第38話 魔女の世界

翌日、俺はまたも市役所に来ていた

毎回お馴染みの受付の人と会うため、ではなく今日は市長に聞きたいことがあるからだ

市長なら知っているはずだ、昨日二人が話していた内容について

「すいません、市長に会いたいんですけど」

「無理です(ニコニコ)」

「そこを、なんとか」

「無理です(ニコニコ)」

「とりあえず、市長に取り次いで」

「無理です(ニコニコ)」

「はぁ……、じゃここで待たせてもらいます」

「……チッ…帰れよ」

「酷っ!帰ってほしければ市長に会わせろ」

「…………」

半ば言い争いのような会話をしていると、後ろから声を掛けられた

「やぁ、何を話してるんだい?」

「おお、市長!ちょうど良かった!今時間あるか?いや、ありますか?ありますよね?」

「私は公務があるんだが……」

「Ms.ブラックについて、聞きたい事があるって言っても?」

「Ms.ブラック様について?ご本人に聞かないので?」

「ああ、教えてくれそうにないからな」

「なら、私が教える事もないと思いませんか?」

「まぁ、そうだな。でも一か八か、物は試しっていうだろ」

「私だって予定を開けるの苦労するんだが……来週の水曜なら少し時間を取れるはずだ」

「来週の水曜だな。それじゃ、また来る」

今日が木曜だから6日後か

「ああ、それでは失礼する」


市長は速足に立ち去る

どうやら本当に公務で忙しいようだ


6日後、俺は市役所に来た

「約束通り、予定空けてくれたんだな」

「あんまり長くは取れなかったがね」

「ありがとうございます。では早速本題に入らせてもらいます」

「それで?Ms.ブラック様について何が聞きたい?」

「……魔女の世界について、教えてほしい」

「ほう……どこでそれを?」

「先週、ちょっとあってな」

「それで、魔女の世界についてどの位知っている?」

「何も」

「ふむ、ならば知らない方が幸せだ。帰りなさい」

「断る!」

「なぜだ?知れば不幸になると言ってるのに」

「それでも、知りたいんだ」

「一度こちらに来てしまえば、もう普通には戻れなくなります」

「それでも、気になるんだ。何故かはわからないけど」

「そうですか……。本気なんですね?」

「ああ」

「……はぁ、なら心して聞きなさい」


市長曰く、黒坂の家は古くからある由緒正しき魔女の家系である

他にも魔女の家系は存在していて、世界各地に潜んでいるらしい

市長のご先祖様は当時の黒坂家の当主に忠誠を誓い契約した、契約は今もなお受け継がれ続けているため愛衣の事をMs.ブラック様と呼ぶ


魔女たちの中で時代毎に代表を一人決める慣わしがある

今代の代表は所謂、穏健派に属していた

穏健派の魔女は一般人に隠れて静かに暮らしていたい一派だ

その為、今の時代は魔女による争いが少ない

過激派が代表を務めた時代は、人々と魔女の間で争いが多発し最終的に数の力で負けてしまった


その後は、ずっと穏健派が代表についている

しかし近年、過激派が力を付けてきて代表の座を狙っている事が発覚した

過激派が代表になれば、戦争が勃発しかねない

しかし、次代の代表を穏健派の中から指名すれば過激派の不満は爆発する可能性が高い

それを危惧した今の代表は、次代の代表を世界一魔法の扱いに長けた若い魔女にするとした

判断の基準は魔法競技『magiciansマジシャンズ

この競技の大会を世界規模で行い、一番優秀な成績を残した者を次代の代表とする


愛衣は穏健派の中でも有力な候補で、世界の命運がかかっている


「という訳だ、理解できたね?塩谷くん」

「まぁ、多少は」

「何か、分からない事はあるかね?」

「なんで、若い魔女限定なんですか?」

「魔法を使い続けた魔女ほど上手く魔法を使いこなすからだよ。そうすると穏健派は不利になる」

「なるほど……」

「これを聞いてしまった以上、君はもうこちら側の人間だ。今後魔女に忠誠を誓う必要が出てくるだろう」

「どうやって忠誠を誓うんですか?」

「それは魔女によって違うから何とも言えないよ」

「もし誓いを破ったら?」

「呪いで死ぬよ」

「呪い⁉」

「そう、呪いだ。例えば私がMs.ブラック様に危害を加えたら、その時点で私の心臓が破裂して死ぬようになっている」

「それが…呪い」

「それと、Ms.ブラック様以外の魔女を知った時、決断しなければならないよ。どちらの魔女に忠誠を誓うのかを、ね。まぁ、君は当分Ms.ブラック様以外の魔女と知り合う事は無いだろうから、それまでに覚悟決めなさい」

「えっと……もし既に魔女の知り合いが二人いた場合は?」

「ん?ああ!Ms.ブラック様と母君については、血族だから一人とカウントされるから安心するといい」

「いえ、実は…もう一人魔女っぽい人物に心当たりがあるんですが……」

「そんなバカな…君はこちら側について今知ったばかりだろう?」

「えっと……市長は本郷友子が魔女だって知ってましたか?」

「本郷友子?まさかブックメーカーが魔女だっていうのか?そんな情報何処で聞いた?」

「自宅で……」

「なんで、そんな話しになる?まさかブックメーカーは過激派なのか⁉襲われでもしたのか?」

「いえいえ!違います!この前二人が家で話してたんですよ。こちら側だの、魔女の世界がどうのって」

「そうか、それはマズい事になったね。君は二人の魔女と魔女の世界のを知って1週間以上経ったことになる。そうだね?」

「たぶん?」

「ならば後1週間以内に忠誠の儀式を執り行わないと君は殺されるよ」

「殺されるって誰に?」

「魔女の掟に、だよ。魔女の声には微量だがマナが宿っているんだよ。そのマナが君に蓄積され、知識を媒介に発動するようになっている。それが魔女の掟だ」

「発動したら…死ぬ」

「そうだよ。最近、体調が優れないんじゃないかな?」

「……あの日から集中すると手が震えて、作業にならない」

「初期症状だよ。次第に悪化してまともに歩くことも出来なくなるようになるよ」

「そんな……ゲホッゲホッ」

ビチャっと手の平に血が付いていた

「吐血か、症状が悪化しているね」

「俺、死ぬのか……いy」

こんな所で、夢を叶えることも出来ずに……死ぬのか

思い返せばやりたいこと一杯あったのにな……

意識が遠のいていく……


「しかたない、Ms.ブラック様をお呼びするしかないね」

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