第40話 目覚めは……
目が覚めると、そこは知らない場所だった
全体的に白色で統一された家具類が置かれた場所だった
自分は寝ていたようで、真っ白な布団がかけられていた
上体を起こし……起こし!……あれ?体がうまく動かない?
腕にも力が入らない?足は少し動くな
足をばたつかせてもぞもぞ動く
「塩谷さん、入りますよ~」
おっ、誰か来た!
「ずい、ゲホッ!ゲホッ!」
声が上手く出ない⁉
しかし、俺が声を出そうとした事は伝わったようでカーテンがシャーーっと勢いよく開けられる
「起きられたのですね。今先生を呼びますから、じっとしていてくださいね」
声が上手く出ないから頷く事で返答をする
今の人の恰好と部屋の感じから察するに、ここは病院で俺は入院患者のようだ
そして少ししたら医師が入ってきて、幾つか質問してまた出て行ってしまった
一人になった俺は最後に覚えてる事を思い出す
確か……市長に何か聞きに行ったんだよな
それで、市長の話しを聞いて……あれ?どんな内容だったっけ?
ダメだ、思い出せない!
「浩二さん!」
「ん?あ゛いか」
「はい!起きたんですね!良かったぁ良かった……」
愛衣が涙を流し喜んでいる?大袈裟だなぁ……
「ゲホッゲホッ」
「大丈夫ですか⁉」
「だいじょぶだいじょぶ」
水を飲み、喉を潤す
「ふぃー……うん。声出る様になってきたかな」
「その、お久しぶりです。浩二さん」
「久し、ぶり?」
「そうです。浩二さん、ずっと眠ってたんですよ」
「どのくらい?」
「約2ヶ月、です」
「2ヶ月もっ⁉」
「は、はい。」
「通りで体が動かないわけだ」
脱力し、目をつぶる
「あの、浩二さん」
「ん?何?」
「覚えてますか?あの日の事」
「あの日?」
「浩二さんが倒れた日の事です」
「実は、あんまり覚えてないんだ。確か、市長に何か聞きに行ったはずなんだけど……」
「そう、ですか……」
「知ってるなら教えてくれないか?何があったのか」
「えっと…あっ!もうこんな時間ですね!浩二さんも目が覚めたばっかりですし、無理させちゃダメですよね!私帰りますね!また明日来ます!」
そう捲し立てるように言って愛衣は帰っていった
その日はその後看護師の人しか来なかった
翌日、簡単な検診を済ませて病室に戻ると4人の知り合いが待っていた
紫さん、愛衣、市長、ブックメーカーこと本郷さん
「あれ?皆さん揃ってどうしたんですか?」
「……浩二さんにあの日の事を説明する為に集まりました、まずは私から説明しますね」
愛衣は真剣な眼差しで話し出した
「私たちは魔女の世界に身を置く者です。そして、浩二さんも今はこちら側の者になりました」
え?どういうことだ?何を言って……?
