第10話


「う〜さっむ!」


 朝の冷たい冷気が頬を撫でる。

 その日、俺は朝から家の外にいた。ソフィアを連れて来るイーサンを出迎えるためだ。


 あの日、この家にソフィアが預けられると決まってからすでに1ヶ月が経っている。この1ヶ月は元から仕事のノルマを低くしておいたらしい。

 まぁそれでも1日だけノルマを達成出来なかったらしいんだが。

 ……なんでだろう?


 そして、さっきさらっと流したが、赤ちゃんの名前が決まった。

 ソフィア、と言う名前に決まったそうだ。


 ちなみに、連絡手段は鳩だ。伝書鳩ってやつだな。しかし、この世界の鳩は優秀で一度行ったことがあるところならどこにでも飛んでいけるらしい。


 しばらく待っていると、イーサンがやってきた。今日も忙しいらしいのだが、一番最初ぐらいは面倒を見てくれるメイドさんに挨拶をしておきたいらしい。

 ちなみにライラは朝が弱く、無理やり起こしたら不機嫌になるそうなので、今日は来ていない。

 ライラが機嫌悪いって…めっちゃ怖そう。


「おはよう、ランくん。わざわざ寒い中出迎え、ありがとね」


「いえいえ。今日はエマもヘンリーも家を空けてますしね」


「そうなのかい?少し話をしたかったんだが…。それで、こちらがソフィアの面倒を見てくれるメイドさんかい?」


「は、はい!私がお嬢様の面倒を見させてもらいます!よろしくお願いします!」


「うん、こちらこそソフィアをよろしくお願いします」


 そう言ってイーサンはすやすやと眠るソフィアをメイドさんに抱かせた。


「か…かわいいっ…!」


 メイドさんメイドさん本音が漏れてますよ。


「と、言っても…ラン坊ちゃんが面倒見るって言って聞かないですから…私よりも知識ある気もしますし…私の出番は少なくなると思いますけどね…」


 そんなことはない。メイドさんは頼りにさせてもらう予定だ。まぁ大部分は俺がやるけど。


「そうなのかい?相変わらず1歳とは思えないね」


 そう言ってイーサンは笑う。


 その後、少し雑談をしてからイーサンはそそくさと帰っていった。今日も仕事が忙しいらしい。お疲れ様です。


「では、中に入りましょうか」


 そう言われて家に入ろうとすると、ソフィアが目を覚まし、キョロキョロと周りを見回した。


「あ!目を覚ましましたよ!やっぱりかわいいですね〜!見てくださいよ坊ちゃん!」


「かわいいことは分かってますよ…」


 俺は呆れ笑いをしながらも、もっと顔をよく見ようとソフィアの顔を覗き込む。


 すると、ソフィアの動きがまるで石になったかのように固まった。

 え、なに?あ!もしかして上から覗き込むってダメだったか!?

 そう思って俺がおろおろしていると、唐突にソフィアが涙を流し始めた。


 普通の赤ん坊のように大声をあげながら、ではなく、声もなく、ただぽろぽろと涙を流し始めたのだ。


「え、え?ぼ、坊ちゃんなにしたんです!?こんなふうに泣く赤ちゃん見たことありませんよ!?」


「え、ええ!?何もしてませんよ!強いて言うなら上から覗き込んじゃったってだけで!」


 そんな風にメイドさんと二人でパニックになっていると、ソフィアが俺の方に腕を伸ばして声を上げて泣き始めた。


「あ、やっと普通に泣き始めましたね…さっきのはなんだったんでしょうか…」


「わ、分かりませんが、取り敢えず中に入りましょう…。オムツを変えて欲しいのかもしれませんし…」


「そ、そうですね、坊ちゃん」


 そう言って俺たちは困惑しながらも家の中に入った。


 なんだったんだろうな?本当に。







 結局、こうやって泣いたのは最初だけでその後は特におかしなところは無かった。

 ソフィアは週6のペースでうちに来るので、ほぼ毎日顔を合わせている。


 あ、嘘ついた。おかしなところあった。

 この生活になってから3ヶ月ぐらいは、なぜか俺とソフィアの二人になると、「あうー」とか、「えぅあい!」とか、意味不明な言葉を言って、しきりに俺に手を伸ばして来ていたのだ。

 その時はどうとも思わず、遊んでいたが、今思ったらよく分からん行動だよな…。何かを伝えたかったのかな?

 しかし、ある日を境にそれは全くなくなった。

 …それどころか俺の前では全く喋らなくなった。

 喋らなくなる前の日何かを決意したような目をしてた気がするんだが…本当にわからん…。



 そして今日はソフィアの1歳の誕生日の前日だ。明日はこの家にイーサンやライラも呼んで誕生日会をするので、家全体が慌ただしい。

 あ、ちなみに俺の2歳の誕生日は1歳の時と同じようなもんでした。ほんとひとおおい……。


 まぁそんなわけでメイドさんがみんな慌ただしく作業をしているため、今日ソフィアと遊んでいるのは俺だけだった。


 しかし、なんか今日のソフィアの様子なんかおかしくないか?

 いつも以上に表情がコロコロ変わるし、俺が話しかけるとめっちゃびっくりする。ど、どうしたんだろう…、俺なんかしたっけ…。


 なんてことを思っていると、ソフィアは何かを決めた顔をして、無言で俺の服の袖を引っ張って来た。

 な、なに? こっち来いって言ってるのかな?


 取り敢えず案内されるままに歩いて行くと、いつだかに俺が入り浸っていた図書室に引きずり込まれた。

 それにしてもこの子俺よりも屋敷の構造理解してない? 迷いなくここまで来たんだけど? やばない?

 で、なんでこんなところ連れてこられたんだろう…。こんなところ別に何も……人がいないくらいしかないぞ?



 この時俺はまさかソフィアがこんなこと言うとは思ってなかったし、そもそも話すとも思ってなかったため、完全に油断していた。まぁそもそも警戒なんてするわけないんだが。





 ソフィアは深呼吸をすると、こう言った。



























「さて、ちょっと大事な話をしましょうか、…………………先輩?」




「…………………………………………は?」





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 ソフィアは果たしてナニモノナンデショウカネー。

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