第七章 女神のヒミツ
「それじゃ、もう少し説明してあげるわ。感謝しなさいよ? ……すっごく面倒だけど」
「お、おう。頼む」
何か余計な一言が聴こえたがもう慣れました。
ついでに言うと、さっきぶりのこの殺風景な空間にも慣れつつある自分が怖い。
マリーの部屋、再びである。
だがさっきまでと少し違うのは、向かい合う俺たちの間にある背の低いテーブルの存在だった。いや、ここまで低いと卓袱台と評するのが正しいだろう。俺はといえば、妙に疲れてしまったので突っ伏すようにだらけきった姿勢を取り、一旦扉の向こう側に引っ込んだマリーが運んできてくれたコップの中の薄茶色いぬるい液体をちびちびと飲んでいた。
「しっかし……」
卓袱台の表面積をすっかり占有している俺の脇には、ラベルに《イート=ウェンのミスリル麦茶》と書かれたペットボトルがどーんと無造作に置かれていた。足りなければ勝手に継ぎ足して飲め、と言うことらしいのだが、希少鉱石であろうミスリルから一体どんな成分が滲みだしているというのだろうか。はなはだ疑問である。
にしてもペットボトルって……ま、異世界だから問題ないか。
「口だけで説明するのは難しいんだけど――あ」
ぶつぶつ呟いたかと思うと、マリーはもう一度扉の向こうへと姿を消し、がらがらと騒々しい音を立てながら、移動式の黒板を携えて戻ってきた。
うん。
驚かない。驚かないぞ。
「って、驚くわっ!」
「……うっさい!!」
「あ、はい」
異世界だしなあ。
「神になる仕組み――《神成り》についてはさっき説明してあげたけれど、そもそもこの《ノア=ノワール》って世界の現状についてはまだほとんど話してあげてなかったわよね?」
声に出して答えるより先に、チョークを手にしたマリーは、かつ、かつ、と小気味いい音を立てて丸っこい文字を書き連ねていった。面倒臭い、などとのたまっていた割に、この女神ノリノリである。その証拠に、どこから持ち出してきたのか吊り目気味にデザインされた赤いフレームの眼鏡までかけていた。ちょっと似合うな、くっそ。
「《ノア=ノワール》に男の人が少ない訳だけど、それは古より幾たびと繰り返されてきた《神と魔王の対立》の影響なの――」
手短に話を要約しよう。
神は、魔を滅する自らの意志の《代行者》として、魔王討伐を成し得る唯一の存在である《勇者》をこの《ノア=ノワール》に遣わしたのだと言う。しかし、神々による魔滅の意志が強すぎるあまり、むやみやたらに《勇者》の召喚・乱立を繰り返すことになって、今や普通の人間を探す方が難しい状況に陥ってしまったの、とマリーは語った。
それは何故か。
これはさっきも聞いた話だったが、魔王討伐に成功した《勇者》はその功績を湛えられ、その身に授かりし《女神の加護》の数に見合った待遇によって神として天界に迎え入れられることになっていた。だが、ハイペースで《勇者》を量産し、魔王討伐に成功するたび気軽にほいほいと受け入れていたものだから、気付いた時には人間よりも神の方が多くなってしまったらしい。当然の結果だ。
晩年に至っては、《勇者》一人に対して数百人の女神がこぞってそれぞれ異なる稀有なる御力、《加護》を与えてしまったものだから、《勇者》のチート度合が酷すぎて、当時の魔王はエンカウント直後の指先一つでダウンだったらしい。その魔王への同情を禁じ得ない。
そうやってあらかた背景を話し終えたところで、マリーは次の説明を始めた。
そう、女神について、である。
「実のところ、女神になること自体に特に決まりはないの。生まれた時から女神は女神。そういうものだと思っておきなさい。複雑で面倒なのは、むしろその後の話」
うんうん、と頷く。だって、他に選択肢がない。
「さっき話したとおりで、神の方は無計画にその数を増やすことになってしまったから、きちんとしたシステムがないんだけど――」
システム言うな。違和感仕事しすぎである。
「でもね……その生まれも、生き方も、最初っから定められていた女神には、独自のルールと仕組みがあるのよ」
