第11話


「さて、ちょっと大事な話をしましょうか、…………………先輩?」




「…………………………………………は?」



「は?じゃありませんよ。まったく…全然気づいてくれないんですから…」


 いや、いやいやいやいや、おかしいおかしいおかしいだろう。

 そんなわけがない。あいつがここにいるはずがない。


「ど、どうしたんだよ、ソフィア。いきなり先輩だなんて…確かに俺は先輩かもしれないが…。と言うか、ソフィアそんなに流暢に喋れるんだな!すごいな!」


 俺がそう言うと、ソフィアは大きくため息をついた。

 その仕草も、言い方も、全てがあいつに酷似していて……。


 違う。違うんだ。ありえないんだ。


「そうですね。こんなに流暢に喋れるんですよ?普通じゃ出来ないですよね。なら出来そうなもんですけど。」


 いやだ。こいつがここにいるってことはあっちの世界で…。


「ソフィア?何かの冗談「だからそのポーカーフェイス嫌いって言ったでしょう?」っっ!!」


 これまでに俺のポーカーフェイスを見破れたのはあいつだけだ。いや、見破れた奴はいるかもしれないが、嫌い、と言ってきたのは…あの後輩だけなんだ。


 たが、俺は受け入れられなかった。受け入れたくなんてなかった。今すぐに思考を放棄したかった。


 しかし、ソフィア後輩は無慈悲に俺に言う。


「そろそろ現実を受け入れましょうよ、せんぱ「……で…よ」…え?」


 俺は叫ぶ。全てを吐き出す。


「なんっでだよ!!!なんでこっちの世界に来ちまったんだよ!!こっちに来たってことは…お前は前の世界で……死んだんだろ?」


 そう言うと、後輩はバツが悪そうに顔を下に向ける。


「いや、それにはちょっと訳がありまして…。そこを含めて大事な話をしようと…」


「お前が死んだって事実だけで…なにが解決だシオンの奴…こんなん…こんなのもっと後悔が深まるだけじゃねぇか…」


「いやいや、だからわけが…って先輩!泣かないでくださいよ!」


 俺はいつのまにか泣いていた。

 胸の中には後悔と絶望と……後輩が来てくれたと言う嬉しさが渦巻いていた。

 ずっと一人だったのだ。

 両親や皆は愛をくれた。だけど、俺の事情を知り、一緒に考えてくれる存在は…居なかったのだ。

 だから嬉しいと思ってしまった。そんな自分が…たまらなく嫌だ!

 一瞬でも後輩が死んでくれて嬉しいと思ってしまったなんて…後輩も死ぬときにはあの恐怖を味わった筈なのに…。


 そんなことを涙と、言葉と一緒に吐き出す。



 すると、静かに聞いていた後輩が口を開いた。


「…先輩は変わらないですね」


「………は?」


「先輩は変わってないですよ。いつも誰かに優しくて、人のことを思いやっていて、馬鹿みたいにお節介で」


「いや、お前…」


 話聞いてたのか? と言おうとした。

 が、言えなかった。

 後輩が俺のことを抱擁してきた。

 ハグ、である。


 後輩の体温を感じた。


「大丈夫ですよ、先輩。私はここにいます。だから落ち着いてください、ね?………こんなこと今回だけの出血大サービスなんですからね!」


 そう言いながら後輩は頰を少しだけ赤に染める。いつもの…、俺の知ってる後輩だ。


 そう思うと、なぜかとても安心して、自分でもよく分からなくなっていた心の中が少し落ち着いた気がした。











 何分その状態で居ただろうか。俺は冷静さを取り戻していた。

 そして冷静になった頭で今の状況をよく考えてみた。


 ランは、とりもどした、れいせいさを、うしなった!


 いやいやいやいやね、1歳と2歳半だし性的な何かではないんだけどね! 2歳半が1歳に抱かれて泣いてるし、精神年齢もっと上だし!!


 それに、なんか、体温と匂いがやばい。あ、くらくらしてきた。


 てかいつ離れればいいの!? タイミング! タイミングプリーズ!!!


 パニックになって混乱していると、いつのまにか鼻息が荒くなっていたようで、


「…ひあっ!?先輩!?なに匂い嗅いでんですひゃあっ!!」


「あ、いや、これには深いわけが…」


「うるさいですよ早く離れてくださいこの変態のせんぱいがー!!」


 そう言われ、突き飛ばされた。

 俺は、頭を打った。


 ▼ ランはめのまえがまっくらになった!











