第32話 お礼の本?

「これ、あげる」

小さな女の子はポシェットから一冊の冊子を取り出して俺に渡す

「いやいや、いらないよ」

「ふぇ……いらない、の?」

「いらないよ」

勿論対価を求めての行動ではなく、善意のつもりでやった事だから。しかもこんな小さな女の子から物を貰うのは、ちょっと、な

「あなた、これが何か分からない?」

「何かの冊子?」

コクリと頷く女の子

「魔法」

と呟く女の子

「魔法?」

「魔法の、本なの」

魔法の本……それが本当ならそれは魔法図書という事か?信じられないな

表紙はこの女の子が描いたと思われる絵柄だし、画材は恐らくクレヨンだ

「どんな魔法の本なんだ?」

「ん~と、わかんない!」

「そっか~」

わかんないか~……っておいっ!

「これ、あげる」

「だから、もらうわけには」

「……ひぐっ……」

泣くの⁉何で泣くの⁉

「どうしたっ?」

「いらないって……ひぐっ……」

「ああ!分かった!分かったから!貰うから!」

「ひぐっ……ほんと?」

「ほんとほんと!だから泣かないで!ね?」

「うん……えへへ」

「はい!大事にしてね?魔力栞マナマーカー屋さん」

「はっ?」

「ばいばい!」

俺に魔法の本を渡して手を振りながら走り去る女の子

あの子最後に魔力栞屋って言ったよな……俺言ってないよな……?どうして……?

視線を手元に落とす、そこには女の子の手作り冊子『魔法の本』がある

魔法も漢字で書いてあるし、あの子はいったい……?


世にも奇妙な物語的な女の子と遭ったことで気分は落ち着いた

「帰るか」

帰宅後は特に何をするわけでもなく、風呂に入ってから就寝した


翌朝8時に目が覚めた

何か夢を見ていたような気がしたが、まったく思い出せない

まぁ、よくあることだ。気にしない

ひとまず朝飯を食べよう

今日は何にしようかな~、と言ってもシリアルか食パンぐらいしか選択肢は無い

今日は食パンかな、取り敢えず焼いてトーストにしようかな

バターあったかな……無いか……じゃあマーガリンにするか

ポップアップトースターにパンを突っ込む

少ししてパンが焼けてチンっという音と共にパンが跳ねる

パンを取り出して皿に乗せる

こんがり焼けたパンにマーガリンを塗って食べる

ザクっと少し焦げた部分が口に苦みを広げる

「うん……まぁ、そうだよな」

よくわからない感想を述べて朝食を終える


さて、どうするか……

一先ず出掛けられる服装に着替えて、カバンに魔力栞を入れて用意しておく

行くにはまだ早い、やはり昼頃に行くのがベストだろう

さて、作業部屋で何か作るか……?いや、熱中すると時間を忘れてしまうな

しょうがない、読書でもして時間を潰すか

適当に1度読んだことのある小説を本棚から取り出し椅子に腰かける

「どんな話しだったかな、これ」

パラパラとページをめくりテキトーな所から読み始める

パラ、パラと読み進めて区切りの良い所で本を閉じる

「ふぅ……やっぱり面白かった」

時間を確認すると12時くらいだった

「よしっ、ちょうどいい時間だな」

身支度は終わってる、あとは忘れ物が無いか確認してっと……

ふと、昨日の女の子に貰った『魔法の本』に目が留まる

「これ、持ってくか…市長ならホントに魔法図書か判断できるだろうし」

カバンにクレヨンで書かれた魔法の本を入れて家を出る


市役所に着くと入口に真っ黒い恰好の人物が立っていた

「あれは……」

多分、いや、まず間違いなく愛衣だろう

市役所に何か用があるんだろうか……?

「おーい、あっ……黒坂さん」

「あっ!浩二さん!」

「よっ、こんな所でどうした?」

「何がですか?」

「いや、普通の学生は昼間の市役所になんか来ないだろ?」

「そう、ですか?」

「そうだと思うが、まぁいっか」

「実は、浩二さんが来ると聞いて」

「誰から?」

「秘密です」

市長だよな、あの人以外居ないだろ!

