第2話『西暦2022年・日本国』

 時に、二〇一一年。

 東京湾巨大生物上陸災害は未曾有の被害をもたらし、日本は滅びの運命を迎えるかと思われた。

 絶望的な状況の中、ついに民衆党政権は逃亡する。

 だが、荒垣健あらがきたける防衛大臣がわずか四二歳にして内閣総理大臣に就任。【ヤマタノオロチ討伐作戦】を発動し、日本を救ったのだった。


 決断力にあふれる荒垣政権に期待する声が集まったが、復興の道筋を立てると彼は潔く首相の座を退いた。

 荒垣は衆議院を解散、自主党総裁の阿部泰三あべたいぞうは民衆党から政権を奪還し、阿部内閣が発足する。

 荒垣はその功績により、国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官に任じられた。

 

 時は流れ、二〇二二年──

 岸本内閣にて荒垣は防衛大臣に再登板。

 そして内閣府特定事案対策統括本部【特事対】本部長に就任した。            


     *    *


 雲ひとつない青空が広がる。

 花火が打ち上げられ、ファンファーレと共に色とりどりの紙吹雪が舞い散る。 


 岸本内閣総理大臣が演壇に上がり挨拶する。

『私は、『フェスタよこはま2022』開幕にあたり、日本国内閣総理大臣として、護衛艦〈やまと〉の就役を宣言するものであります──』


 護衛艦〈やまと〉は満艦飾に彩られていた。艦首には日の丸が高らかにはためく。

 来賓席にはロナルド・ジョーカーアメリカ合衆国大統領、元首相の阿部泰三副総理兼外務大臣、荒垣健防衛大臣とそうそうたる顔ぶれが並ぶ。


 自衛艦隊司令官に就任した東城宏一海将の姿もあった。

「荒垣大臣。お久しぶりです」

「東城司令官!」

 荒垣は立ち上がり、盟友と肩を叩き合う。

「息子さんも〈やまと〉に配属だそうですね」

「ええ、わが倅ながらよく務まるものです」


 続いて、阿部元首相とジョーカー大統領が演壇に招かれる。

 アメリカ合衆国大統領の登場に観衆も沸く。

 ジョーカーと阿部は握手を交わし、蜜月をアピール。マイクの前に立った。

 先に阿部が口を開く。

『──日米は今や対等なパートナーとなりました。《自分たちの国は自分たちで守る》……護衛艦〈やまと〉はその象徴であります』

 そしてジョーカーが発言する。

『プライムミニスターキシモトとタイゾウのリーダーシップのもと、〈ヤマト〉は極東地域の安全にコミットメントするだろう。わがアメリカはそれを見守って行きたいと思う──』

 

 後退する米国の軍事プレゼンス。厳しさを増す日本の安全保障環境に際し、阿部政権は護衛艦〈やまと〉の建造を決定したのだった。


 米国の属国からの脱却。

 日本が新たな巣立ちを迎えた瞬間である。


     *    *


 護衛艦〈やまと〉を始めとする自衛隊ブースには大勢の観客が詰めかけ、賑わいを見せる。


 〈やまと〉砲術長、東城洋祐とうじょうようすけはタラップの下で恋人の到着を待っていた。

 腕時計を見、辺りを見渡す。

「──いた! 美咲!」

「あ、洋祐!」

 ワンピース姿の美咲が駆けてくる。

 洋祐は彼女の頭を撫でてやり、美咲は顔をほころばせる。

「お腹減ったね」

「そうだな……」

 洋祐がパンフレットを一瞥する。

「『護衛艦カレーグランプリ』やってるぞ」

「へえ~おいしそう」

「じゃ、決まりだな」


 ふたりは手を繋ぎ、会場へと向かった。


     *    *


 荒垣のもとにSPが駆け寄り、耳打ちする。

「…………え!?」

 荒垣は血相を変え、SPに促されるまま黒塗りのセダンに乗り込む。

 スマートフォンを取り出し、電話をかける。

「総理ですか?……ええ、聞いています。すぐに官邸に向かいます」

 セダンが急ハンドルを切り、加速する。

「──西ノ島に謎の人工物が現れたと……!」


 すでに首相官邸に官邸連絡室が設置、関係各省庁幹部級職員からなる緊急参集チームが招集されたとのことだった。


 

『(西暦二〇二二年、日本に新たなる神話が紡がれる──)』

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