不思議探偵とうわん
田中桃太郎
第1話
ぐにゃりと視界が白く揺らいだ。
ドアノブを回した瞬間、目眩を感じた。
暑さで一瞬気を失っていたのか、それとも緊張で目の前が真っ白になったのか。
「はぁ…」
一度ため息のような深呼吸をして、ゆっくりと扉を開けた。
「すいません」
上擦ってしまい顔が赤くなった。
「すいません」
もう一度聞こえるぐらいで呼んだ。
部屋はしんと静まり返っていた。
緊張で部屋をよく見てなかったが、部屋をよく見ると整理されているようでされてない棚や机が目に入った。
掌ぐらいの玩具のような芸術品のような物が棚に所狭しと粗末に飾られている。
「いないのかなぁ」
そう呟いて部屋を出ようとすると、さっき目に入った棚に飾られている一つの物が目に止まった。
それはガラス玉のカプセルのように見えた。
何となく見ていたつもりなのに、いつのまにか手にとってまじまじとガラス玉の中を見つめていた。
うっすらと暗いモヤのようなモノが見えた気がして、軽く振って見るとモヤが濃くなった気がした。
「何をしているんだい」
突然声を掛けられて、驚いて後ろを振り向くと、男が立っていた。
「それを振るなんて、僕には出来ないな」
ガラス玉の事を言われているのだと咄嗟に気づき、元あった場所に慌てて戻した。
「あの!勝手に入ってしまい申し訳ありません」
上擦った声で顔を赤くしながら頭を下げた。
「気にするなよ」
男はガラス玉をひょいと手に取り呟いた。
ほっと胸を撫で下ろし
「ありがとうございます」
ともう一度頭を下げた。
「こいつに言ってたんだよ」
一瞬何を言ってるのかわからなかったが、どうやら男はガラス玉に話をしていたらしかった。
「それで何の用かな?」
ガラス玉の事で気をとられて話が入ってなこなかったが、慌てて口を開いた。
「あの、友達から聞いて来たんですけど、ここだと信じてもらえないような事も相談に乗ってもらえると聞いて、それで…」
続きが出てこなかった。
自分で言っていて自信が無くなった。
男は間を置いて、顎を人差し指で軽く擦る仕草をして
「今まで寝てたような顔をしているね」
と呟いた。
「えっ…」呆気にとられた。
「まぁこの暑さだ、そんな顔もしたくなるか…」
座りなさいと優しくソファに誘導された。
男もガラス玉を棚に戻して正面のソファに座った。
「信じてもらえないような事と言ったね」
男は顎を人差し指で擦るとニヤリと笑った。
「最初から話してもらえるかい?」
男の笑顔は年の割に無邪気に見え、肩の力が抜ける気がした。
「それでは夏休みの初日に起こった、奇妙な出来事からお話します」
肩で汗をぬぐって話を始めた。
不思議探偵とうわん 田中桃太郎 @momo1026
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