「そ、そうか。それで、俺が来るから来たのか」

「はい!ちゃんと市長の許可は取ってますよ!行きましょ!」

「あ、ああ。行くか」

市役所の中、市長の元へ二人で向かう

市長室の前に着くと、ドアが勝手に開く

「うわっ!」

「ようこそお越しくださいましたMs.ブラック様。塩谷くん」

「ごめんなさいね、市長。我が儘言ってしまって」

「いえ、とんでもございません。すぐに移動致しますか?」

「はい!」

愛衣と市長の二人で話しを進める

謎のエレベーターに乗り、地下シェルターに向かう


シェルターに着くと市長が指をパチンと鳴らす

すると、俺達から20メートル程離れた所に人型の何かが3つせりあがって来た

「何ですか、あれ?」

「的だよ」

「的?」

「なんで的なんか?」

「Ms.ブラック様の為に決まっているだろう」

「は?」

「何を当然の事を」

「あれは、最新式の⁉」

「はい。市の予算をつぎ込んで購入しました。どうぞ、お使いください」

「ありがとうございます!市長!」

「さて、塩谷くん。魔力栞を」

「あ、はい」

カバンから魔力栞を取り出し市長に渡す

「ふむ、大丈夫そうだな。Ms.ブラック様、どうぞ」

「はい。では、二人は下がっていてくださいね」

愛衣はあの炎の魔法の出る魔法図書を取り出し構える

魔法を使う時の愛衣はいつもと雰囲気が変わる

真剣にただ一点を見ているような、そんな凛とした雰囲気だ

そして、研究所で見たあの炎の魔法を使う

詠唱をし、炎の十字架を出現させる

しかし、研究所で見た時より大きい!研究所で見たサイズは確実に180センチ以下だったはずだ。でも、今出現してる十字架は2メートルを超えている!

「行きます!!」

愛衣が手を振るうと人型の的目掛けて炎の十字架が飛んでいく

ぶつかると同時に爆発し的を炎で焼き、あっという間に炭にした

「これは、凄いですね。この威力、確かにダブルを超えている……」

「次、行きます!!」

愛衣は更に炎の十字架を出現させて、2つ目の的へ向けて放つ

そして、2つ目の的も炭化して崩れる

「もう一回!行っけーーーー!」

3つ目の魔法も見事命中し炭化させる

「なんと、連続であの規模の魔法を……⁉」

「ふぅーー」

「凄いな、あの炎の魔法カッコいいな!」

「へっ⁉えっと、その!……ありがとうございます!えへへ」

愛衣は魔法を褒められて大層嬉しそうにする

「ふむ。塩谷くん。良い物を作ったね。この出来栄えの物が作れるなら大丈夫だろう。市長として君にトリプル製作の許可をだそう」

市長から1枚のカードを手渡される

「市長、これは?」

「ふむ。それは許可証だよ。正式には第三高等魔力栞製作許可証と言う」

「名前長っ⁉」

「まぁ、単純に許可証と呼ばれてるよ」

「そうですか」

「これがあれば君はトリプルの製作が行えるようになる。無くさないようにすんだよ」

「は、はい。気を付けます」

「浩二さん!おめでとうございます!」

「ありがとう、愛衣」

「塩谷くん、何か質問があれば私か窓口の所員に聞いてくれ」

「わかりました……そうだっ!一つ聞きたい事があるんですが、いいですか?」

「何だね?」

「これなんですけど」

カバンから『魔法の本』を取り出す

「これは何かな?」

「昨日会った女の子から貰いました。本人曰く魔法の本だそうです」

「お、女の子⁉浩二さん?その子はどんな子でした?」

「ん~~、そうだなぁ……可愛いというか、ほほえましい感じかな」

自販機の前で跳ねてるの人生で初めて見たなぁ……ふっ

「か、かか、かわ、いい……女の子……」

なぜか項垂れる愛衣は一人の世界に旅立ってしまった

「ふむ。中を見てもいいかな?」

「はい。もし万が一魔法図書だった場合、保管方法とか知らないので危険かと思いまして……」

「実に賢明な判断だよ、塩谷くん」

中を確認する市長は表情が少しずつ険しくなっていく

「これは、本当に貰ったのかね?」

「はい。困っていた所を助けたお礼でくれたみたいです」

「そうですか……これは確かに魔法図書です。しかし」

「しかし?」

「普通の魔法図書ではないですね」

「普通じゃないって、どういう?」

「この魔法図書は、魔力栞の能力を引き上げる為に作られたもののようです」

「ん?それはどういう?」

「これは、魔法図書でありながら魔力栞でもあるという事です」

ますます分からなくなった!

