第36話 ブックメーカーの教え
自宅にブックメーカーを案内がてら帰宅した
「ん~~……匂うわね」
「え……臭い?」
「そうね。塩谷さんって魔法使えるのね」
「いや、使えないぞ?自慢じゃないが、まともに魔法が使えた試しがない!」
「どういうこと?魔法を使えない?」
「ああ、学校の授業ですら上手くできた事ないからな……センスないだろうな……ハハ」
「じゃあ、この部屋の中にある痕跡は……」
「何言ってんのか分かんないけど、さっさと入れよ」
「それもそうね……ほー、なかなか良い暮らししてるね」
「そりゃ、どうも」
ほほーとか、ふーんとか言いながら家の中をウロチョロ見て回るブックメーカー
「作業部屋はこっちだ」
作業部屋に入るとまた臭いを嗅ぐブックメーカー
「臭うか?」
「いえ、一番匂ったのはリビングかな。最近あそこで誰か魔法使ったでしょ」
「ん?ああ、使ったな。俺じゃないけど」
愛衣が魔力栞の測定の魔法を使ったな、そういえば
「ふーん」
「そんな事はいいから、早く教えてくれよ」
「そうね。トリプルの作り方……どこから説明しようかしら?まずは、ダブルとトリプルの違いからがいい?それなら、魔法図書の方もついでに説明した方が……」
「何でもいいから、早く教えてくれよ。俺は早くトリプルを作りたいんだ」
「そう……なら魔法図書についても知っておいて損はないから、そこから説明します」
「魔法図書?」
「魔法図書知ってますよね?」
「あれだろ、魔法を使うための本だろ」
「正解!それ以外は知らなそうだから、説明してあげる」
「ぐ……」
「魔法図書には3種類あるの、一つは量産可能な汎用魔法図書、これは学校教材で使われてる物ね。もう一つは、一冊ずつ手作りで作られる
「オリジン?」
「そう!そしてもう一つが……人の想いが宿った奇跡の本」
「奇跡の本?」
「そう。滅多にお目にかかれない逸品。宿す魔法は強力な物だけど、制御が難しいという噂の都市伝説レベルの品」
「そんなものがあるのか……」
「そして、魔法図書と魔力栞には相性があるの。汎用魔法図書には汎用品の魔力栞。原典にはハンドメイドの1点物の魔力栞って感じね」
「あれ?奇跡の本ってやつは?」
「それに関しては、分かってないの。だって都市伝説レベルだもの」
「そうか」
「塩谷さんはどんな魔力栞を作りたい?」
「どんな、か。それなら決まってる。最高の魔力栞が作りたい」
「トリプルで最高の性能というと……クアッドレベルね」
「まあ、今のところは」
「そう。今のところは、ね」
「それで?どうやって作るんだ?トリプルは」
「どうやって、ね。まずはテーマだけど、3つか4つ決めて。色はそれに応じて何色使えるか決まるから」
「テーマは3つじゃなくていいのか?」
「いいのよ。ただ4つの方が作りやすいはずよ」
「なら3つのテーマで作る。それで、何色で作ればいいんだ?」
「3つなら2色か3色よ」
「わかった、ありがとう。よっし!作るぞ!!」
「え?もう作るの?」
「そうだが?どうした?」
「いや、もっと詳しく作り方聞かないの?私詳しいのよ?」
「いらん、もう用は済んだ!帰ってもいいぞ」
「なっ⁉」
ブックメーカーから聞きたい事を聞いた俺は製作に入る
「ふん!いいでしょう。作れるって言うなら見届けさせてもらうわよ」
ブックメーカーが何か言ってるが聞く気はない
どうやら俺の作業を見守るつもりらしいが、気にする必要はなさそうだ
テーマは3つ……テーマは3つ……テーマは3つ……
一つ目は……時計、なんてどうだろうか……?今まで花とかばっかりだったけど、それ以外にも挑戦してみるのもアリだよな
二つ目は……ウサギかな……うん?なんでウサギ?まぁいいか
三つ目は、小さな女の子……ってこれは不思議の国のアリスの要素だよな……
この三つで作れるだろうか……いや、試してみよう……次は色だよな
まずは、白。それと……水色かな?ありきたりだけど、一番しっくりくるのがこの色だしな……
さて、デザインは今回は横向きでウサギとアリスを背中合わせにして、間に時計を入れる感じかな……左から左向きのウサギ、円形の時計、右向きのアリスって感じにすれば良いかな……
よし、とりあえずデザインも決まった!後は切り出して作るのみ!