「なぜ浩二さんがこちら側に来たかは、その……私の、せいです」
「Ms.ブラック様、それは違います。もし原因があるとしたら私か本郷のどちらかでしょう」
「……でもっ!でもっ!」
「愛衣、落ち着きなさい。今は浩二さんに説明しなきゃいけませんよ」
「はい……母上」
「ふむ。どうやら、Ms.ブラック様は平常心ではないご様子。僭越ながら私が代わりに説明させていただきます」
「市長?」
「はい。塩谷様。なんでございましょうか?」
「……なんで様付けに?」
「本当に現状をご理解できていないようですね」
「へ?」
「あなた様はMs.ブラック様の伴侶となられました。つまり、私の仕えるべきお方という事でございます」
「はんりょ?」
「はい」
「なんで?」
「契約が成立したからでございます」
「契約ってなに?」
「専属契約…つまり一生共にいるという約束でございます」
「だれが?だれと?」
「Ms.ブラック様と塩谷様が、でございます」
「はい?」
「お二人は将来を誓い合った仲という事でございます」
「いやいやいや!なんで⁉どっからそんな話しになったんだ?」
「あの日、塩谷様は瀕死の状態でした」
「瀕死?なんで…?事故にでも遭ったのか?」
「いえ、呪いの影響でございます」
「呪い?」
「はい。正確には私の元を訪れる1週間ほど前に呪いにかかりました」
「市長の所へいく1週間前……」
「塩谷様のお宅で本郷とMs.ブラック様が会話した事が切っ掛けでございます」
「二人の会話……あ!そうだ!魔女の世界!その話しを聞いて気になって、知ってそうな市長に会いに行って……」
「はい。そこで私が話してしまったが故に、呪いの浸食が加速し瀕死の状態になってしまったのです」
「でも、俺生きて」
「はい。Ms.ブラック様と専属契約をした事で呪いは解けました。しかし、呪いが解けただけで健康体になったわけではなく、こうして入院する事になってしまいました。申し訳ございません」
「えっと…その専属契約ってのは解除できないんですか?」
「え……解除…したいんですか?」
「愛衣?だってさ、呪いは解けたんだろ?なら」
「そう、ですか……」
「俺にかかった呪いを解くためにしたんだろ?」
「はい。助けたかったんです……浩二さんに生きていてほしくて」
「そっか、ありがとな。こうして無事に助かったんだし、俺なんかの為に専属契約ってのをしてくれて本当にありがとうな」
「私……一緒にいたら迷惑ですか?浩二さんの隣にいたらダメなんですか?」
「迷惑じゃないけど」
「じゃあなんで⁉なんで解除したいなんて言うんですか⁉」
「正直な話、俺が愛衣を幸せに出来るとは思えない。伴侶って結婚するって事だろ?俺みたいないい加減な奴が誰かを幸せには出来ないよ」
「私は……私は浩二さんと一緒にいるだけで幸せです。だから」
「それは…とても光栄だけどさ、それじゃダメだよ」
「なんで…ですか」
「だって、それじゃ俺が幸せになれない」
「っ……」
「俺、勉強も運動も出来ないし金も無いし年だって離れてる。愛衣が俺の事をどう思ってるか知らないけどさ……俺は俺自身をダメな奴だって思ってる。そんな奴が隣にいたら愛衣を不幸にしちゃうだろ。それは絶対に嫌なんだ……」
「ふふ。一ついいかしら?」
「紫さん?」
「浩二さん、あなた勘違いしてますよ」
「勘違い?」
「愛衣は専属契約したから一緒にいてほしいって言ってるわけじゃないの。愛衣はね、浩二さんの事大好きなのよ」
「へ?」
愛衣を見ると瞳に涙を溜めて、しかし必死に泣くまいと耐えていた
さっきからずっと下を向いてたから気付かなかった……
「愛衣?本当に俺の事を……?」
「はい。大好きです。世界で一番大好きです」
「専属契約が無くても?」
「はい……ずっと一緒に居たいです」
「もう一つ聞いていいか?」
「……?」
「俺の何処が良いんだ?さっきも言ったろ、俺なんて」
「最初は浩二さんの栞を大好きになりました。それで気になったんです。こんな素敵な栞を作る人はどんな人なんだろうって。それで…その…市長にお願いして教えてもらったんです。それで、知れば知るほど会ってみたくなって……でも、いきなり会いたいなんて言ったら不審がられちゃうから……」
「それで、依頼って形にしたのか」
「そうです。実際に会ってみて……」
「会ってみて?」
「なんかパッとしないなぁって!ふふ」
「酷いな……」
「でも、よかった」
「なんで?」
「だって、一緒にいても緊張しなくてすむから」
「なるほど、な」
「それで、魔力栞を作ってる姿とか魔力栞に込める想いとか色々素敵な所を見つけて……それで、気が付いたら好きになってたの」
「そっか……」
「だから、自分なんかなんて言わないでほしいの」
「そっか。ごめん!それとありがとうな」
「それで、その……私の事は、どう思ってるんですか?嫌われてはいないです、よね?」
「ああ、もちろん。大好きだよ、愛衣。どうかこれからもよろしく」
「うぅ…はいっ!」
涙を流し喜ぶ
こうして、俺と愛衣は
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