影の功労者・2


 はじめは、馬を扱うリューマの少年ということで、誰もタカを使おうとはしなかった。しかし、あまりに必死に頼み込むので、元々気がいい台所当番たちは、一日だけ様子を見るということにしたらしい。

 使ってみると、タカは小さなわりには力があるし、よく働く。

 しかも、台所に時々出てはみんなに悲鳴を上げさせるねずみの退治もしてくれるし、リューマ族らしく、肉の扱いが得意だ。汚れた嫌な仕事も、ニコニコ引き受けてくれる。

 そのうえ、小さくてひょうきんな顔をしているので、いつのまにか人気者になっていた。


 レサの驚きはそれだけではない。


 タカは、養護院のほうも手伝っていて、いまや子どもたちのアイドルとなっていた。持ち上げたり、振り回したり、やや過激な保父ぶりは、他の保母たちをビクビクさせてはいたが、子どもたちは喜んでいた。

 タカがレサのしていることで手が出なかったのは、王族の部屋掃除と学校へ行くこと、そしてシリアの話し相手くらいだった。

 色々な失敗もしでかしたらしいが、タカの持ち前の明るさで、誰もが笑い話にしてしまったらしい。

「レサが戻ってきてくれてうれしいけれど、いない時もそれなりに愉快だったわよ。タカって、本当にいい子ね。レサのこと、本当に好きなのね」

 保母の一人が微笑んだ。


 タカのおかげで、どこででもレサの心配は徒労に終わった。

 レサは心からありがたいと思った。本当に泣けてしまうほど。

 でも、同時に困ってしまった。

 そこまで一生懸命してもらっても、レサが好きなのはセルディなのだ。なのに、周りの人たちはタカとの関係を怪しんでいる。

 まだ心配して様子を見にやってきては、時に手伝ってくれるタカに、誰もが無責任なエールを送ってしまう。

 そのたび、素直なタカは真っ赤になって、笑われているのだ。


 ——暇を作って、お礼にいかなくちゃ……。


 仲間のお見舞いがあったから、そしてタカのお手伝いのおかげで、今の幸せなレサがいる。レサは本当に心からそう思う。

 それに……。

 タカが引っ張ってきてくれてから、セルディもお見舞いにきてくれるようになったのだ。

 ほんの少しの時間だったが、セルディは毎日顔を出してくれるようになり、学校に行けないレサの勉強を見てくれたりした。

 今まで見たことのないセルディの別面を見て、レサはますます彼に対する想いを深めてしまった。

 驚くべき知識量と美しい筆記、そして、狩の時が嘘のような穏やかな空気を、王子は持ち合わせていた。


 レサにとって寝込んでいた時間は、幸せな時間だった。

 ゆえに、反動で、より申し訳なく思ってしまうほどに。


 だが、レサの足はやや重くなった。

 タカにお礼を言ってしまったら、何か期待を余計にさせてしまいそうで……。

 どのように言えばいいのだろう?


「あなたの気持ちには応えられない」


 それでもレサは、みんなの大好きな焼き菓子をたっぷりもって、厩舎に向かった。

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