サクサクと切り出していると……
ピンポーンと誰かの訪問を知らせるチャイムが鳴る
「ブックメーカー居るか?今手が離せない、出てくれ」
「なんで私が出なくちゃいけないのよ」
ぶつくさ言いながらもブックメーカーは玄関へ行ってくれた
よし、作業再開だ!
にしても、誰だろうな?宅配便かな?
コンコンと作業部屋のドアをノックするブックメーカー
「なんだよ、今手が離せないって言って」
「あのー、浩二さん?」
ん?ブックメーカーじゃ、ない?
区切りの良い所でカッターを置いて振り返る、すると見覚えのある姿が
「ん?愛衣か?どうした?」
「浩二さんの様子を見にきました」
「そうか。トリプルは今絶賛製作中だぞ」
「そうですか、それは良かったです。それで」
「ん?完成ならもう少し時間かかるから、出来栄えの確認なら明日にしてくれるか?」
「いえいえ、それよりも大事な事が一つ」
「なんだ?」
「この子、誰ですか?」
「この子?」
「おにいちゃん!このおねぇさん、だ~れ?」
「へ?何言ってんだブッk」
ブックメーカーがダッシュで俺の腹に体当たりしてきやがった!
「いってーな……何すんだよ」
「私の事は教えちゃダメ、適当にごまかして」
ブックメーカーが小声でそんな事を言う
「なんで?」
「……今は言えない」
「浩二さんって、妹さんが居たんですね。知りませんでした……」
「あ!ああ、そうか、言ってなかったな!そう、こいつ俺の妹の……ほら自己紹介しろよ」
「はじめまして!
ペコリと頭を下げて俺の後ろの隠れるブックメーカー
「そう、友子ちゃんていうのね。浩二さん?なんでこんな可愛い妹さんのこと黙ってたの?」
やけにニコニコして話す愛衣
「いや、えっと……その、タイミングというかなんか……な」
「そうですか……私、実は市長から先輩の家族構成について聞いてたんですよ?その時、妹がいるなんて聞いてないんですよね」
「伝え忘れじゃない、かな?」
「戸籍情報とか色々見せて貰ったんですけど、そんな記載は無かったんですよね~。どうしてでしょう?ねぇ、浩二さん?」
「え゛っ……」
「引くわ~……まぁ、バレたなら仕方ないかな」
「もう一度聞きます。浩二さん、その子は誰ですか?」
「こいつは……」
「そんなに気になるならば、名乗ってあげよう。私はブックメーカー、魔法図書を作る製作者だよ」
「ブック、メーカー……本物……?」
「ああ、本物だとも!私こそがブックメーカーだ!それで、君は誰なんだ?塩谷さんの彼女か何かか?」
「かっ⁉彼女じゃありません!!」
「なんだ、違うのか……つまらない」
「私は、浩二さんに魔力栞を作ってもらってる魔法使いです」
「専属か?」
「違います!一年だけの契約です!」
「……それで、魔法使い。名乗らないのか?それとも名乗れないのか?」
「私は……古より続く魔女の家系の者、ブラックです」
「ほう、魔女か。確かに魔女っぽい恰好してるな。塩谷さんや、この痛いコスプレ少女はなんなんだ?ダイジョブなのか?」
「コスプレじゃありません!魔女の正装です!」
「二人とも落ち着けって!何いがみ合ってんだよ⁉」
とりあえず、リビングで話そうと提案して作業部屋から追い出す
作業部屋で喧嘩なんかされたらたまったもんじゃない……
はぁ……二人の話し合いが終わるまで、作業はお預けだな……
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