

ただ、エルフですら使えない、空間魔法を使えるんだ」


「空間魔法?」


「唯一の空間魔法の使い手だからこそ、異世界に興味があるんじゃないですか?」


そんな風な話をしていると、大きな門の前まできた。

門番に紹介状とドッグタグを見せ、門をくぐり、大きな建物に入る。

そして、建物の中を迷いなくメイは進んでいった。


「この部屋です。

いつも、この部屋でサマーさんは研究してるんですよ」


メイがドアをノックした。


「どうぞ」


中から声が聞こえた。


メイがドアを開けると、座り心地の良さそうな大きな椅子にすっぽり座っている、桜に少し似た美女が笑っていた。

桜と同じく、長い黒髪だ。

桜との違いは、色気だな。

胸が大きい。


「あら、嬉しい再会と、嬉しい出会いね。

4人とも、会えて嬉しいわ」

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