第14話


「じゃあ、とりあえずいつもと同じように走るが……今日も来るか?」


「うん!ついて行くね!」


 そうして俺はいつものペースで走り出した。走った。いつもより少しだけ遅く走った。

 ………………はずなんだけどなぁ。


 ミアとレイはジョギング開始1分で俺の隣からいなくなり、3分でかなり引き離され、5分でもう既に見えなくなっていた。


 えぇ…。いつもストーキングしてた時こんなに早く見えなくなってたっけ…?

 いつも気にするのは最初だけで、確認してなかったから分からないが。


 せめてこのペースにはついてきてもらわないと俺のトレーニングにならないんだよなぁ…。



 うーん。……まぁ、今日くらいは待ってやるか。

 そう思い、少し待っているとすぐにミアが見えた。どうやらそんなに離れてはいなかったらしい。


「ぜぇ…ぜぇ…。やっと、追いついた…」


「まあ待ってやってたからな。それよりレイは?」


「はぁ…はぁ…。レイなら帰ったよ…。レイは、私に付き合ってた、だけだから」


 あー、なるほど。思えば確かにそんな感じだったかも。


「そうか、ならいいや。あと、一つだけ言っとくが、待ってやったのは今日だけで明日からは普通に置いてくからなー。無理に追いつこうとしなくていい。自分のペースで走ってこい」


「あ、うん。分かった!」


「目下の目標は今の俺と同じペースだ」


「目標が遠いよー…」


 そんなに遠いか?けど、こればっかりは急速に成長できるもんでもないし、頑張ってもらうしかないな。


 あ、ちなみに俺は普通の口調に戻ってはいるが、別にポーカーフェイスは外していない。

 さっきから言うことによって表情をコロコロ変えている。


 …あいつに見られたらなんか言われるんだろうけどな。


「じゃあ、再開するか。……あ、そうだ。今日はうち来てトレーニングしてくか?」


「うーん、今日はやめとくよー。流石にヘトヘトだからさー…」


「おいおいまだ5分ちょっとしか走ってないのにか?」


「5分間ずっと全力疾走してたの!しかもこれからもっと走らなきゃなんでしょ!……とりあえず自分のペースで走り出してから、明日からトレーニングには参加させてもらうね!」


「おー、そうか。じゃあ今日はお茶だけ出すから、上がってけよ。家の外で待ってるからなー」


「ええっ!今日はいいよって、速っ!?待ってよ〜!」


 後ろからなにか聞こえた気がするが、構わず走った。

 うちまで走ってから自分の家まで帰るってなったら水分とらなきゃまずいだろ。そのついでにちょっとうちに上がってくだけだ。

 別に家に友達上げてなんか言ってくるような人もいないだろうしな。大丈夫だろ。


 ………はて、何か…誰かを忘れてるような?









「ふう…」


 いつものペースでいつもの距離を走り終わった俺は家の前で一息ついていた。


「待つか…」


 走ってきた道を見ても当然ミアは見えな…………ん? んん??


「うあああーーーーーーーー!!!!!」


 うん、まだミアは見えていない。だが、聞こえてきた。


「よぉーーーし!!とうちゃーーく!!!」


「近所迷惑だ馬鹿野郎!」


 俺はそう言いながら走ってきたミアにデコピンをかました。


「いっっったぁぁ!!!!何するの!!」


「何するのじゃねぇよ!朝っぱらから叫ぶんじゃねぇ!」


「うっ…ごめん…」


「はぁ…。まあ、幸い誰も怒って家から出ていてないし…。と、いうかなんでこんなに早く来たんだよ。自分のペースで走れっていっただろ?予測よりずっと速いぞ?」


「今日は走るだけだから頑張ろうと思って!そんなことよりほんとに上がっていいの?急なのに」


「んあ?いいぞー?別に誰が何言う訳でもないしな」


「ほ、ほんと?じゃあ、お言葉に甘えて…。ふぁ〜、エマさんとヘンリーさんの家だ〜」


「いや毎日見てただろ…」


「入ってるのと見てるのは違うの!」


「えぇ…。まあ、そんなもんか。ただいま〜」


「ちょ、ちょっと、待ってよ緊張する〜」


「あ?別に家はいるだけだろ?早く来いよ」


「おかえりなさいー。先輩今日なんかいつもより遅くないですかー?いつもの変態ジョギングの帰り…で……しょう?」


 あっ。

 こいついたわ。


「……………先輩?」


 その底冷えするような声に思わず背筋を伸ばす。

 え、なに、特に何もしてないんだけど…?


「は、はい……?」


「誰ですか?その女。」


「え、えっと、こいつはだな」


「こいつ、ですか。既にこいつとかあいつとかで呼び合う仲なんですね」


「い、いや、それには理由が」


「で、その女は、誰なんですか?」


 ……こいつこっわ。


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