第5話 新入部員が欲しい!(前編)

 4月が終わり、花粉が収まってきて比較的過ごしやすい、穏やかな気候の5月の早朝。

 俺、篠崎正一しのざきしょういちは今、人生最大級の窮地に立たされている。平和なはずの登校時間が、完全に地獄と化している。

 右には文芸部の部長、雪島花蓮ゆきじまかれん先輩。左には、幼なじみの藍川心海あいかわみなみ。はたから見たら、美少女二人と登校しているだけに見えるが、俺には二人の後ろから『ゴゴゴゴゴ』というジョ〇ョとかに出てきそうな効果音が聞こえる気がする。

 はぁ、一体どうしてこんな事になったんだ? いや落ち着け、落ち着いて考えるんだ。

 えーと、たしか……。


 ――十五分前――


 朝起きて顔を洗っていたら突然、インターホンが鳴った。

 誰だよこんな朝っぱらから、なんて迷惑な奴なんだ。

 そう思いつつ、俺は渋々玄関のドアを開ける。


「はい? どちら様ですか?」


「おはようございます篠崎君。さあ、行きますよ」


「えっ? な、なんで先輩がウチに!? ていうか行くって何処にですか!?」


「決まっているでしょう、学校です」


「が、学校? こんな早くにですか?」


鷺宮さぎみや先生に仕事を頼まれたのよ」


「だからってなんでこんな唐突に来るんですか。事前に連絡ぐらいくれればいいのに」


「つべこべ言ってないで早く支度しなさい」


「はぁ、分かりましたよ。少し待っててください……」


 やれやれ、まさか文芸部が朝から部活をする事になるとは、思ってもいなかったな。

 それにしても、なんで先輩が俺の家にわざわざ迎えに来てくれたんだろう? そりゃ結構家は近いけど、先輩の家から学校に行くのとは反対方向だから、二度手間になってしまうのに。

 うーん、いくら考えても分からないし、早くしないと先輩に怒られる。急ごう。


 そんなこんなで、支度を終わらせて家の外に出て先輩と一緒に学校へ向かう。

 歩き初めて5分ほどたった時、


「おーい、正ちゃーん!」


 遠くからバカでかい声が聞こえた。なんだこれ、凄いデジャブなんだけど。

 これには流石の先輩も驚いたのか、物凄い勢いで後ろを振り返る。俺も後ろを振り返ると、案の定心海みなみが走ってこっちへ向かって来ていた。

 てかこんな朝っぱらからそんなバカでかい声を出すな! 近所迷惑だろうが!

 でもなんであいつがこんな所にいるんだ? あいつの家はもう少し先の方にあるのに。


「おっはよー!」


「お、おはよう」


 相変わらずめっちゃ早いな。気づいたらもう目の前にいやがる。てゆーか、近い、なんか近い!


「どうかしたの?」


「い、いや、別に……」


 だから、その距離で変な上目遣いをやめろ! なんか恥ずかしいだろうが!


「あら、藍川さんじゃない。おはようございます」


「ゆ、雪島先輩!? お、おはようございます……」


 めっちゃ驚いてるけど、こいつ先輩が居るって分かってなかったのか? でもなんで先輩が居るって分かった途端にあからさまに機嫌悪くするんだよ。それに先輩も先輩で、俺の時と挨拶の仕方が全然違う。なんか怒ってるし。


「ど、どうして先輩がここに?」


「それは私が聞きたいのだけれど、貴方の家はもっと先じゃなかったかしら?」


「そ、それは……、私はただ正ちゃんと一緒に学校へ行こうと思っただけで」


「なら申し訳ないけど、今日は私が先よ。諦めなさい」


 なんかめっちゃ険悪な感じだな……。火花が散っているとはこんな感じのことを言うのか。

 てゆーかめっちゃ気まずい。

 ……はぁ、しょうがない、もう先に行こう。


 そして俺が歩を進めようとした時、


「待ちなさい!」「待って!」


 ほぼ同時に腕を掴まれた。


「「なんで逃げるのよ!?」」


 いやタイミング完璧すぎんだろ! 打ち合わせでもしてきたんじゃないのかってぐらいピッタリだったぞ。


「べ、別に逃げてなんていませんよ。ただ、先生から仕事を頼まれてるなら早く行かないと。大体、二人が言い争っているからいつまでも進めないんですけどね」


「「ご、ごめんなさい……」」


「それに、学校ぐらい普通に三人で行けばいいじゃないですか」




 ――そして現在――


 そうだった、俺が三人で行こうって言ったから実際三人で登校しているんだ。

 なのになんで、こんなにも俺は精神的に疲れているんだ……。


 それから学校へ着くまでの約10分間、この地獄は続くのだった。

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