第39話 儀式の時

あれ?俺は…?ここはどこだ?

真っ暗な闇の中?

手を伸ばそうとしても感覚が何もない

そうか……俺、死んだのか……

乾いた笑いがこみ上げる

あ~あ、そっか……死んだのか

まぁ、人間いつかは死ぬんだしな

仕方ないよな……

夢、叶わなかったな……分不相応だったからかな

だからって……

……チクショウ!なんで、今なんだよ!まだやりたい事も出来たはずの事もあったのに!

このまま、終わるのか




一方その頃の市長室では

「急なお呼びたて、誠に申し訳ございません。Ms.ブラック様」

「市長?いったいこれはどういう事ですか?なんで浩二さんが倒れてるんですか?」

「これは、呪いの影響でございます。Ms.ブラック様以外の魔女と接触、魔女の世界の知覚を切っ掛けに発動したと思われます」

「そんな……なんで浩二さんがこちら側の事を」

「Ms.ブラック様とブックメーカーの会話を聞いて興味を持ったようです」

「そんな……私の、せい?」

「違います。Ms.ブラック様のせいではありません」

「だって、私が!私が不用意に……」

「彼にそこまでの価値がありますか?魔女の世界に迎え入れるだけの価値が?」

「それは……あります」

「彼はごく平凡な一般人ですよ?」

「それは……でも、彼には才能があります!」

「魔力栞の才能ですか?それが何になるんです?魔女には必要ないはずでしょう?」

「それは……でも……」

「私はこの男、塩谷浩二は見捨てるべきだと考えます」

「何言ってるんですか⁉それはあんまりにも」

「酷い、ですか?でも彼とMs.ブラック様が契約したなら、彼はもっと過酷な世界を知ることになりますよ」

「私たちの事を知る方が死ぬよりつらい、と」

「そうです」

「だからって見殺しにはできません!」

「では、どうするのです?」

「儀式をします」

「彼は今意識を失っています。いつ目覚めるか分かりませんよ。このまま目覚めない可能性だってあります。それでもですか?」

「はい。浩二さんを私のモノにします。準備を手伝いなさい!」

「それは……」

「これは命令です!逆らう事は許しません!」

「ぐふっ……はい。畏まりました」

市長は胸を押さえ苦しそうに返事をする

そして急ぎ儀式の準備をする

「これより専属契約の儀式を執り行います」

「な⁉専属契約ですか⁉」

「はい、そうです。浩二さんを私の、伴侶とします」

「不可能です。彼は気絶しているんですよ?宣誓なんて出来ませんよ!」

「それなら、起こせばいいだけです。あなたは医療系の魔法図書も使えるでしょ」

「無理矢理覚醒させるおつもりですか⁉」

「浩二さんの体内から異常な量の魔力マナを感じます。このままだと1時間もすれば死んでしまいます」

「そんな、まさか⁉そんな急激に呪いの浸食が加速するはずが」

「普通ではあり得ない、です。でも、それは私達魔女の専売特許です」


市長が医学書の魔法図書を本棚から取り出し、意識を覚醒させる魔法を発動する

「目覚めなさい、塩谷浩二」


「ゔ……はっ!はぁはぁはぁ」

「目が覚めたようですね、塩谷くん」

「ここは……?あれ?俺どうなって……」

「浩二さん、ごめんなさい」

「何で、謝って……」

「今から私と浩二さんは契約します。時間が無いので略式になりますが、これは反故にできない絶対のものです。それでも良いですか?」

「ああ」

「……私と志を共にすると誓いますか?」

「ああ」

「私の為に全力を尽くすと誓いますか?」

「ああ」

「私の為に、一生を捧げると誓いますか?」

「ああ」

「なら……誓いの口付けを」

いつもと違い神秘的な雰囲気を纏う愛衣の顔が近づく

身動きの取れない俺はされるがまま受け入れる

ちゅっ、と軽く触れあう程度のキスをする

体の中心から温かくなり心地よくなって眠くなる

「あれ……なんか眠く、なって」

「浩二さん、ありがとうございます。一先ず眠って大丈夫ですよ。ゆっくりお休みください」

俺の意識は再び闇の中へ落ちる

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