第37話 話し合い

リビングへ移動し、各人に飲み物を提供する

「ありがとうございます。浩二さん」

「サンキューな、塩谷」

いつの間にかブックメーカーが俺の事を呼び捨てにしていた

「それで?何で、いがみ合ってんだ?」

「浩二さん?この人は本当にブックメーカーなんですか?」

「多分、本当だ」

「多分じゃなくて、本当に私がブックメーカーだよ!」

「何か、証拠になるような物があるんですか?」

「証拠ねぇ、ならこれでどう?」

提示された物は一枚のカードだった

そのカードには、魔法図書製作者登録証と書かれていた

名前は……本郷 友子ほんごう ともこ?(25才)

「友子って本名だったんだな……」

「に、にじゅうご、さい?」

「おい、なんだ?証拠提示しただけなのに、その反応は……それに見る所が違うだろ?」

此処だと指さした所をよく見ると……作家名:ブックメーカーと記されていた

「ほんと、に……ブックメーカー、なの……」

「これで、分かったか?私はブックメーカー!日本一の魔法図書の作り手だって事が!」

「……認めたくはありませんが、そのようですね」

「へ~、そんな所に作家名が書いてあるんだな」

「塩谷、君の許可証にも作家名は記されているよ。確か…ブックマーカーだったかな」

自分の許可証を確認すると、確かにブックマーカーと記されていた

「ほんとだ」

「それで、私は証明したけど?ブラックちゃんはどこの誰なの?」

「私は……」

「見た感じ高校生だよね?成人男性の家に通って何してるんだか」

「うぐっ」

「悔しかったら言ってみなさいよ~、自分が何者なのか」

「はぁ……わかり、ました。私は…私の名前は黒坂 愛衣です」

「アイちゃんていうかぁ……ん?くろさか?」

「はい。そうです。黒坂家の次代当主予定のです」

「本当に?黒坂ブラックの魔女……ですと⁉」

「何だ?何に驚いてるんだ?」

「え?知らないの?塩谷って表の人なの?」

「そうです。浩二さんはこちら側の者ではありません」

「は?何?俺がどうかしたのか?なんだ表だのこちらだのって」

「浩二さんは知らない方がいいことです」

「?」

「なんというか、本当に一般人なのね……」

「ええ。というか、あなたは何で魔女について知ってるんですか?」

「知ってるも何も、私も魔女なのよ。製本に特化した、ね」

「そんな、聞いたことないですよ私は……」

「あまり目立たないからね~、魔女の世界ですら日陰者の異端者呼ばわりされてるからね。ま、しょうがないよ」

「どういう事です?魔女の世界で、異端者だなんて、そんな……」

「私達製本の魔女は何色にも染まらなかったからね」

「それじゃ、どうやって⁉」

「私達は表の世界で本を売って生活していたの。魔女でありながら魔法を使わずにね」

「どこからも庇護を受けずに?」

「そう!だから私はアイちゃんが家柄ブラックを名乗ろうと敬わないよ」

「あのさ、いい加減俺にも分かるように話してくれないか?」

「それは出来ない相談だよ、ね?アイちゃん」

「そう、ですね……浩二さん、ごめんなさい」

「そうかよ、とりあえず和解できたならいいよ。で、二人とも帰らなくていいのか?」

すでに外は真っ暗になっていた。それもその筈、午後8時……とっくに夜になっていたのだから

「ああ!どうしよ、母上にまた叱られる……」

「んじゃ、私帰るわ。塩谷、これ私の電話番号ね。なんか困った時掛けていいよ」

紙切れに走り書きで書かれた番号は、ギリギリ読めるレベルだった

本郷が玄関を開けると、そこには一人の女性が佇んでいた

「あら?愛衣じゃないわ?浩二さんってモテるのね」

「母上⁉」

「あ、どうも紫さん」

「こんばんは、浩二さん。愛衣を迎えにきました」

「あちゃー、あなたが現当主?鉢合わせたくはなかったなぁ……」

額に手を当て天を仰ぐ本郷

「ふふ、あなた本郷家の娘ね。ご両親は元気かしら?」

「ええ、おかげさまで」

「それは良かったわ。帰るなら送るわよ?」

「いえ結構!失礼します」

本郷は一人で帰っていった

「それでは、私達も失礼しますね。愛衣、帰るわよ」

「はい!母上!」


皆が帰って静まった部屋の中で、俺は愛衣の事が気になっていた

表だの魔女の世界だのと訳分からん話しが繰り広げられていたリビングで、最後に見せたあの表情……話せない事への罪悪感?いや、知られたくない事を知られそうになった焦りみたいな、そんな感じの雰囲気だったな……


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