第31話 浮かれモード

魔力栞ダブルの完成を喜ぶ俺と愛衣

そんな時、本日2度目のチャイムが鳴る

「はーい、どちら様ですか~っと」

玄関を開けるとそこには紫さんがいた

「こんばんは、浩二さん」

「こ、こんばんは」

「愛衣来てるかしら?」

「は、はい。愛衣ー!」

「浩二さん?どうしま……母上⁉なぜここに⁉」

「あなたの帰りが遅いから迎えに来たのよ」

「え?今、何時ですか?」

「そろそろ7時だな」

「もうそんな時間ですか⁉ごめんなさい母上!」

「もう、謝るなら浩二さんにでしょ?」

「はっ!そうでした!ごめんなさい!浩二さん!」

「いや、気にしないでくれ。寧ろこんな時間までごめんな」

「いえ!では、私は帰りますね」

「浩二さん、ではまた」

「はい」

二人を見送り俺は居間で一息つく

「それにしても……愛衣があそこまで魔法が好きだとは思わなかったな」

まさかあんなに興奮するなんて……な


ダブルの完成に一安心しているとまたしても電話が鳴る

「はい。もしもし」

「塩谷くん、私だよ」

「市長……どうしました?あっ、魔力の流れについてなら教わったので、大丈夫ですよ」

「教わった?誰に?」

「あ、黒坂さんから」

「Ms.ブラック様になんて事を……」

「快く教えてくれましたよ?」

「そ、そうか……」

「それで、どうしました?」

「魔力の流れについて理解したならいい」

「そうだ、市長。トリプルの製作の許可ってどこで取ればいいんですか?」

「それなら市役所で取れるが、まだダブルは出来てないんだろう?」

「いえ、出来栄えに関しては黒坂さんからお墨付きをもらったので」

「うん?それはどういうことだ?」

「黒坂さんが家に来て、測定魔法?とかいうので測ってくれたので」

「Ms.ブラック様が君の家に?」

「はい。来ましたよ」

「はぁ……そうか……なら、明日市役所まで持って来なさい。そこで許可を出そう」

「わかりました」

「では、明日忘れず来るように」

「はい。ではまた明日」

通話を終えて俺は次の予定を考える

①作業部屋に行って次の魔力栞について構想する

②風呂に入って寝る

③気分を落ち着けるために散歩に出る

とりあえずこの中から選ぶかな……ど~れ~にし~よ~か~な~っと……③、か

散歩に出よう!

鍵と財布だけを持って家を飛び出す

気分は高揚していた。

夜風を切りながら弾むように歩く

一度失敗した、でも諦めることは許されなかった

そして、諦めたくない夢が見つかった

俺を信じてくれる人がいる……絶対の信頼とはこんなにも頼もしいものなんだと、初めて知った

俺は、きっとこの夢を叶える……叶えてみせる!

気分を落ち着けようと出てきたはずが、一向に高揚感は薄れる事はなかった

30分ほど散歩をして、家に帰ろうとした所で喉が渇いている事に気がついた

確か自販機がこの辺にあったはず……

少し歩いた所で自販機を見つけたが、先客がいた

小柄な女の子が背伸びをしてボタンを押そうとしていた

しかし、届かない

一番上の段のジュースが欲しいのかぴょんぴょん跳ねている

可愛いなぁ……和む……

カラカラカラ

一定時間が経過したせいで入れた小銭が出てきてしまった

「う~~~」

落ち込んでいる女の子に声を掛ける

「あの、どうかしましたか?」

「はひっ!いえ、あの……」

「はい?」

「と、届かなくて……ひくっ……」

半泣きの女の子の対処法なんて知らない俺はどうすればいいのでしょうか……?

はい、俺!……わかりません!

「えっと、どれが欲しいの?」

しゃがんで目線を合わせて質問する

「ひくっ、一番上の、ひくっ」

一番上の段に並んでいるジュースは何か見てみると、そこには薬のような味のするジュースが一列並んでいた

「えっと、ホントに一番上?」

「うん……」

そっか、俺は苦手な味だけどあれが好きな人いるもんなんだな……

「俺が買ってあげようか?」

ぶんぶんぶんと頭を横に振る

「自分で、買う、の」

「でも、届かないんだよね?」

「うっ、ん~~~~」

「ああ、ごめんね!えっと、どうしよっかなぁ……」

「……んっ!」

両手を広げ俺を見上げる

「んっ!」

「もしかして、抱っこしろって?」

コクコクと縦に頭を振る

しょうがない、な

小さな女の子を抱っこして持ち上げる

う、腕がっ……!でも我慢だ!気合入れろ!俺!

カチ、ガタンゴトン

薬味のジュースを無事に買えた女の子はパッと笑顔になった

下ろしてあげるとジュースを取り出してプルタブを開けこの場で飲みだす

「ぷはーーーー」

「おいしいの?」

「うん!」

「そっか」

俺は、自分の飲む物を買って帰ろうとする……シャツが何かに引っかかる感じがした

「ん?なんだ……」

振り返ると小さな女の子が俺のシャツを掴んでいた

「待って」

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