「たとえば?」
合槌代わりのその問いに再びチョークを手にしたマリーは、黒板のど真ん中に大きく三角形を描くと、その内側に横棒を三本描き加えた。
「女神階級。女神と一口に言っても、階級と序列制度があるの。ここ――一番下に位置するのが、あたしやさっき出会ったマリッカみたいな下級女神。辛うじて《加護》は所有しているけど、それを除けばごく普通の人間の女の子とさして変わらないわ。要するにヒラ女神ね」
うう。早速世知辛いワード出てきたんだが。
「その上にいるのは上級女神。五、六人の下級女神を束ねて監督する立場にあるわ。さらにその上に通称《
「するのが?」
わずかに言い淀んだマリーに向けて、続きをせがむように言葉をかけたのだが、
「《原初の女神》……そう言われているわ」
そう口にしておいて、他人事のように肩を竦める。
「ただし、ほとんどの女神は会うチャンスすら与えられないの。皆がそう言ってるってだけで、本当に実在しているのかどうかは怪しい、そう噂している女神もいるくらいだわ」
「ふーん」
恐らく、それ以上語れることはないのだろう。とりわけ知っておかないといけない情報でもなさそうだし、ちょっぴり気になった程度でそれ以上興味は湧かなかった。
「それよりもさ――」
こっちの方は気になる。
「その女神階級って奴は、そいつの貢献度合とか、働き次第で変えられるんだろ? クラスチェンジ!みたいな感じでさ」
「まあね」
マリーの返答は思った以上に素っ気なかった。再び黒板の上でチョークは躍る。
「召喚された《勇者》をサポートすることが女神に与えられた役目だ、って教えてあげたでしょ? でもそれって、ただひたすら献身的に無償の愛をもって奉仕なさい、ってことじゃないの。ちゃんとそうするだけの価値、メリットが女神にもあるからなの。その一つが《女神ポイント》システム。だからこそ、皆がやっきになって《加護》を授けようとするんだけど――」
そこで言葉を切り、
「……ねえ。ちゃんと聞いてる?」
マリーは露骨に顔を顰めた。
またもや妙な単語がいくつも飛び出していたが、俺はそれどころじゃなかったのだ。
「……おーい。馬鹿ショージ?」
その科白を聞いてもツッコむ気にもなれなかった。
それは――。
目の前の黒板に、すっかり説明に夢中になっているマリーが、つい、手癖で書いたであろう一つの絵があったからだ。
中央にいるのは《勇者》。
その周囲に、群がり集まるかのように無数にちりばめられているのは女神の姿だろう。彼女たちから中央の《勇者》に向けていくつも鋭く伸びる矢印は、授けようとする《加護》を現しているのに違いない。そして、中央の《勇者》から逆向きに描き込まれた矢印は、その行為によって見返りとして得られる何かを表現したものだろう。
違う――そうじゃない。
何も、その図の明快さに感心した訳じゃなかった。
あんぐりと開けたままだった口を閉じて口腔に溜まっていた唾を、ごくり、と飲み下すと、俺は掠れた声で囁く。
「お、おい……。そのイラスト……」
黒板の中から惚れ惚れするようなウインクを投げかけてくる《勇者》を指さしながら、だ。
「ん……ぐっ!?」
自分でも気付いていなかったらしい。わたわた!と今まで見たことのないほどの狼狽っぷりで、その見惚れるほど美麗なイラストを抹殺しようとするマリーを大急ぎで止めにかかる。
「ば……っ! 待て待て待てっ!」
「ちょ――っ! 放し――!」
「消すな! 消すなってば!」
なりふり構わず組み付いて、それでも物凄い力で振り解こうとするマリーをなんとか押し留めながら必死で訴えた。
「おま……っ! 凄えよ、凄えじゃんか! 何も消すことなんて――ストップ、ストォォォップ!!」
「え……?」
興奮にうわずった俺の言葉に、マリーは怯えの混じった不思議そうな顔をしながら動きを止めた。
「俺はオタクだ! 知ってるだろ!?」
「オタ……ク?」
ああもう! 説明は後回し!
