第9話


「おお!産まれたようだな!…しっかしまた元気だなぁ。ランみたいだ」


「そうね。顔を見るのが楽しみだわ〜」


 どうやら元気な子が産まれたようだ。

 それにしても本当にすごい声だな。わかる、わかるぞまだ見ぬ赤子よ。




 しばらく待っていると、イーサンと奥さんらしき人物、それに、タオルに巻かれて奥さんにしがみつきながらすやすやと眠る赤ちゃん、あとは見知らぬ3人が出てきた。

 ん? 誰だろう?


 見知らぬ3人は「無事に産まれてきてくれて本当に良かったです。では、これで」と言って帰っていった。

 俺たちのような客だったのだろうか? それにしては出産に立ち会うのも、もう帰るのもおかしくね?


 俺がしきりに首を傾げているのを見てか、エマが教えてくれた。


「さっきの人たちは魔法師よ。出産では、レア魔法の、『浮遊』、『生活魔法』、『治癒』が使える人を呼んで手伝ってもらうのよ。具体的には、赤ちゃんの頭が出たら『浮遊』で負担のかからないように取り出して、その赤ちゃんと赤ちゃんが触れるものに『クリーン』をかけるの。最後に赤ちゃんと母親に『ヒール』をかけるのよ」


 あー、なるほどな。確かに『ヒール』が無かったら今奥さんがピンピンしてるのもおかしいもんな。


「けどレア魔法でしょ?出産のたびに呼んでたらその人すっごい忙しくない?」


「ああ、それは大丈夫よ。この3つはレア魔法の中でも出現しやすいから。…それはともかくレア魔法なんて教えてないわよね?図書室で調べたの?まだ1歳なのに?」


 あ、流石にエマに疑われたらまずいか…?


「……将来知的なイケメンになったらどうしよ〜〜〜!!!」


 大丈夫だ、エマも(親)バカだった。


「その歳で図書室かい…?ランくんは本当にすごいんだね」


 いつのまにか話を聞いていたイーサンがそう言った。ソンナコトナイデスヨー。


「あ、そうだ、ランくんに紹介するよ。僕の奥さんの「ライラだ」……だよ」


 おう、ガツガツ系のおねーさんだ。姉御感がすごい。取り敢えず挨拶だな。


「こんにちは。ヘンリーとエマの子のランです。この度はご出産おめで「おー!知ってるぜ!お前の両親の惚気を聞くのは私の仕事だからな!!」…………なんかすみません」


 謝りながら少し両親を睨んでおく。両親は二人でそっぽを向いて鳴らない口笛を吹いていた。誤魔化し方下手か!


 そんな俺たちの様子を見て、ライラは「ニシシシシっ!」と笑っていた。


「ま、まあそんなことより!出産おめでとう、ライラ、イーサン。それにしてもかわいいわね〜」


 エマが無理矢理話を変えて、ライラの腕の中の赤ちゃんを見ながら言った。


「当たり前だろ?私の子だぞ?」


「全然似てないわね!」


「おい」


 そんなエマとライラの談笑にヘンリーとイーサンも混ざり、楽しく雑談していると、ライラが急に困ったような顔になる。


「どうかしたの?」


「それがな…、一つお前らに頼みがあるんだ」


「なんだい?」


「実はうちのイーサンって最近名前が売れてきてか、かなり忙しくてな。私もその手伝いをしなきゃいけないからこの子の面倒を見きれそうにないんだ」


「ベビーシッターを雇えばいいんじゃないの?」


「それが最近の出産ラッシュでどこも空いてないらしくてよぉ…」


「なるほど。それで私たちの伝手でベビーシッターを紹介して欲しいのか?」


「そう!それだ!どうか一つお願いされてくれねぇか?」


「それぐらいお安い御用だよ。いつも世話になってるしね」


 ふーん、まぁ見るからに忙しそうだもんな。けど、わざわざ探すくらいなら…


「僕らの家で面倒見た方が良くないですか?」


「「「「え?」」」」


 いやいや、そんなに驚かなくても…。


「その方が経済的にもいいでしょうし…。それにうちには大量のメイドさんが居ますからね。ベビーシッターの経験がある人ぐらいいるでしょう。………それに、僕も妹みたいな存在の顔を毎日見られたら嬉しいですし!」


 そう言うと、部屋の中がしん、と静まり返った。だめだっただろうか?


「…いや、名案なんじゃないか?」


「…そうね」


 両親がそう言った。

 やった!親の許可、ゲットだぜ!


「し、しかし、本当にいいのかい?そちらの家にも迷惑が「お前おっもしろいな!ほんとに1歳児かよ!!」…ライラ……。ごめんね、ランくん」


 イーサンの言葉を遮ってライラが笑いながら言ってくる。


「いえいえ、それに、僕の本音は最後だけですよ。毎日顔を見れたら本当に嬉しいですから」


「そういうところが子供っぽくねぇんだよ!ニシシシシっ!!」


「ライラ…」


「おおう、イーサンの顔が怖いからここら辺にしとくか!」


「あはは…。まぁランもこう言っていることだし、私たちは預かっても全然いいわよ?私も夫も多く家を空ける方ではないしね」


「うーん…じゃあ申し訳ないんだがお願いしてもいいかい?」


「ああ、分かった!毎日預けるわけではないと思うから、預ける日は直接うちに来るか、連絡してくれ。迎えに行くからな、ランが」


 うわ…この父親子供に送迎任せやがったぞ…。


「ああ!分かった。じゃあよろしくね。ランくんもありがとう」



 こうして俺は赤ちゃんの面倒を見ることになったのだった。

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 おまけ イーサンとライラの会話


「ライラ、さっきのは失礼すぎだよ」


「すまんすまん、あのガキが面白くって、つい、な?」


「まぁ気持ちはわからないでもないけど…」


「それに、あいつの目だ。あいつは将来なんかやるぜ?…知らんけど」


「へぇ…それは楽しみだな」


「そんなことより、あいつらも帰ったんだし今日ぐらいいいだろ〜?」


「だめだよ!君も今日出産したばかりだろ!!」


「い〜じゃね〜かぁ!どうせヒールされたし私の体はそんなにヤワじゃねぇよ!あの子も寝たしな!!」


「ちょっ、まっ…」


「今夜は寝かせないゼ?」


 次の日、イーサンは魔法具作成のノルマを達成出来なかったらしい…。




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 イーサンとライラも相当なバカ夫婦なんでね。

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