第35話 自販機ジャンプ

付いていくの嫌だなと思って、じっと立っているとブックメーカーさんが振り返りスタスタスタっと戻ってくる

「き・な・さ・い・よ!」

下から見上げる様は上目遣いを思わせるが、実際には鋭い視線で睨み付けてきている

「聞こえなかった?付いてきなさいと言ったのよ?」

「なんで……」

「君にとっても重要な案件があるの」

「俺にとって?」

「そう!だから来なさい!」

「わ、わかった」

しょうがなく俺は見た目は幼女、中身は大人なブックメーカーさんに付いていくことにする

付いて行くとそこは初めて会った自販機の前だった

「魔力栞の製作者さん」

「あ~、俺のことは塩谷って呼んでくれ。わざわざ、そんな長ったらしい呼び方面倒だろう」

「そうですか?では塩谷さん、そこで跳ねてみてください」

「ん?こうか」

ぴょんっチャリンぴょんっチャリン

「塩谷さん、お金出してください」

「え、なんで?」

「いいから、いくら持ってるんですか?早く出してください」

「カツアゲかよ」

ポケットから百円玉2枚と五十円玉1枚と十円玉3枚、合計二百八十円

手の平に取り出してブックメーカーに見せる

「よし、足りるな!塩谷さん、あれ買ってください」

ブックメーカーが指さす先には薬味のジュースがある

「俺が買うの?」

「私の身体に触った代償を支払ってもらうだけよ。あんなとこむねそんなとこふとももをガッツリ触ったでしょ」

「え?」

「まさか無自覚に触ったの?変態ね」

「いやいや、誤解だ!触ってない!そんな記憶、俺にはない!」

「触った、記憶が、無い……?」

「そうだ!冤罪だ!」

「そう、触ったことすら分からなかったの……」

「ど、どうしたんだ?ブックメーカー?」

「ふふっ、ふふっ、はははははははははははは!!」

こ、壊れた?ブックメーカーが壊れた⁉

「塩谷さん、あなたは私を傷つけた。絶対に、許しませんよ!」

「俺が何したってんだ⁉」

「早く、私の為にアレを買いなさい……私にアレを献上しなければ」

「しなければ……?」

「ここで痴漢だと叫びます。社会的に殺します」

「そんな」

バカな事を

「すーーーーーー」

本気マジかっ⁉

「わかった!買う!買うから!」

「はーーーーーーー。分かればいいんですよ」

くそ、なんでこんな事に……

「早く」

「はいはい、分かったよ」

まさか、脅迫されるとは……

金を入れてボタンを押す

ガコン、と薬味のジュースが落ちてくる

嬉々として受け取り口からお目当てのジュースを取り出し、腰に手を当ててグビグビと飲む

「ぷっはーー」

おやじ臭いな……

「な~に~か~?」

「なんでもない、です」

「そうですか……ならいいです」

またグビグビと飲み始める

「それで?俺にとって重要な要件ってなんなんだ?」

「え?え~っと……、何でしたっけ?」

「おい!重要な案件があるから連れてきたんだろ?」

「……君、何か私に聞きたい事ない?ある程度なら教えてあげるわ」

「俺を連れてきた理由は?」

「秘密です」

「おい!まさか、そのジュースを俺に買わせるためだけに連れてきたなんて事は、ないよな?」

「わたし、わかんない」

「おい、急に幼児後退すんな」

「ちっ……君、魔力栞の製作者なんでしょ?なんか困ってる事ないの?私こう見えても詳しいわよ」

「ブックメーカーって魔法図書の専門家なんだろ?なんで魔力栞について詳しいんだよ」

「魔法図書に詳しくなれば、魔力栞についても詳しくなるものよ。それで?何かないの?」

「そうだな……ならトリプルの作り方、教えてくれよ」

「トリプル?君、許可証持ってるの?無いなら作ったら犯罪よ」

俺は許可証を提示する

「へぇー、君ってば見かけによらずやるねぇ」

「それで、知ってるなら教えてくれよ」

「いいだろう。しかし、ここではなんだな。君の家は近いのか?」

「近いっちゃ近いけど」

「なら、案内しなさい。君の家で教えてあげよう」

「えっ、家くるの?」

「嫌なら教えてあげないよ」

「わかったよ」

俺はブックメーカーを自宅に案内する事になった

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