「だからいろいろ見てきたつもりだぜ? だけどさ、こんなイラストを、それもチョーク一本でぱぱっと描いちまうだなんて……お前、凄えな! ほら、見てみろよ!」
まだ震える手でシャツの袖をまくると、ぶつぶつの浮き上がった青白い腕を晒して見せた。
「うっわー……超鳥肌……。……はははははっ! お前は神かよ! い……いや、女神だったっけ。俺、何だか軽く感動しちゃったぞ! 動画サイトで『ライブドローイング』なんてのを見たことくらいはあったけどさ、こうして目の前で見せつけられるとマジで半端ねえな!!」
じわじわ込み上げてくる感情の波に身を委ね、俺は盛大な笑い声を上げた。
しかし――テンションが上がっていたのは俺だけだった。マリーは血の気を失くした昏い顔で俯いている。
「ど、どうしたんだよ?」
「……何でもない」
「いやいやいや。何でもないってことはないだろ」
その声は今にも消え入りそうだ。冗舌に語り続けながらも、さっきまで浮かんでいた俺の笑顔まで次第に固く強張り、引き攣ってしまった。
「……おいおい、本当に大丈夫か? どこか具合が悪いんじゃあ――」
ばしいっ!!
「何でもない、って言ってるじゃないっ!!」
静寂。
わざとじゃない――そんなことくらい分かった。
「あ………………」
けれど、差し出した手が咄嗟にはね退けられたその瞬間、怯えの混じった表情で顔をくしゃりと歪めたのは、俺ではなく、マリーの方だった。
「ご……ごめ………………っ!」
短く言い残し、身を翻して背後の扉のその奥へと逃げ出そうとするその細い腕を、俺は無意識のうちに掴んでしまっていた。
「ま、待ってくれ――!」
そうしないといけない、そう思ったからだ。
マリーは――泣いていた。
「なんつーか……」
ああ、くそっ。
「あの……ごめん。謝る」
さっきの自称女神(ロリ貧乳)のおかげで、差し出したくてもまともなハンカチがない。鞄の中を漁って代わりの何かを探したいところだったが、今ここでマリーを引き留める手を放してしまったとしたら、もう二度と互いを理解し合う機会なんて訪れないのではないか――何だか無性にそれが怖く思えてしまって動けなかったのだ。
「そんなに嫌がるとは思ってもなくってさ――」
マリーの頬を伝う涙を止める術も持たない俺は、せめてそれを視界に入れないようにとそっぽを向きながら必死に頭を働かせて言葉を絞り出す。
「でもさ。……今言ったのはどれも本心だ。一つだって嘘だとか冷やかしだとか、そんなつもりなんてないんだ。お前、心読めるんだろ? だったら……ああ、くそっ! お願いだから分かってくれよ!」
ようやく、
「……」
こくん。頷いたのが分かった。
そして、
「……痛い」
唇を尖らせて呟く。
「あ……悪ぃ!」
掴んだままだったマリーの腕を慌てて解放する。すっかり無我夢中だったせいか、かなりの力がこもっていたようだ。居心地悪そうにマリーは腕をさすっている。だが、もう逃げる気はないらしくってほっとした。
「あの……ええと……」
少し赤みを帯びた白くてほっそりとしたその腕が、力任せの強引な振る舞いのせいでもっと嫌な思いをさせてしまったんじゃないかという後悔と、ついさっきまで目の前にいる女の子のカラダに触れていたのだというちょっぴり気恥ずかしい記憶を思い出させ、それ以上言葉が出てこなくなってしまった。
代わりに口を開いたのはマリーだった。
「引っ叩いちゃって……ごめん」
「いいって。そんなの」
いろんな意味でアドレナリン的な何かが分泌されていた俺は、ほとんど痛みを感じていなかった。また独り勝手に盛り上がった言葉を吐くのはやめておいた方が良い、と、俺は口を噤んでマリーを待つ。
口を開き、
躊躇い、
もう一度口を開いて。
「……どうしたらいいのか、もう分からないの」
所在なさげに床に視線を彷徨わせている。
「あたしは女神なんだし、きちんと与えられた使命を果たさないといけない、そんなことくらい分かってる。分かってるのよ? ……でもね、も、妄想する自分を止められないの。ふと気付くと、頭の中でぐるぐるとありもしない妄想が渦巻いているのよ」
