先輩と後輩①
6月中旬、梅雨にも入り、ジメジメとした湿気の頃。
「あ!奇遇ですね先輩!せっかくなんで一緒に帰りませんか?」
「ひぇっ」
後輩が俺にそう話しかけて来た瞬間に周囲の視線が俺に集まる。
その視線に未だ慣れることができず、俺は小さな悲鳴をあげた。
いや、コミュ症隠キャぼっちにはこの視線はつらいって…無理…ほんとむり。
怨嗟の視線を全身に感じて立ち竦んでいると、
「?なにしてるんですか?せんぱーい、早く行きましょうよ〜」
そう言いながら近づいて来た。
ちょ、まずいってこれ以上近づかれたら俺が死ぬ! 詳しくは俺が周りの男子どもからリンチにされる!!
「わかったわかった!帰るから!だからちょっと離れろ近い暑い!!」
そう言うと後輩はにや〜、と笑い、
「お〜?照れてるんですか〜?そりゃそうですよね、こんな美少女に近づかれて照れないわけがありませんよね!!」
なんて、相も変わらずふざけたことを言ってくるが、今はそれどころではない。
「そうだよ!それでいいからとっとと離れろ!」
お願いだから! ほら! そこにいる同じクラスの岡本くんの目が怖いことになってるから!!
「え…あ、そうなんですかそうですよね…」
後輩はそう言うと素直に離れ、頬を少しだけ赤く染めて髪の毛を弄り始めた。
なに照れてんだこいつ自分から言って来たんだろけどそう言うの可愛いと思います。
「あー、もう帰っていいか…?」
そろそろ岡本くんが刺してきそうで怖いです。
「そ、そうですね。行きますか!」
しばらく歩いてようやく生徒の数が少なくなる。
「はぁ…」
「お?なんですか?美少女と帰れてるのにため息ですか?喧嘩売ってたりします?」
「ちげぇよ…明日クラスメイトに会うのがちょっと怖いだけだ…」
岡本くん…怖い…。
「それ、毎日でしょう?先輩コミュ症ですもんね!w」
「まぁそれもそうか…」
「うっわ、この人嘲笑混じりの悪口平然と受け入れましたよ」
だって間違ってねぇし…
「というか、なんでお前はそんなコミュ症の先輩に毎日ちょっかいかけにきてんだよ」
「…秘密です」
そう言って後輩は微笑んだ。
「いつまで秘密にしてんだよ…前もおんなじこと言われたぞ…」
(だいたい先輩が覚えてないのが悪いんですけどね)
「ん?なんか言ったか?」
「何にも言ってませんよー。………あ、降ってきましたね」
「お、本当だ。最近ほぼ毎日降ってるなぁ」
まだ小雨だが雨が降って来たのでカバンから折り畳み傘を出す。すぐに雨は強くなるだろう。
しかし、いつまで経っても後輩は傘を取り出さない。
「…なんで傘ださねぇの?」
「せんぱ〜い、相合傘しましょ〜」
「絶対、やだ。お前、傘、持ってる。はよ、出せ」
「なんですかその喋り方…。はーあ、先輩はケチですねぇ。相合傘ぐらいいいじゃないですか」
「嫌だっつってんだろ。ほら、早く出さないと。雨もっと強くなって来るぞ」
そう言うと後輩は不満そうにカバンの中を漁り始める。
なんでそんな不満そうなの?あぁ、少女漫画でも読んで相合傘試したくなったんだな。きっとそうだ。自惚れるなよ、俺。
そんなことを考えながら後輩が傘を出すのを待っていたんだが、いつまでたっても出さない。なにしてんだこいつ。
不思議に思いながら見ていると、
「せ、せんぱい…あの…非常に申し上げにくいのですが、相合傘してくれませんか…?」
悲壮感漂う顔でそう言って来た。
なんなんだよこいつ本当にあーもう…!
現在俺と後輩は相合傘をしている。
違うんだ。これはしょうがないことなんだ。こいつが傘を忘れたからしょうがなくやっていることなんだ。うん。けどさぁ…
後輩は顔を真っ赤に染めて一言も喋らずにぎこちない動きで歩いている。
気まずいんだよぉ!!
おいおいいつもの調子はどうした後輩よ!さっきまでお前が望んでた相合傘じゃねぇかなんか喋れよ下さいお願いだからぁ!
…これは俺から話を振るしかないのか。そうなのか。よ、よし! これは試練だ! やるしかないな! ま、まずは無難に天気の話題だな!
「し、しししししっかし、き、急に降って来たなぁ!!」
めっちゃ噛んだ。なんか変なテンションで喋りかけた。神よ…俺にこの試練は早かったようですこの野郎絶対ゆるさねぇからな。
だがここまでキョドったら後輩がからかって来てくれるはず…!
「そ、そそそそそうですね!!ほ、ほんとに急すぎてびっくりしましたよ!!」
「お、おう、そうだな」
「そうですねー…あはは…」
なんなんだよこいつぅぅ!!!
いつもなら飽きるまでとことんからかって馬鹿にするだろ!?
さっき視界の端に岡本くんが映った気がするがそれどころではない。膝から崩れ落ちていた気がするがそれどころではない!
「あ…私の家です」
神よ! さっきはこの野郎とか言ってすみませんでした!私はあなたのことをずっと信じていましたよ!!
「そ、そうか、じゃあ、またな」
「は、はい、また」
そう言って帰ろうとすると、
「あ!先輩!…今日はありがとうございましたー!またお願いしますねー!!」
顔を真っ赤にしながら不自然にいたずらっぽい笑みを浮かべてそう言い、家に入って行った。
はぁ…………俺も帰ろ。
そう思い、来た道を戻るために振り返る。
するとそこには、もうじき死ぬんじゃないかという顔をした岡本くんが立っていた。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
それから次の日の朝に起きるまでの記憶はない。
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後書き失礼します。
本編に後輩がなかなか出てこず、糖分を補給したかったので、書いてみました。
推敲もしてないんで、すごく拙い文章になっているかもしれません。
本編には一切関係ありません。
岡本くんも本編には一切出て来ません。
これからもこれみたいな番外編書くかもです<(_ _)>
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