第4話

桜は1年間、魔法の訓練をした。

そして、かねてから考えていたことを口に出す。


「ねえ、メロス。

そろそろ帰る方法を探しに行きたいんだけど」


「「「「「「「ああ、わかった。

では、桜の準備が出来次第、行こうか」」」」」」」」


桜は少しうんざりした。

メロスは、残像を残しながら筋トレをしている。

その状態で話を聞いているのだ。

そのせいで、あちこちから声が聞こえる。

そのうえドップラー効果まで起きて、めちゃくちゃ沢山の返事が聞こえた。


「あのさ、人がマジな話してくる時くらい、筋トレやめてくれない?

いちいち、残像残して。

私の目には、100人くらいのあんたに囲まれてるように見えるから。暑苦しいのよ」


スクワットをしているメロス、腕立てふせをやっているメロス、腹筋をやっているメロス等々。

筋トレの見本市みたいになっている。

そんなのがあるか知らないが。


「やれやれ。

しょうがない」


全てのメロスが1つになった。

ただ単に高速移動をやめただけで、すごいことをしたみたいに聞こえる。


「筋肉へ捧げる運動は、緩急が大事だと聖書に書いてあるのに」


「はぁ。

まあいいや。

一応、準備は終わったから、今すぐにでもいけるけど、いい?」


「ああ、いつでも準備はできている。

我が持っていくのは、この筋肉さえあればよい」


「そう、ならよかった。

行きましょう」


そういえばと、桜は思う。

メロスの宝物、彼曰く聖書はこのままでいいのだろうか。

一応、希少なものだろう、たぶん。

盗まれたりは、まあ、謎の第六感で感知しそうだな。

いいや、聞かなくて。


「さて、どうする?」


「ん、何が?」


「いや、ランニングかジョギングか、移動手段の話だ」


「うん。

その二択はおかしいと思う。

どちらも却下。

私じゃ追い付けないから」




人の町に向かって2人が歩いていると、悲鳴が聞こえた。


「何?」


桜が驚くと同時に、メロスは走っていた。


———女冒険者視点———


「キャーーーーーーーーー」


メイが痛みで叫ぶ。

キラービーの毒は凄まじい痛みだと聞くが、メイがあそこまで叫ぶなんて。

くっ。

まさか、キラービーの大群に襲われるとは。

女王がいるということか。

メイを庇いながらでは、ジリ貧だ。

なにより、毒をどうにかしないと、メイは死んでしまう。

薬が必要だ。だが、キラービーの毒は特殊な解毒剤が必要だったはず。

もちろん、そんなものの持ち合わせはない。

しかも、あの叫びで他の魔物も寄ってくる。

妹同然のパートナーが死ぬ。

嫌な汗はいくらでも出てくるが、打開策は全く浮かばない。

焦っていると目の前に、キラービーが針を剥き出して迫っていた。

やばい。

ドン。

視界内のキラービーが、全て地面に叩きつけられている。

なんだ、何が起きた?


「大丈夫か」


後ろから声が聞こえた。

振り向くと、顔の整った筋肉が喋った。

違う、エルフだ。

エルフってこんな筋肉だっけ。

屈んでメイを抱き起こし、様子を見ている。

そうだ、謎の筋肉エルフはこの際どうでもいい。

メイは、メイは大丈夫なのか。


「キラービーに刺されたか」


筋肉エルフが呟く。


「解毒剤を持っていないか、エルフ? 殿」


イントネーションがおかしくなったのは、わざとじゃない。

そんなことより、メイだ。


「持っていない」


「そんな」


もうダメだ。

ここから街までは数時間はかかる。

また叫んでいるメイに、私ができることは、ない。


「だが、この毒に効く薬草の群生地が、エルフの集落の近くにある。

少し待て、取ってこよう」


「間に合わない」


エルフの集落がこの辺にあるとは聞いたことがない。

どう考えても、もう間に合わない。


「ほら、これだ」


青々とした、変わった形の葉っぱがエルフの手のひらにあった。


「持っていたのか⁉︎

それなら始めから、出してくれていれば……。

そうか、金か、金ならいくらでも払うから、それをください」


きっと、金を要求するために焦らしたんだろう。

少しイラつくが、メイが助かればいい。


「金、か。

まあ一応もらうか。

桜も入り用だろうし。

それはともかく、これは君にあげるために持ってきたのだ、遠慮なく受け取るといい」


「感謝する」


慌てて薬草を受け取る。


「それで、どうすればいいんだ」


「乾燥させて、粉末を刺された場所に塗ればいい」


「思いっきり、採れたてみたいじゃないか⁉︎

私に乾燥させる魔法は使えない。

これでは……」


膝の力が抜ける。

メイは、助からない。


「そうか、ならば任せろ」


「そうか、エルフは魔法が得意だったな‼︎

頼む、これに魔法をかけてくれ」


「すまないが、魔法は使えない」


何を、何を言ってるんだ。

このエルフは、元から、メイを助けるつもりなんてなかったんだろう。

なんて性格の悪いエルフだ。

希望をみせて、絶望に落とす。

これが、これが、エルフか。

私の手から、薬草を落ちた。


————-メロス視点—————


取ってきた薬草を女冒険者は、地面に落としてしまった。

薬草を拾って、何万回か振る。

よし乾燥した。

そして、粉砕して粉にする。

これでいい。

あとは、少し水を混ぜて、患部に塗るだけだ。

ちょっとエルフの森の、綺麗な水が湧いている所まで行った。そして、少しだけ水を混ぜて練る。よしできた。

そして、倒れて悲鳴をあげている少女の所に戻った。

刺された場所は、首筋だ。

なぜか、女冒険者は力が抜けているようだから、我が塗るか。


「えっ?

薬草が、塗り藥になった?」


「すまないが、少し触れるぞ」


粉末を塗り込んでやると、倒れて叫んでいた少女は、静かになった。

顔も安らかになっていく。


「はあ、やっと追いついた。

私も相当速くなったんだけどね。

まだまだ追い付けないや」


桜が追いついた。

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