コップの中の漣
コオロギ
コップの中の漣
「死にそうな人がいたのね」
「突然なに」
「その人はもうどう転んでも近々死んじゃうことは確定で、本人も周りも、そこについてはもう納得済みというか、覚悟もすっかり済んでたのね」
「はあ」
「その人には幼馴染がいて、子供のころからずっと仲良しだったの。幼馴染も、友人の状況はもちろん知ってた。それでね、ある日、その人が幼馴染に言ったの。『お前は、幽霊を信じるか?』って」
「信じてるって?」
「幼馴染は考えて、『分からないよ』って答えた。それに、その人も『俺も分からない』って頷いた」
「真っ当だと思うけどね」
「『だから、俺とお前で、実験をしないか』って、その人は幼馴染に提案をしたの。ベッドサイドの花瓶を指さして、『俺が死んだ後、もしも、俺が幽霊になったなら、どんなことをしても絶対にこの花瓶を倒す。お前はそれを、確認してくれないか』って。幼馴染は頷いた」
「で?その花瓶はちゃんと割れたわけ?」
「…この話は、昔、テレビか何かで聞いた話なんだけどね。結局、どれだけ待っても花瓶は倒れなかったんだって」
「へえ」
「思ったんだよね。それってさ、重すぎただけなんじゃないかって」
「花瓶が?」
「だってさ、幽霊って透けてるっぽいじゃん?どんなに頑張ったってさすがに無理だったんじゃないかなって。だから、これを用意してみたの」
「プラカップ?」
「この水を、揺らしてほしいの」
「…」
「触れなくても、ちょっと風を起こすだけなら、波紋を広げるくらいならできるんじゃない?」
「…」
「いるんでしょ?お願い。いるなら、このコップの水、揺らして」
「…」
「ねえ。いるんだよね?いるはずだよ、お願いだから、返事をしてよ」
「いるよ」
「お願いだよ、いるはずだよ…」
「…お前は気づかないけどね」
幼馴染の零す涙が、ただ空しく、コップの水を溢れさせた。
実験は失敗だった。
コップの中の漣 コオロギ @softinsect
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます