第30話 魔力の流れ
「魔力の流れというのは、魔力栞に魔力が溜まる時と、その魔力を消費する時に一定の流れが発生するんです」
「消費する時だけじゃ、ないんだな」
「はい。なので、魔力の流れに敏感なほど、魔法を使いこなせるということです」
「へー、そうなんだ。それって愛衣も感じる事できるんだよな?」
「そうですね。だからシングルの時は驚きましたよ?流れが速くって自分の感覚がおかしくなったのかと思いました」
「あの時か……もしかして市長が買い取るって言ったのは、それが原因?」
「そうですね……もし、あれを一般販売したら大変なことになってましたね」
「大変なこと……?」
「あれが普通のシングルと同じ値段で売りに出ていた場合、買うのは初心者の人です。そして初心者の人は自身の魔力のコントロールが上達したと勘違いしちゃいます」
「勘違い、か」
「はい。自身の力量が良く分かってない初心者は、道具の力を自身の力と勘違いしちゃいます。そして、練習が不十分なままダブルの魔力栞へ移るとコントロールに失敗して、魔法を暴発させちゃいます」
「暴発って例えばどんな感じなんだ?魔法が発動しないとか?」
「いえ、発動しないならそれは不発です、何も危険はありません。でも暴発は……魔法使い本人に被害が及ぶんです。炎の魔法なら火傷を、雷の魔法なら感電をする危険があるんです」
「それ、ヤバくないか?」
「まぁ、ダブル程度の魔力量なら死にはしません、入院するかもしれませんが……。ただ、トリプルやクアッドの魔力栞を使っていた場合は死ぬ可能性があります」
「そんな違いがあるのか」
「はい。魔力量が多いという事は車などで言うと燃料が多いという事です。クアッドの魔力栞の場合は、燃料が満タンのタンクローリーが事故を起こした時と同じで、大惨事になります」
「そんな事になったら……」
「魔法使いは死にます。そうならない為に、わざと不発にする方法のキャンセルを習得します」
「そっか。愛衣は?」
「はい。もちろん私もキャンセルはできます」
「そっか。なら安心だな」
「話しが逸れちゃいましたね。基本的に魔力の流れは使えば分かるって事です」
「使えば分かる、か。他に魔力の流れを感知する方法はないのか?」
「あるにはありますね。専門の機材を使えば、分かるらしいです」
「らしい?」
「私は自分で使えば分かるので、機材とか詳しくないんです」
「そっか、それもそうだよな。機材については自分で調べてみるよ」
「でも、どうして急に魔力の流れについて聞いたんですか?」
「あ~……市長が言ってたんだ。出来栄えの確認方法は魔力の流れを確認すればいいって」
「それで、ですか。出来栄えの確認なら私がしましょうか?」
「え?いいのか?」
「はい!お任せください!それで新作はどこですか⁉」
「ちょっと待ってて、今持ってくるから」
作業部屋へ行き完成した3枚の魔力栞を取ってくる
「これ、なんだけど……」
黄色、緑色、オレンジ色の3枚の魔力栞を愛衣に渡す
「はい」
でも、どうやって確認するんだ?魔法を使うって言っても普通の部屋で炎なんか出したら火事になると思うんだが……
愛衣は魔力栞を入念に確認すると、1冊の小さな本を取り出した
「危なくないんだよな?」
「大丈夫です!行きますよ!」
そう言うとその本に黄色の魔力栞を挟み詠唱を開始する
「魔力量測定魔法展開」
愛衣の周囲に紅白の2色の色が付いた光る帯が現れる
「ー最大出力測定開始ー」
帯の輝きが増してメモリがどんどん赤く染まる
「ー持続出力測定開始ー」
帯の輝きが収まり、メモリが半分ほど赤くなった状態で左右に大きくブレた状態に変化した
「ー測定終了ー」
光の帯が消え、魔法が終了する
「ふぅー……」
「愛衣、今の魔法は?」
「今の魔法は測定魔法です!ちょっとレアな
「測定魔法?」
「この魔法図書を使えば、魔力栞の能力を測定できるのです!!」
「便利だな」
「でも、需要が無いので生産されないんですよね」
「ん?なんでだ?そんな便利なのに」
「魔法を使えるなら、自分の得意な魔法を使えば良いだけですから」
「あ、そっか。わざわざ測定用の魔法なんて使わないのか」
「はい。そういう事です」
「なんで愛衣はそんな物持ってるんだ?」
「え?えっと、備えあれば、憂いなしって言いますし」
「何か、隠してる?」
愛衣に近づいて瞳を覗き込む
「いえいえ、そんな事ないですよ!浩二さんの早く魔力栞を試したいとか、そういう事じゃないですよ!」
頬を赤らめ目を逸らす愛衣……本音が駄々洩れである
「そうか……それで、出来栄えはどうだった?」
「そうですね。魔力の流れは申し分ないです!でも魔力量はまだ一歩足りませんね」
「そうか」
「では次の魔力栞を試しますね!」
先ほどと同じ魔法を、今度は緑色の魔力栞で発動する
魔法は無事に発動し終了する
「どう、だった?」
「その、こっちは魔力量は申し分ないですけど、流れが少し悪いですね」
「そう、か」
まだ、ダメか
「今の所出来たのは次ので最後だ」
「はい。では、いきます!」
「頼む」
三度目の測定魔法を発動する
3枚目の魔力栞はオレンジ色の物だ
今回も同じように光の帯が出て、色が変わっていく
しかし、今回は赤じゃなくまるで金色に輝いているようだった
「すごい」
小声だが、確かに愛衣がそう呟いた
そして、今度は金と白の2色が綺麗にぴったりと正面の位置で止まった
そして魔法の光が収まる
「……」
「愛衣?どうした?また何か……」
「……いです」
「ん?」
「…ごいです……これは……信じられません!」
「どうした⁉」
「どうしたじゃありませんよ⁉これはダブルの性能じゃありません!」
また失敗か……はは、次はどうするかな……
「これはダブルの出していい性能じゃありませんよ!」
「そんなにダメだったか……」
「これは、この魔力栞は、トリプルと並ぶ性能です‼」
「トリ、プル?」
「はい!魔力の流れも安定性もトリプルとほぼ同格!しかも、最大出力は並みのトリプルを超えてます!!これはダブルではなくトリプルと言っても過言ではありません!」
興奮した様子の愛衣は捲し立てる様に言い放つ
「そ、そうか……合格で、いいのか?」
「はい!不合格の要素なんてありません!」
太鼓判を押してくれる愛衣を前に安堵よりも何故か俺の鼓動はドキドキしていた
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