ラブコメに異能力なんて必要ない!

夢無 悲

第0話 プロローグ

異能力いのうりょく

 バトル系漫画とかラノベとかが好きな男子(全員とは言ってない)なら、1度は憧れを持ったりしているはずだ。

 かく言う俺だって異能力が欲しいとかずっと思っていた。そう、『あの時』までは…。


 まあ、その話はまた今度に話そう。




 俺の名前は篠崎正一しのざきしょういち、高校二年生。朝から二つ下の妹に叩き起され、最悪な目覚めで学校の支度を強要させられている。

 いつもなら、部屋でアニメでも見ながらのんびりと支度をしているのに、今日に限って妹が家にいるとか最悪だよ。


 基本、俺の妹は全寮制の学校に通っているため、家にいることなんてほとんどないのだが、時々気まぐれで家に帰って来る。5月に帰って来ることなんて滅多にないのに。全く、迷惑極まりないことだ。


 リビングに出ると、既に朝食が準備されていた。俺はそれを食べながら、日々の不満を愚痴る。


「クソっ、いつか絶対に学校と言う概念を消しさってやる!」


「それ、前に帰って来た時も同じ事いってたよ、お兄ちゃん」


「いや今回は本気だからな! いいか星華せいか、絶対だからな!」


「はいはい、せいぜい頑張って下さいね」


 そう言って、リビングから出ていった星華。最後に一言、「あと15分で家出ないと遅刻だよ」とか言ったせいで、余計に急がなくちゃいけなくなった。


 これが俺の妹、篠崎星華しのざきせいかである。有名な私立中学に通っている優等生で、成績優秀、スポーツ万能、明るくてクラスの、いや、学年も通り越して、学校中の人気者だ。おまけに兄である俺から見ても、美少女と思えるほどの容姿。

 うん、俺とは大違いだ。

 しかし、俺はどうにもこの妹が苦手だ。なんというか俺に対しては他の人よりも厳しいというか、意地悪というか、とにかく俺に対しての扱いが酷いと思う。小さい頃は可愛かったんだけどなぁ。やっぱそういうお年頃なんだなぁ。

 そんな事を考えていたら、ほんとに遅刻しそうだったので、俺は朝食を残して足早に家を出た。


 朝はラノベを読みながら登校するのが俺の日課だ。この時間が一番落ち着く。まったく、星華のせいで奪われた俺の数少ない楽しみをこの時間に取り戻さないと。

 そして俺がカバンから本を取り出そうとしたその瞬間、


「おーい、しょうちゃーん!」


 遠くの方から馬鹿でかい声が聞こえた。しかも、今一番聞きたくないやつの。


「うげぇ……、よりにもよってお前かよ、面倒な奴が来たな……」


 まあチラッと見た感じ結構離れてるし、ここは気づかなかった事にしよう。今の発言も聞こえない様に言ったはずだし、問題ないだろ。


「なによその反応は、しかも『面倒な奴』は酷いんじゃないの!?」


 早っ!? さっきまであんなに離れてたのに、もう隣に来てやがる。

 ていうか、なんで小声でしか言ってない事まで聞こえてんのこいつ!? サラッと当てていい事じゃないだろ。怖えよ……。


「はぁ、何の用だよ。それといい加減正ちゃんはやめろ」


「もう、しょうがないなぁ、まあ慣れちゃったからこれからも呼ぶんだけどね。ちなみに特に用はないんだ、ただ一緒に登校したかっただけ」


「このアマ……」


 ちなみにこの女が、俺の幼なじみの藍川心海あいかわみなみ。性格は見ての通りで、ウザい(俺の偏見だが)。小学校からの友達、まあいわゆる幼なじみってやつだな。いつもことある事に俺をからかって来る。


 けどこいつってモテるんだよなぁ、普通に可愛いし、頭も良いし、俺以外の人にはあんまりちょっかい出さないから、色んな人から人気があるし。

 俺とは大違いだな。

 でもこいつの告白話とか聞いたことないんだよな。不思議だ。

 そんなこんなで、気づけば学校に着いていた。


「じゃーね、正ちゃん。また放課後迎えに行くからね」


「いや来なくていいし、むしろ来ないで」


「じゃあまたねー」


 聞いちゃいねえ。頼むよ来ないでくれよ。お前が俺の教室に来る度にクラスの男子から『リア充爆発しろ』オーラが半端ないんだよ。今だって下駄箱にいる男子生徒からめっちゃ殺意を感じる。

 ったく、これのどこをどう見たらリア充に見えるんだよ。どう見たって俺嫌がってるよね。


 色んな奴のせいで疲れていた俺は、教室に入るなり引きずり込まれるように、自分の席についた。


「はぁ、疲れた……。朝から超疲れた」


「どうしたの? そんな大きなため息ついて。もしかして、妹さんと何かあった? それとも藍川さん?」


「どっちもだ」


「うわぁ、それは大変だね」


「分かってくれるかかおる、心配してくれるのはお前だけだよ。やっぱり持つべきものは親友だな」


「でも仕方ないよ、二人とも正一ぐらいしか男子で仲良い友達いないし」


「いや、星華は女子校だからしょうがないとして、心海みなみは普通にモテると思うし、俺なんかに構ってないでいい加減彼氏とか作ればいいんだよ、お前もそう思うだろ」


「ねえ正一、ちょっと死んだ方がいいよ」


「いきなり酷っ!?」


「あはは、冗談だよ」


「全然冗談に聞こえないんですけど!?」


 こいつは、俺の友達兼親友の桜木薫さくらぎかおる。基本的には良い奴なんだが、時々すごい怖いことを言う。

 ちなみに、かなりのイケメン(分かりやすく言うと俳優とかジャニーズになれるぐらい)だ。優しいし、相談とかよく乗ってくれるし、リーダーシップとかもあっていろんな人から頼られる。

 ふむ、俺とは大違いだ。


「なあ薫、心海みなみって好きな人とかそういうのいないの?」


「どうして?」


「あいつが誰かと付き合えば、今まで俺に向いていた殺意が他の奴に移って、俺が平和に学校生活を送れるかもしれないだろ」


「好きな人は知ってるし、その人との中を取り持ってくれとも頼まれてる」


「おお、マジかよ! 誰々? 俺もそれ手伝うから、教えてくれよ」


「守秘義務があるので教えなーい」


「なんだよ、ケチだなー」


 これが、いつもの日常。朝のはちょっと予想外だが、基本平和に生きてる。



 ―――チャイムの音―――


「あー、やっと終わった。やっと自由だ」


「それじゃあ僕は先に部室に行ってるから、早く来ないと部長に怒られるよ」


「全然自由じゃなかったけど、まあ分かった。すぐに行く」


 そう、いつもの日常はここまでだ。そして、ここから先が俺が一番嫌いな非日常だ。

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