第一章
第1話 なんて最悪な1日なんだ…(前編)
あーやばい、結構遅れた。くそっ、まさかあの後担任の雑務を押し付けられるとは…。おまけに彼氏が欲しいとか、過去の嫌な思い出話とか聞かされるし、散々な目にあったぜ。そのせいで俺は今廊下を全力疾走させられている。
ああ、絶対に先輩怒ってるよな……。こうなったら誠心誠意謝って許してもらう事に賭けるしかない。
部室に着いた俺は1度深呼吸をして、恐る恐るドアを開ける。
「すいません、遅れました!」
「あら篠崎君、今日は随分と遅かったわね。この私を30分も待たせるとは、いい度胸してるじゃない」
そんな全力で睨まなくてもいいじゃないですか。
「ち、違うんです先輩。これには、ふかーい訳があってですね……」
「言い訳は結構です」
「うぅ……」
こ、怖ぇ。明らかに目が俺を殺すと言ってますよ先輩。
この、超絶怖い人が、俺のいる文芸部の部長で3年生の
それに、色々と人間と離れしている。まず、高校生模試2年連続全国1位、さらに中学の時陸上の100m走、12秒フラット。なんでこんな凄い人が人がこんな高校の、それも文芸部なんかに居座っているのか不思議でならない。
「まあ冗談はさておき、篠崎君も来た所で早速始めましょうか」
「雪島先輩、ちなみに今日は何するんですか?」
薫がそう聞いたら、部長はフッ、と微笑んで言った。
「今日は『アレ』をやります」
『アレ』というのは、俺たち文芸部でなぜか恒例になっている不定期開催行事だ。
「ハァ、またあの検診やるんですか」
検診というのは、もちろん病院とかでやる検診ではなく、俺たちだけにしか出来ない事だ。
そういえば今更な気がするが、改めて文芸部の全員のことを紹介しておこう。
ちなみにこの部活のメンバーは俺を含めて、普通の人間ではなく全員が『異能力』を持っている。
文芸部の部長で3年生、いろんな意味で怖い。異能力は「時間停止」。
もうこれだけ聞くと最強だよな。けどこの能力には弱点があって、止めていられるのは長くても20秒程度が限界だ。まあ、それでも時間が止められるなんてチート中のチートだ。
雪島先輩と同じ3年生。ただし、超絶頭が悪いためいつも補習を受けている。もちろん、この人も異能力者で異能力は「瞬間移動」。自分もしくは、自分の触れている人や物体を瞬間移動させる。
まあ当然この能力にも弱点はあって、まず、最大重量が60kgで、1度使ったら次に使うまで3秒のインターバルが必要なこと。移動出来る距離が、半径200m以内ということ。
文芸部2年生で、俺の友達兼親友。異能力は「創造」。自分がイメージしたものを現実に作り出す。きちんとしたイメージを持たないと創ることが出来ないのが、弱点らしい弱点だ。あとは生きているものは創れないこと。
この能力はなんだかんだで結構万能だから、日常生活でも色んなことに役立つ。羨ましい。
文芸部2年生、小学校からの幼なじみで、いろんな人からモテるけど、正直俺自身はこいつのことが苦手だ。
異能力は…分かりやすく言うと、「自然系」例えば火や水、風や雷とかのワン〇ースとかで言う〇ギア系の能力だけを1人に集中させた感じだ。(本当のロ〇アみたいにすり抜けたりはしない)
実はこの能力、弱点と呼べる程のものがない。その気になれば地球を滅ぼすレベルの災害だって引き起こせるはずだ。
最後に俺、
文芸部2年生、特に秀でた才能もなければ、別にイケメンでもなんでもないパッとしない人間だ。異能力は「模倣」異能力者に触れたらそいつの能力をコピー出来る。一見強そうだが、コピー出来るのはその性能の3分の1程度だけだ。だから、雪島先輩の能力だと俺は6〜7秒程度しか時間を止められないし、暁美先輩のテレポーテーションだと、最大重量が20kgだから、自分すら瞬間移動させることが出来ないし、範囲も半径6〜70mぐらいだ。でも、インターバルが1秒だけだからそこはありがたい。
こんな感じで、文芸部とは名ばかりの異能力者の集団が俺らだ。いや、ちょっと前は普通の文芸部だったんだよ?
けどまあ、この話も長くなるのでまた今度にする。
「さあ、さっそく検診を始めましょう。それじゃあ篠崎君、よろしくね」
「毎回思うんですけど、なんで俺がやらなきゃいけないんですか?」
「あなたがやるのが一番効率がいいですし、正確ですから」
「俺の能力自体が成長したという考えには至らなかったんですか」
「今までそんな事は無かったじゃないですか」
「そ、そうですよね……。ああもう、分かりましたよ。やればいいんでしょやれば」
「分かればいいです。早くしてください」
「ハァ、なんでこんな目に……」
―――30分後―――
まあ、どんな感じだったのかは、ここでは割愛するとして、想像に任せる。
「やっぱりなんにも変わってないですね。前回からの成長はなしです」
「全く、役に立ちませんね」
「先輩がやれって言ったんですけどね!?」
「それじゃあ少し早いけど今日はここまで、お疲れ様でした」
「無視!?」
「うるさいですね、静かにしなさい」
「り、理不尽だ……」
「じゃあ先輩、僕は先に帰ります。お疲れ様でした」
おい待て薫、逃げるな。俺を置いていかないでくれ。
「正ちゃん一緒に帰ろ」
「嫌だよ、お前と帰ってると身の危険を感じるんでな」
実際、同じクラスの男子生徒数人から強烈なタックルとかされた事あるし。
「酷いな〜、じゃあ先輩、一緒に帰りましょうよ」
「ごめんなさい、藍川さん。今日は先約があるの」
「そうなんですか? じゃあお先に失礼します。じゃあねー正ちゃん」
「はいはい、じゃあな」
……あれ? もしかして俺、今先輩と二人っきりじゃね? いや別に嬉しい訳でもなんでもないけど、なんかろくでも無い事が起こりそうな予感がする。
「それじゃあ篠崎君、私達も――」
「あ、じゃあ先輩、俺も帰りますね。お先に失礼します」
カバンを持って、勢いよく部室から出た。そしてそのまま、昇降口まで全速力で走った。この部室は1階にあるから、昇降口までは全力で走って10秒程で着く。いくら先輩の足の速さでも、すぐには追いつかれない筈だ。
「あ、あぶね〜、助かった……」
「何が助かったんですか?」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
な、なんで先輩がここにいるんだ。今さっき部室から出た所なのに。
……あ、さては能力を使ったな。クソ、卑怯なことを……。
「やめてくださいよ、急に出てくると心臓に悪いですから!」
「逃げようとするからです。別に何もしませんよ」
「じゃあ何が目的ですか」
「いえ、ただ今日は一緒に帰ろうかなと思いまして」
「一緒に帰ろうと言っても先輩、俺と家の方向同じでしたっけ? ていうか暁美先輩と帰ればいいじゃないですか、同学年なんだし」
「彼女は今日も遅くまで補習をさせられています。それに、たまには後輩と一緒に帰るのもいいじゃないですか」
「だったら、
「まったく、あなたって人は……」
「? どうかしましたか先輩?」
「いえ、別になんでもありません。ただ、篠崎君は本当にどうしようもない人だなと」
「今のやり取りでなんで俺そこまで言われなきゃいけないんですか!?」
「うるさいですね、ほら、早く帰りますよ」
「え、あ、ちょっと待ってくださいよ」
なんか
ダメだ何にも浮かんで来ねぇ、諦めよう。
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