はあ、とマリーは溜息を吐いた。
「……最初は苦しかった。凄く。だって、それが一体どうすればなくなるのか、どうすれば消えてくれるのかが分からなかったから。あたしはどこかおかしくなっちゃったんだ、って、とっても怖かった。でも……ある時、気付いたの」
マリーは黒板の中の、彼女自身の手によって端の方が掠れて消えかかってしまった《勇者》の姿をそっと指さした。
「どんどん膨れ上がって、行き場を失くしたそれを、全部丸ごと描き出しちゃえば良いんだ、楽になれるんだ、って。止めどもなく沸き出してくる妄想に姿と形を与えてあげればいいんだ、って。……でも、でもっ!」
力なく何度も首を振る。
「……こんな女神なんていない。いる訳がないもの。変よ。あんただって……そう思ってるんでしょ?」
そこで俺は、
「………………アホか」
正直に言った。
「な……っ!?」
がーん!とか書かれてそうな顔に言ってやる。
「驚くな驚くな。つーか……さっきも言っただろ? 俺はオタクだって」
「オタクって………………何なの?」
「ええー……」
それは予想外の反応なんだけど。どうやらこの世界には概念がないらしい。
「ええと……どうしようもなく好きで好きで堪らない何かに向かって、脇目も振らずに全力疾走することを一秒たりとも躊躇わない、そういう性分を持ってる奴、ってことかな……?」
うーん。自分でも何を言っているのか分からない。
それでも構わず続けることにする。
「その瞬間、本人はもうなんつーか……一心不乱で無我夢中だからさ、周りが見えてなかったり、はた迷惑なことをしでかすことだってあるかもな。その上、皆が当たり前に出来ることは上手くできなかったりして。馬鹿にされたり、毛嫌いされることも多いかもしれない――」
自分自身で口にしている言葉に思い当たるフシしかなくって勝手にヘコみそうになるが、
「……でもな?」
俺は自らを鼓舞するように気持ちを奮い立たせて迷いもなく言った。
「逆に、オタクじゃなければ絶対に出来ないってこともあると、俺は思ってる。それは――」
「……それは?」
さっきから思っていたこと。
「――妄想すること。しまくることだよ」
それは、マリーの血を吐くような告白は、彼女だけの苦悩ではないのだということだった。
「俺もお前と同じだ。気付くと、つい妄想しちゃってるんだ。どうしても止められないんだ」
はは、と乾いた笑いを浮かべた俺の顔をマリーがじっと見つめていた。そのあまりに真剣な眼差しに何となく居心地悪い気分になってしまって、足元に視線を泳がせながら俺は続けた。
「でも……俺にはマリーみたいに絵を描く才能はないからさ。だから頭の中に浮かび上がった《物語》は、文字に変えてすっかり吐き出しちまうことにしたんだ。そうしないと苦しくて死にそうな気分でさ。辛いんだ……辛かったんだ、ホントに」
「……分かる気がする」
「はは。良かった」
肯定された自分以上に、苦悩するマリーの固く強張った心を少しでも和らげることができたような気がして、さっきよりはマシな笑顔が作れたと思う。
ええい。
もう、ついでだ。
「ほら……これ」
ごそごそ。俺は通学鞄の中から一冊の薄汚れたノートを取り出すと、まごついた様子のマリーの手にそれを押し付けた。
「これって……」
ちら、と顔色を窺う素振りをしたマリーに頷き返してやると、そっとめくり始めた。
「俺の妄想。文字という姿と形を与えて、がりがり出力した俺の妄想だよ。い、いや、ま、まだまだとても読めた物じゃないだろうけど――」
喰い入るように読み始めたマリーの様子を見ているうちに、いまさら気恥ずかしい感情が追い付いてきて、妙にそわそわしてしまい、言い訳じみた科白が口をついて飛び出してきた。
「お……おい……。そのへんで……」
「ねえ?」
そこでマリーは、ぱたん、とノートを閉じて言う。
