第13話

 一部訂正しました。

 学園入学5歳→8歳

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「はっ、はっ」



 あの日ーーソフィアが後輩だと判明した日から既に3年の年月が流れ、俺は5歳となっていた。


 この3年間は特に目立った出来事も無く、新たに判明したことも無かった。

 俺がこの3年間でやったことと言えばトレーニングくらいだ。


 ーーーこの場所にソフィアがいたら、「トレーニングくらい、じゃなくてひたすらトレーニングだけをやってきた、でしょう?」とか言われそうだな…。


 ちなみに3、4、5歳の誕生日にはヘンリーに労働を頼んで、庭にトレーニング器具を作って貰った。

 ……うん、これからも誕生日にはヘンリーに肉体労働を頼もうと思う。便利。


 まあ体の関係でまだ使えない器具ばかりなんだけどな。



 そんなこんなでひたすら体を作っていた俺は今日も日課の一つであるジョギングをしていた。

 軽く走っているだけだがこれもとても大切なトレーニングの一つだ。


 そういえばいつもは最初の方だけ護衛のおっちゃんがついてきてたんだけど、最近は全くついてこなくなったな……。1人でも大丈夫と判断されたのかな?

 流石にこのペースでついてこられないってことは無いだろうし。



 じゃあ今日も3で走るか!


「おーい、いつもいつも隠れてないでたまには一緒に走ろうぜ〜?」



 応答無し。


 はぁ…。気づかれてるんだから素直に出てこればいいのに。



 そう、俺のこの朝の日課のとき、なぜか2人の子供がいつも俺についてくるのだ。

 ついてくる。尾行。ストーキング。

 それもついてくるのは恐らく同年代位の女の子二人だ。いつも顔丸出しで尾行してくるからな。俺なんかしたっけぇ…?


「ま、いっか」


 頭の片隅でこの2人のことを考えながら走っていると、既に家についていた。


 俺はストーカー達に、ばいばい、と手を振って家の中に入っていった。


 その日もいつものようにトレーニングをしたり、ソフィアに嫌味を言われたので嫌味で返したり、エマに諌められたりと、ごく普通の、いつもの日常が送られた。





 次の日。

 今日もいつものようにジョギングをしようと外に出ると、いつものあの後ろからの視線を感じないことに気がついた。

 なんだろう、飽きたのだろうか?


 まあ何にせよストーカーが消えたのはいいことだな!


 そう思い、道の真ん中に仁王立ちしていた、顔をよく知る女の子二人の横を通り抜け、走りに行こうとすると、


「え……えぇ!?ちょ、ちょっと待ってよ!」


 呼び止められた。

 そうだよなぁ…見逃してくれるはず無いよなぁ…。

 とりあえず社交的な笑みを作って、いつでも逃げられる準備しとこうかな。


「はい、なんでしょう?」


「なんで私たちを無視して行っちゃおうとしたの!私たちのこと知ってるでしょ!」


「えぇ…?どちら様でしょうか…」


「え…?まさかまだバレてなかったの…?」


「はい…。毎日僕の日課のジョギングの時にストーキングをしに来る女の子二人組ということくらいしか…」


「バッチリバレてるじゃん!?」


 おお、この子いいツッコミの素質があるな…。


「で、ストーカーさんが何用ですか?」


「うぅ…。別にストーカーじゃ…って、そうじゃなくて!そう、実はあなたに頼みがあるの!」


 頼み?めんどくさそうじゃないなら聞こうかなぁ。





「あのね、私たちの師匠になって欲しいの!」




 …………………………………………。



「嫌ですでは僕はジョギングに行くのでサヨウナラ」


 俺はそう言っていつものペースでジョギングを始めた。


「ちょちょ、ちょっと!待ってよ〜!」


 シリマセン何も聞こえていません。


「ちょっと!待ってってばぁ!」


 ははっ、ハシルノハ気持ちいいなぁ。


「ねえ!まっ…きゃあ!!」


 後ろから派手に転んだ音がした。



 …………………………。



 タッタッタッタッ……


「いやそこは助けるところでしょ!?」


 知りませんだって何も聞こえてないんですもん。

 そう自分に言い訳しながら走り出すと、今まで一言も喋らなかったもう一人の子に服の裾を掴まれた。


「…………ん。……………はなしだけでも聞いてってあげて?」


「………はぁ」



 



 実は俺は「師匠」に関しては絶対になりたくない職業NO.1だと思っている。

 前の世界で、「師匠」と呼ばれる存在が身近におり、なんかもう、観るからにめんどくさそうだったからだ。

 だから師匠になるなんて絶対にいやだ。


 けどまあなんで俺が師匠になるなんていう考えに至ったのか聞くぐらいはいいか。


「なあ、俺が話を聞く前にちょっと聞いていいか?」


「え?口調変わったね…。うん、なに?」


「口調に関してはこっちが素だ。あとそんなに申し訳なさそうにしなくていいぞ。転んだ真似したくらいで」


「バレてる!?」


 いや普通分かるだろ…。自然に転んだ時はもっと派手な音が出る。


「えーっと、お前ら名前はなんて言うんだ?」


「私はミアだよ!こっちはレイ!」


「………………ん」


「おーけー、ミアとレイだな。二人はどうして俺なんかに師匠になってもらいたいんだ?」


「だって毎日すごい速さで走っていって息切れ全然してないんだもん!だから、えっと、すごいって思って!」


「ん?そんなに早くないだろ」


「え?速いよね、レイ?」


「………………………すごく、速い。大人よりも、速い。」


 えぇ…?それは流石に勘違いだと思うんだが…。


「うーん、納得は出来ないが…まあいいか。じゃあ、お前らはなんで師匠なんかが欲しいんだ?」


「お母さんがね?今のうちから体をきたえておくと魔法が強くなるって言ってたから!」


 へぇ?それは初耳だ。今までやってきたことは無駄じゃなかったんだな。よかったよかった。


「それなら自分で鍛えればよかったんじゃないか?」


「鍛え方が分からなかったの!」


 あぁ、な。だから偶然ジョギングしてた俺に師事したいとか言ってきたのか。


「ん?お前ら今何歳だ?」


「えっとね、5歳!双子だよ!」


「………………………ん」


 へー、同年代か。

 くそ、年上ならそれで断れそうだったんだけどな…。

 けど師匠か…。師匠はなぁ…。あ、そうだ。


「俺は師匠なんかには絶対になりたくない」


「えー?ぶー!……絶対なの?」


「絶対だ。だが!」


「だが?」


「今まで通り俺のジョギングについてきたり、俺の家でのトレーニングを一緒にやるのは別にいいぞ?」


 強くなりたい子は無視できないしな。


「えっ!ほんと!?」


「ああ、ほんとだ」


「やったぁ!!じゃあ友達だね!!!」


「え、え?」


「え?だって、君のおうちに入れるんでしょ?じゃあ友達だよ!ね、レイ?」


「……………………………ん!」


「お、おう…。じゃあ、よろしくな、ミア、レイ」


「うん、よろしくね!」


「……………………………よろしく、ラン」


 こうして、俺にこの世界で初の「友達」が出来たのだった。



 ……あれ?俺名前名乗ったっけ?まあ知ってるってことは名乗ったんだろうな。うん、きっとそうだ。

 …………そうだよね?


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