「そ、そう、ですか。それはスゴイですネ」

「こんな魔法図書は初めて見ます。これを君に渡したのはどんな人物でした?」

「えーっと、小さな女の子ですよ。自販機の前でぴょんぴょん跳ねても一番上の段の商品ボタンが押せないくらいの」

「まさか……」

「市長のお知り合いですか?」

「いえ、直接の知り合いではありません。しかしその見た目でこの本を持っているとしたら……」

何かマズイ事なんだろうか……貰ったのやっぱり間違いだったかなぁ

「おそらくその本をくれた女性はブックメーカーです」

「え?賭け事の?」

「違います。そのままの意味の本を作る者ブックメーカーです」

「ブック、メーカー?」

「今、ブックメーカーって聞こえましたが⁉彼女の居場所が分かったんですか⁉」

「うおっ、愛衣⁉どうした?」

「浩二さん、ブックメーカーと遭ったんですか?」

「ああ、市長曰く、そうらしい」

一転して瞳を輝かせる愛衣

「良いなぁ!!羨ましいです!!」

「え?そうなのか?」

「はい!ブックメーカーさんは住所、本名、年齢全てが謎の魔法図書製作者なんです!」

「なんと言うか、怪しいな」

「そんな事ありません!」

「そ、そうか」

「ふむ。Ms.ブラック様はブックメーカーを気に入ってらっしゃるので?」

「気に入ってるどころじゃありません!大好きです!」

「そうでしたか、これは失礼致しました」

「市長?もしかして名前とか知ってるんじゃないですか?」

「はい。知っていますよ。彼女はライメイ市の市民ですし、魔法図書部門の売り上げもトップクラスですから」

「そうだったのか」

「教えてくだっ、いえ……私が聞くわけには、いきませんね」

「ん?なんでだ?」

「市長は、私が教えてくださいと言えばどんな秘密でも教えてくれます」

「もちろんでございます」

「だから、私は聞くわけにはいきません。本来なら秘密にしなければならない事でも私が聞けば市長は話してしまう。これは権力の悪用です」

そうか、愛衣は自分の立場を利用して秘密を暴く事は嫌いなんだ……じゃあ何で俺の時は市長の力を借りたんだ?

「じゃあ」

「それはそうと!浩二さん!」

「な、なんだ?」

「ブックメーカーさんについて教えてください!」

「ん?あ~、小さかった、な」

「小柄なんですね!」

「いや、どちらかと言えば幼い感じが」

「幼いって、それはちょっと成人済みの女性に対して失礼ですよ」

「え?成人済み?嘘だろ?」

市長の方を見ると、肯定と頷きを返される

そんな……明らかに幼女だったぞ……有り得ないだろ……

「それ以外に何かありませんか?」

「それ以外……あ、あの薬味のジュース買ってたな」

「薬味のジュース?」

「ああ、知らないか?」

「そうですね。知りません……」

「後は……教えてないけど魔力栞を作ってるってバレたな」

「やっぱり、間違いなくブックメーカーさんです!」

「ん?それは?」

「ブックメーカーさんは魔力が視えるらしいんです!だから魔法関係の人を見分ける事が出来るらしいんです!」

「そんな事可能なのか……?」

「可能だから、魔力栞を作ってる事が分かったんですよ」

「そうか……」

「それ以外は何かないですか?」

「ごめん。もうこれと言って思い出せない」

「そう、ですか……教えてくれてありがとうございました!」

「Ms.ブラック様。申し訳ございませんが、そろそろ公務に戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「あっ!すみません!」

「いえ、それでは戻りましょう」

俺達一行は、謎エレベーターで地上に戻り解散する


晴れて許可証を手に入れた俺は次のステップに移るのだった

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