「これ、借りてもいい?」
「えー………………ええー……?」
ううう。
それは予定になかったんだが。
「……何よ。ダメなの?」
「あー。べ、別に………………いいけど?」
「じゃ、借りる。読んでみたい」
思わず、やっぱなし!なし!と言いかけたが、ノートを大事そうに胸に掻き抱くマリーが浮かべるじんわりとした微笑みが目に飛び込んできて、仕方なくその言葉を飲み下した。
代わりに言ってやる。
「少しは気が楽になったか?」
その問いは自分に向けた物でもあると思う。
「そう……かも」
マリーは頷いた。
「そう――なのかもね。少なくとも、一人じゃない、って分かったから」
そうなのだ。
マリーがここまで思い悩んでいた最大の理由は、周りに自分と似たような『オタク』がいなかったことにあると思う。
有難いことに俺には、数こそ少ないし、学校やクラスでは少数派に属するとは言っても、同じような趣味・嗜好を持った仲間がいてくれた。あいつらは俺が書いたラノベもどきを見た途端、中身の良し悪しについてそれはもう言いたい放題で、こっちがすっかりブルーな気分になるくらいのイキオイでああでもないこうでもないとさんざん難癖つけたりしてくれたものだ。
しかしそれでも、そもそもの『書く』という行為について、あいつらはただの一度たりとも馬鹿にしたり嘲笑うような真似だけはしなかった。
それがある種の救済になったし、絶対に鼻を明かしてやる!とここまで書き続けてこられた原動力になった。それは事実だ。ならば、今度は俺の番なのだ。
うんうん、と頷いて手を差し出す。
「……何、これ?」
「じゃなくて。お前が描いた物も見せてくれって」
あれ?
何この微妙な間は?
「ぜ――!」
「……ぜ?」
「ぜっっっっったいに嫌っ!!」
何でだよっ!
「いやいやいや! ここは、えっと……じゃあ、って、恥じらいの表情を浮かべながらもおずおずと差し出すシーンだろうが!」
「キモっ! どうしてあたしがそんなキャラになってんのよ! 無理無理! 無理だって!」
頭の、キモっ、は余計である。少々、かちーん、と来たのでこっちも意地になる。
「いいから見せろっつーの!」
「い、嫌だってば! 嫌に決まってるでしょ!?」
「……ははーん。そっかー」
俺はしたり顔で小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「お前の妄想なんて所詮その程度ってことだ。誰からの批評も受け入れず、批判もされない代わりに賞賛も浴びない。一人で俺様TSUEEEEE!ってやってれば恰好いいもんなー?」
「うっ……」
「そんで、おばあちゃんになってから自分の半生を振り返る訳だ。――ああ、私、何でこんな物を描いてたんだっけ、って。誰に見せる訳でもない妄想を散々書き連ねておいてさ。湧き上がってくる妄想を吐き出さないと苦しい、だから描いた、って、それじゃあお前、ウンコと変わんないじゃん。そうだ! お前のその妄想はウンコだ! やーい、ウンコウンコー!」
やっべえ。
いろいろ良い事言ってやろうとか思ってたのに、最後の最後で小学生みたいな論理になってるし。大体、女神が歳を取るのかどうかも怪しい。
けれど、それでもマリーの心には何かが響いたらしかった。
「……」
たっぷりと沈黙したあと、むっつりと呟く。
「……だって、笑うでしょ?」
「笑わない笑わない」
「きっと馬鹿にする」
「しねーってば」
それだけはない。
「だったらお前も、さっき渡したそれを読んで、言いたい放題言ってくれればいい。……だろ?」
「ううう……」
わしゃわしゃ!と適当に束ねられた大量の髪を掻き毟り、マリーは苦悩している様子だった。
と、手が止まる。
「……分かったわよ」
背中が決意を物語っていた。
「ついてきて」
ぎいい――。
俺は誘われるまま、あの大理石風の扉をくぐった。
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