コップの中の漣2
十中八九、私は忘れられている。
放置されて、かれこれもう7時間も経つのだ。
主人と出会ったのは3年前だ。
もともとは、主人の友人からの贈り物だった。
丈夫が取り柄の私は、随分と重宝されている。
いや、確かに、何回か床に落とされたこともあるが、
丈夫なので、壊れたりはしない。
その点を主人も気に入ってくれたのか、
それまでの主力メンバーだった他を差し置いて、
私だけ贔屓にしてくれるようになった。
誇らしく思えた。
最近の主人のお気に入りは、
お手製の甘いカフェオレだ。
季節柄冷たくして飲んでいるらしく、
冷蔵庫という寒くて暗い箱に入る機会も増えた。
中の液体が何であるかは、私としては興味はないが、
主人の好みを私だけが知っているのは、
ある種の優越感に浸ることができる。
熱いときも、冷たいときも、私だけ使ってくれて、
ないはずの私の鼻も高くなるというものだ。
だが、
現在私は忘れられている。
その時がくるのを暗闇で息を潜めて待つ。
扉が開き、光が差し、主人が私に手を伸ばしてくれるその時を。
物音がした。
扉の中からでも、音は聞こえる。
こんなに長く暗い箱に閉じ込められたのは、
初めてだ。
それもやっと終わる。
音がだんだん大きくなる。
近づいているのだ。
扉が開かれ、パッと冷たい箱の中に電気が灯る。
普段はうるさく思う、瓶と瓶のぶつかる音も、
今は鐘の音かと疑うほどだ。
私のなかで、液体が喜んで漣を打っていた。
某自主企画ボツネタ あかいし @yuuissy
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