第7話 新入部員が欲しい! (後編)
「こうするんだ!」
そう言って暁美先輩は手を本の上に置くと、30冊ほど積み重ねられた本が一瞬で消えて、本棚へと移った。
なるほど、いい方法ってそういう事か。要するに、先輩の「瞬間移動」の能力で一気に片付けて仕舞おうということか。確かにこれなら今日中に終わりそう。
「あなたもたまには役に立つのね、普段は全くもって使えないのに」
「お前は相変わらず失礼なやつだな、そう言う自分だって偉そうに命令してるだけの癖に」
「二人とも、喧嘩してないでさっさと終わらせましょうよ」
「別に喧嘩なんてしてないわよ、私は本当のことを言っただけだもの」
「それはこっちのセリフだ!」
「おもっくそ喧嘩してんじゃねえか!」
全く、なんでこの人たちはこんなにも仲が悪いんだ?まぁ、お互いの言い分も分かると言えば分かる。暁美先輩はただのバカじゃなかったんだと初めて思ったし、逆に雪島先輩が偉そうにしてることに関しては同意する。
結論は、頭のいい人と悪い人は相容れないってことだな。
「ほら先輩達、早く終わらせましょうよ」
「しょうがないわね」 「しょうがないな」
薫が助け舟を出してくれた。さすがだな、あの二人を一言で大人しくするなんて。やっぱり頼りになるイケメンだ。
「ほら、お前も手伝え正一、その方が早く終わる」
「そうよ、早くしなさい」
「はいはい、分かりましたよ」
急に仲良くなったな。全く、薫の言うことはきちんと聞くし、これがイケメンの特権か、羨ましい。
──数十分後──
はぁ、やっと終わった。この能力を使うと体力を消費するんだよな。これだけ連続で使ったからさすがに疲れた。これはもう報酬を貰わないと割に合わないぞ。
「葵ちゃん、こんだけ働かされたんだから何かしら報酬があるんだろうな」
同じ事を考えていたらしい。暁美先輩と同じ思考回路をしていたのはちょっと癪に障るがまあいいや。
「先生をちゃん付けで呼ぶなって言ってるだろうが。まあ今回は君達もよく働いてくれたからな、いずれ何かしらの形で払わせてもらうよ」
「言ったな! 言質取ったからな! 後になって忘れたとは言わせないからな!」
「はいはい、分かった分かった」
面倒くさくなって受け答えが適当になってますよ先生。って、心の中でつっこんでおいた。
だが、俺はそんな事よりももっと重大な事に気が付いてしまった。
「暁美先輩」
「どうした正一?」
「暁美先輩はいつから『言質』なんて難しい単語が使えるようになったんです?」
「馬鹿にしてんのか!?」
「はい!」
「元気いっぱいで答えんな!」
「痛てぇ!」
まさかのグーパンチ。いくら女子の腕力とはいえ、無防備の状態でのグーパンチ結構は効く。
「あなた達いつまで遊んでいるつもり? いい加減戻るわよ」
やばい、怒ってる。それも結構本気で。まじで怖えよこの人。
「「すぐに戻ります!」」
さすがの暁美先輩でも危機を察したのか、同級生である雪島先輩に対して敬語になっている。
そんなこんなで色々あった訳だが、俺達は今、雪島先輩に呼び出されて部室に来ている。俺としては早く教室に行って少しでも休みたいんだけど、めっちゃ真剣な顔で言われたら断りづらい。
部室では重苦しい雰囲気が漂っていた。薫と心海が椅子に座っていたので、とりあえず話を聞いてみることにした。
「俺ら何で呼び出された訳?」
「さあ、分かんないけど多分何か大切な話でもあるんじゃないかな?」
「ふぅん……」
なんか雪島先輩が暗い顔してるから、多分何かしら悪いニュースである事は何となく分かる。
「全員揃ったわね。集まって貰った理由だけど、私達文芸部にとって深刻な問題がある事が分かったの」
「深刻な問題とは?」
「みんなも薄々気づいているとは思うけれど、今この部には一年生がいないのよ」
「あー、そう言えばそうですね。でもそれの何が問題なんですか?」
「先程の本の整理のように大人数が必要となることがあった時に、5人だと人手が足りないのよ」
「でも今回は暁美先輩の能力のおかげで何とかなったじゃないですか」
「今回は朝で人もいなかったからたまたま平気だっただけよ。別の状況だったら誰かに見られる可能性があるじゃない。という訳で、文芸部で新入部員を探すことにしたわ」
「えぇ!?」
「何でそんなに驚くのよ」
「だって新入部員ってことは一年生ってことですよね? もし俺らの異能力のことがバレたら大変なことになりますよ」
「そんなのバレないようにすればいいだけでしょう? とにかく、これは決定事項なので異論は一切認めません」
「はぁ……」
やばい、どうしよう、めっちゃ不安になってきた。まだ5月とはいえ、もう部活を決めてしまった一年生が殆どだと思うし、仮に一年生が新しく入部して、異能力の事を隠すことになったとしても、いずれボロが出てしまう可能性だってある。特に暁美先輩とか、うっかり能力を使ってしまいそうだ。
何故か雪島先輩はえらく自信ありげにしているが、正直言って俺も隠しきれる自信が無い。
しかしもう決まってしまったことだし、しょうがないか。俺らは雪島先輩には逆らえないので、従うしかない。
「それじゃあ、明日から新入部員の募集をかけるからそのつもりで」
「分かりました。じゃあ俺らは戻るんで、お疲れ様でした」
新入部員か、やれやれ、非常に面倒くさい事になったな。一体これからどうすればいいんだか。
まあいいや、考えんのは後だ。俺は疲れているんだ。取り敢えず教室に行って、寝る。
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