「…それで、落ち着きましたか変態、もとい先輩」


「いやだからそれはごめんって」


「乙女の優しさにつけ込んで香りを堪能してた先輩を簡単に許すわけないでしょうが。なんでしたっけ?私が来て嬉しかったんでしたっけ?」


「やめろおおおおおおあの時の俺はどうかして居たんだ!」


「なっ!!じゃあ私が来ても別に嬉しくないって言うんですか!!!」


「お前めんどくせぇなぁ!!!!」


 お互いに罵倒し合う。そういえばこの感覚も久しぶりだ。




「取り敢えず、先輩は私に聞きたいことがあるんでしょう?まずそれに答えてから情報のすり合わせをしましょう」


 そうだ。こいつに聞きたいことは山ほどある。


「そうだな…じゃあまずは……………お前は俺を、恨んでないか?」


「は???????なに言ってるんですか寝ぼけてるんですか顔洗って来ますか?…感謝こそすれ、恨むわけないでしょう」


 まぁ、後輩がこう答えてくれるのも、それが本心であることもわかっていた。けど聞かずにはいられなかったのだから仕方ない。


「そうか…ありがとう。じゃあ今のは寝ぼけてたってことでなかった事にしてくれ」


「先輩が素直に私にお礼を言ったところ以外は無かったことにしておきますよ」


「えー…俺だってお礼ぐらい言うんだが…。まぁいいや、次の質問だな。お前は、何故、死んだんだ?」


 実際のところこれが一番気になっていた。


「あー…来ましたか…。その、非常に言いにくいんですがね、端的に言うと、銀行強盗に、殺されました」


「ん?」


「いやだから、銀行強盗に殺されました」


「…すまん、分かるように1から説明してくれ」


「…はい、すみません。えっとですね、先輩に助けられた時、最初は罪悪感で潰れそうだったんですけどね」


 いやほんとにすみません…。


「けどそしたら先輩のご両親がわざわざ会いに来てくださってですね、あの子の分まで精一杯生きてくれって言われまして」


 なにそれちょっと恥ずかしい。


「それで私もそうだなって思って学校も再開して必死に勉強したりもしたんですよ」



「けど、1年半とちょっとですかね、それぐらいした時に、銀行に居たらちょうど銀行強盗が来まして」


「いや急だな!?」


「銀行強盗なんて急に来るに決まってるでしょう…。まぁ、それで、銀行員が明らかに警察来るのを待って、お金を鞄に入れるのを遅くしてたんですよね」


 ふむふむ、だいたい読めた。


「そしたら、薬でもやってたんですかね?完全に強盗がプッチンしちゃって、見せしめに一人殺すとか言い始めまして、選ばれたのが小さい子供だったんですよ」


 なるほどなるほど。


「それで、そんなの私が身代わりになる代わりにその子を殺さないで、って言うしかないじゃないですか」


 結論を出そう。


「お前、俺の何万倍も、お人好し」


「いやいやいやいや先輩とそれはな……いですって!」


「んなことねぇよ!流石に見知らぬ女の子助けようとは……するかもしれねぇけど!」


「ですよね!分かります!」


 俺は大きくため息をついた。


「はぁ……しっかし異世界転生に選ばれる奴って、誰かを助けて死んだ奴、なのかねぇ」


「あ、それは違うらしいですよ。完全にランダムらしいです」


「お?ルドにでも聞いたのか?」


「いや聞いたって言うかルドちゃんが漏らしてましたね。曰く、「天文学的な確率じゃないですか…本当に死んだ人の中からランダム選出なんですかこれ…なんでよりにもよってこの二人…?」ですって。その時はなんのことかわからなかったですけど」


「へぇ…。ってかその時は分かんなかったって…お前、俺がこの世界にいるって聞いてなかったのか?」


「そんなん聞いてるわけないじゃないですか」




 …は? え?


「…じゃあなんで俺が俺って分かったんだ?」


「…気づいてないんですか」


「え?」


「顔ですよ顔。顔が前世と全く同じです。あとこれは分かりませんけど多分声も」


「え゛、まじか」


「はい、先輩と全く同じ顔でくっそウザいポーカーフェイスしてたら流石に分かりました。ってか!私めっちゃアピールしてたんですよ!気づいてくださいよ!!」


「いや分かるわけねぇだろ!だいたいなんで俺の1〜2歳の顔知ってるんだよ!!」


「ご両親に見せてもらいました!!」


「くっそ恥ずいし俺お前の幼児の写真なんて見たことねぇから!!分かるか!!」


「そこはまぁ…フィーリングで?」


「無理だわ黙れ!!」


 


 こうして約2年半ぶりのいがみ合いは続いていった。


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 情報のすり合わせをなどは次の話で!

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