第3話 なんて最悪な1日なんだ…(後編)
こ、これが女子の部屋ってやつか……。
星華の部屋以外で初めて入ったな。綺麗に片付けられてるし、あとめっちゃいい匂いがする。
つーか部屋の中なんにも無いな。机の上にパソコンと、ベッドぐらいしか目に止まらない。
これは完全に俺の偏見でしかないけど、女子の部屋は物が多いイメージがあったんだけどな。
まあでも、星華の部屋は片付いてたしそんなもんなのか。
「あまりジロジロと見ないでください。警察呼びますよ」
「自分から部屋に入れておいてそれはないんじゃないんですか……。というかそろそろ俺をここに連れてきた理由を聞きたいんですが」
「特にこれと言った理由はありません。ただ、少し話をしようと思いまして」
そう言ってベッドに座る先輩。今更だけど、部屋に男子入れてよくそんなに無防備でいられるものだな。まあでも、俺にはそんな度胸ないんですけどね。
「話とは?」
「先程母が言っていた事です」
「ああ、先輩がモテないって話ですか」
「っ……」
やべっ、怒らせちゃったかな? 今完全に地雷踏んだわ。
しかも当の本人は俯いて肩をプルプル震わせてるし、これ絶対怒ってるよ。
「……」
一向に黙ったままの先輩、何だか心配になって少し顔を覗き込んで見た。
「えっ?」
思わずそんな声が出てしまった。何故なら先輩が目からボロボロと涙をこぼして泣いているからだ。
先輩が泣いているところなんて今まで見たことがなかった。というか正直なところ先輩が泣く人だと思ってもいなかった。
「せ、先輩、なんというか、その、すみませんでした! 」
ここはとにかく謝っておくに限る。後がすげー怖いけど今は謝らなきゃいけない気がする。
「……はぁ、もういいです。別にモテないことなんて全然全く気にしてませんから」
「いやめっちゃ気にしてるじゃないですか」
「ほ、本当です! それに……、私は自分がどうしようもない人間だということは分かってますから……」
「そ、そんなことないですよ! それに先輩がどうしようもない人だなんて、俺は思ってませんから!」
「いいですよ、別に同情なんてしなくても……」
「そんなんじゃないです! これは俺の本心です!」
俺は一度深呼吸をして、ゆっくりと口を開いた。
「俺は1年以上文芸部で先輩と一緒にいて、先輩が笑った所とか沢山見てきたし、確かに怒ったら怖いけど、それを差し引いても俺は先輩と一緒にいて楽しいですよ」
「でも……」
「それに先輩はとてもいい人です。困っていたら必ず助けてくれたし、俺にとって先輩はとても頼りになる、尊敬出来る人です。だから、自分がどうしようもない人間だなんて言わないでください。大体、先輩がどうしようもない人間なら俺はもっとダメ野郎じゃないですか」
「…………」
うーん、なんかまだ納得していないって様子だな。ここはもう一押しいっとくか。
「俺はもちろん文芸部のみんなは、先輩に今までとても助けられてきました。だから少なくとも、俺や文芸部のみんなが先輩を嫌ったりするはずがないですし、寧ろみんな先輩が好きですよ」
「篠崎君……」
お、やっと納得してくれたみたいだな。よかったよかった。
「あなたよくそんな恥ずかしい台詞を真顔で堂々と言えたものね」
「えっ?」
「自覚無かったの? 自分の発言を思い返してみなさい」
えーと、たしか……
!!! やべぇ! 今思うとめっちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってんじゃねえか! やばい! 死にたい!
……帰ろう。これ以上何か言われる前に帰ろう。
「じゃあ先輩、そろそろ俺は帰ります」
「そう……」
俺は部屋から出て速攻で玄関に行った。
なんか逃げるみたいだけど、しょうがない。これ以上は俺のメンタルが持たない。
「それじゃあ先輩、さようなら」
なんかとてつもなく疲れた。早く帰ってもう寝たい。
そんなことを考えながら玄関の扉を開けた時、突然腕を掴まれた。
「篠崎君」
「はい?」
「今日はなんというか、すまなかったわね」
「気にしないでください。泣き顔が見れて少し得した気分ですから」
「そ、その事は忘れてください! けど……、その、一応感謝はしておきます。ありがとうございます」
先輩はそう言って微笑んだ。
さっきまでの心労が全て吹き飛んだ気がした。と言うか、不意打ちでその笑顔は反則だと思うんですけど。
「じゃ、じゃあさようなら。また明日」
その場にいるのが恥ずかしくて、半ば逃げるようにして急いで家を出た。
道中ずっと自分の発言を思い返して、悶絶していたのは内緒。
「おかえり、お兄ちゃん」
「何故だ!?」
朝だけ家に帰って来ることは時々あったけど、1日中家にいるなんて聞いてないぞ。どうゆう事だ?
「どうして帰りが遅くなるのに、なんにも連絡してこないのかな?」
「いやだって、家にいるだなんて知らなかったし……」
「前に寮の改修工事でしばらくの間家にいるって連絡したんだけどね!」
「本当に申し訳ありませんでした!」
ちくしょう、先輩の家に行けば死ぬ程恥ずかしい思いをするし、家に帰れば妹に怒られるし、本当にろくでもない1日だったな。
まあでも、先輩の意外な一面が見れたし、笑顔は可愛いし、案外楽しかったな。
まあ、そんならそれでいいか。
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