第2話 なんて最悪な1日なんだ…(中編)

 いつもなら、1人で音楽を聴いてラノベを読みながら帰ってるはずなんだが、今日は違う。

 何故か俺は雪島先輩と一緒に帰ることになっている。しかし、何も話すことが無くてずっと沈黙が続いているという、何とも気まずい状況に置かれている。

 隣を歩いている先輩をチラッと見てみると、一瞬だけ目が合ってしまい、焦ってすぐに正面を向いた。


「篠崎君」


「え、あ、はい……。なんですか先輩?」


「今日私の家に来ませんか?」


「……聞き間違いですかね? 今とんでもない発言が聞こえた気がしたんですけど……」


「何度も言わせないでください、今日私の家に来ませんかと言ったのです」


「やっぱり聞き間違えじゃなかった!? ていうか何言ってんですか、俺が先輩の家って……」


「か、勘違いしないでください! 私は別に篠崎君の事が好きだからとかそんな理由で言ったわけじゃないですからね!?」


「そ、そんなに全力で否定しなくても十分伝わってますから……」


 そんなことは最初から分かってはいるが、逆にそんなに否定されると、何だか悲しい気持ちになってくる。

 まてよ、じゃあなんで先輩は俺を家に呼ぼうとしているんだ? くっそぉ全然分からん!


「着きましたよ」


 そうこうしているうちに着いてしまった。どうしよう、なんか色んな意味で緊張してきた。


「あれ? 先輩の家ってめちゃめちゃ近所じゃないですか。ウチから100mも離れてませんよ」


「だから家に来ませんかと言ったのです」


「ああ、なるほど。そういう事ですか」


 要するに家近いし遊びに来ない? って言いたかったんだな。それならそうと言ってくれればいいのに。


「さあ篠崎君、早くドアを開けて下さい」


「何でですか、ここ先輩の家でしょ」


「いいから開けなさい」


「はい……すいません、すぐに開けます」


 俺は渋々ドアに手を掛けて先輩を中に入れる。この立ち位置だと、俺は完全に執事扱いだな。


「ただいま」


「あらおかえり花蓮、珍しく早いじゃない」


 そう言って廊下の奥から女性が歩いてきた。多分先輩のお母さんなんだろうけど、なぜ食器とスポンジを持っているのか? 洗い物の途中だったとしても普通は持ってこないだろ。

 いやしかし流石は先輩のお母さん、ものすごい美人だ。めっちゃ若く見えるし、正直姉だと言っても信じる。


「今日は来客がいるから早く帰って来たの。さあ、遠慮しないで入って下さい」


「えっと、お邪魔します。初めまして、篠崎正一といいます」


「…………」


 え? 何これどういう状況? 先輩のお母さんがさっきからずっと呆然とした表情をしているんですけど…。


 ガッシャァァァン!


 !!?


 びっくりした! なんか急に持っていた食器を落としたんですけど!? そんなに驚く事か?

「お父さん、お父さん! 花蓮が彼氏を連れてきたのよ!?」


「え? いや俺は彼氏じゃないです! 先輩もなんか言ってくださいよ!」


「彼氏、やはりそういう風に見えるのですか……。なるほど、これはいいことを知りました」


 ああもうダメだ、なんかブツブツ独り言呟いてるけど何言ってるのか全く分からない。て言うかなんで若干誇らしげにしているんだ……。



 ――10分後――


 現在、俺は先輩の家のリビングで先輩とその母親と緊急会議をしている。

 ちなみにお父さんがいるというのは嘘だった。なんでも、1度言ってみたかったらしい。正直、嘘でよかったと思った。先輩のお父さんって絶対怖いと思うし。


「なんだ、彼氏じゃなくてただの後輩だったのね! 私ったら早とちりしちゃって、ごめんなさいね」


「いえ、大丈夫です」


 よかった。何とか誤解は解けたみたいだ。


「全く、迷惑な話ね」


「いや先輩、満更でもない顔してましたよね?」


「そんな事ありません。彼女いない歴=年齢という篠崎君の可哀想な脳みそが幻覚でも見せていたんじゃないですか?」


「俺に彼女がいないのは関係ないでしょうが!」


 全く、どうしてラノベでも現実でも黒髪ロングの人達はこう口が悪いんだ……。まあ、あえて誰とは言わないでおくが。


「全く、この子に彼氏なんてできるはずないのにね」


「え? それってどういうことですか?」


 雪島先輩は美人だし、その……、いわゆる胸の大きい人に部類されるから、男子にモテないわけが無いと思うんだけどな。そんな事ここで言ったら、十中八九ぶん殴られるだろうから言わないでおくが。


「この子って普段から無愛想で口も悪いじゃない、だから男の子はみんな怖がっちゃうのよね」


 確かに、先輩は怒ると物凄い怖いし、男子の皆さんがビビってしまうのは分かる。


「お母さん、余計なことを言わないで下さい! ……ハァ、もういいです、行きますよ篠崎君」


 そう言ってさっさとリビングから出ていってしまう先輩。俺は急いでその後を追いかけた。


「待ってくださいよ、行くってどこにですか?」


「決まっているでしょう? 私の部屋です」


「……え、ええぇぇ!?」


 俺が先輩の部屋に?なんで?というか展開が急すぎて何が何だか全然理解出来てないんだけど。


「ほら、行きますよ」


「え、あ、ちょ、待ってくださいよ」


 俺は言われるがままに先輩のあとを着いて行った。ここで帰ったら後が怖いから行くんだぞ。決して女子の部屋に入るということにドキドキ、もといワクワクしているわけじゃないぞ。

 そうこうしてるうちに、俺はもう先輩の部屋の前に来てしまった。や、やばい、めっちゃ緊張する。


「どうぞ、入って下さい」


 だが今更後には引けないので、俺は覚悟を決めてドアを開けた。


「お、お邪魔します……」









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