第5話

「その娘は、仲間か?

まあとにかく助かった。

色々文句を言いたいこともあるけど」


女冒険者は笑う。

改めてみると、髪の毛はピンク色で白い肌の美人だ。胸はそこそこある。妙齢の美女だ。

毒でやられた少女の方は、まだ倒れたままだが、眠っているだけのようだ。

寝ている少女の方は、髪が青い。

胸がとても大きく、普通の呼吸をしているだけなのに、僅かに胸が揺れる。

その胸を、桜が一瞬、親の仇のように睨みつけた。しかし、一瞬で切り替えた。


「いえ、たぶん、そこの筋肉エルフがご迷惑おかけしたかと思います。

悪気はないので、許してください」


桜が軽く頭を下げた。


「いや、彼には本当に助けられた。

彼がいなければ、メイは死んでいただろう。

少しいたずら好きのようだけど。

彼は、私たちの恩人だ。

っと、すまない。

そういえば、あなたたちの名前すら聞いていなかったな。

私はミリー。

あなたに助けられたのは、メイだ。

よければ名前を聞かせてもらえないか?」


「我はメロス。

彼女は桜だ。

よろしく頼む」


「よろしくお願いします」

桜も頭を下げる。


「我とあった時とは、だいぶ態度が違うな」


「あの時は、余裕が無かったから。

筋肉に圧倒されたんだよ」


「ははっ。

たしかにな。

体はエルフに見えないし」


ミリーが笑っていると、「んんっ」と声が聞こえる。

メイが目を覚ましたようだ。


「あれ、私?」


「起きたか、メイ。

彼が解毒剤をくれたんだ。

お前も礼を言った方がいい」


「あっ、そうなんですか。

本当にありがとうございます。

死んじゃうんじゃないかな、って痛みが、綺麗に消えました。

いやー、キラービーって本っ当に痛いですね」


ヘラっとメイが笑う。


「メイ、お礼が軽いぞ。

まったく。

ってそうだ、忘れていた。

とりあえず約束通り、有り金を全て差出そう。

命を救ってもらった恩が、この程度で返せるとは思わないが、とりあえず受け取ってほしい」


ミリーが懐から袋を取り出した。

その袋を開けると、金貨と銀貨、銅貨が入っている。


「えっ、有り金全部?」


「ああ、入り用だろう。

ほら、桜」


我は受け取った袋を、そのまま桜に受け渡す。


「えっ?

なんで私に?

それに、状況がいまいちわからないんだけど、これは私が受け取っていいの?」


桜は混乱している。


「ああ、好きにするといい。

我は我で、多少の金はある。

桜にやろう」


「ミリーさんも、いいんですか?」


「メロス殿のお金だ。

どうするかは彼の自由だよ。

それと、敬語は不要だ。

彼に接するように、私たちにも接してほしい」


「えっと、それじゃあ聞くけど、このお金を全部もらっちゃうと、ミリーさんは困らないの?」


ミリーは苦笑する。


「ああ、全ての財産を差し出したわけではないからな。

町の通行税は、メイに立て替えてもらうから、心配はないさ」


「うーん。追い剥ぎみたいな真似は、ね。

じゃあ、半分だけもらうよ」


「命の恩だ。

全額でも安いくらいなのだが」


「いいから、ね」


桜の目を見つめたミリーは、申し訳なさそうに半額を受け取った。


「ありがとう。

ああ……ところで、メロス殿の姿が時々霞むだが、幻惑魔法でも使っているのか?」


「えっ、魔法を使っている気配はないけど。

気のせいじゃない?」


メイが不思議そうに首を傾げた。

それを聞いて桜がクワッと目を見開いて、我を見る。

何か魔法を使っているようだ。


「ミリーさん、すごく目がいいね。

はぁ。いつも言ってるでしょ。

真面目な話をしている時にくらい、筋トレはやめなさい」


「己の筋肉を鍛え上げているだけだ。

それに、気がついていないんだから、問題なかろう」


ミリーとメイが不思議そうな顔をする。


「話が見えないのだが」


「ああ、ごめん。

そこの筋肉エルフは、スクワットしながら歩いてるんだよ。

速すぎて相当動体視力が良くないと、違和感すら感じられないけど」


ミリーとメイが一瞬固まる。

そして、笑う。


「面白いですね、桜さん。

そんなバカなことあるわけじゃないですか」


「なかなか面白い冗談だ」


冗談として、話を流した。

実際にスクワットをしているのだが、2人が気にしないならいいだろう。


「あっ、そうだ。

もしブォーンの街に向かってるなら、ご一緒しませんか?」


「そうだな、桜とメロスさえ良ければ、一緒にどうだ?」


ミリーとメイの申し出に、桜が困ったような顔をする。


「えっと、私たちって、ブォーンの街に向かってるの?」


「ああ、たぶんな」


「たぶん?」


「筋肉の多い方へ向かっていたんだ」


もちろん動物ではなく、人の筋肉の数が多い方へと向かっていた。

メイとミリーはじっと、我を見つめている。


「なあ、これはジョークなのか?」


「ごめん、間違いなく本気。

メロスってこういうエルフなの」


「そう、なんですか」


なんとも言えない沈黙が流れた。

不思議な時間だ。


「桜たちは、何をしに街に行くんだ?」


ミリーが話を変えた。


「ちょっと知りたいことがあって」


「異世界について詳しい学者を探している」


桜が元の世界に帰るために、その道の学者が必要だろう。


「異世界、ですか。

あっ、それなら、1人心当たりがありますよ」


メイが満面の笑みでいう。


「彼女を紹介するのは無理だろう。

メイ、奴は依頼を受けた冒険者にしか会わない」


ミリーがたしなめた。


「あっ、そっか」


「その話詳しく聞かせてくれない?」

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