第26話 帰宅
翌朝、俺は黒坂家の客間で目を覚ました
昨日の夜、夢について語ったのだが改めて思い出すと少し恥ずかしいことを言ったような気がする
……気にしたら負けだな、うん
着替えとして、洗濯済みの昨日着ていた俺の私服が置いてあった
それに着替えてリビングへ向かう
リビングには学校の制服を着た愛衣とスーツ姿の紫さんが朝食を食べていた
「おはようございます」
「あ、浩二さん!おはようございます」
「ふふ、おはよう。よく眠れたかしら?」
「はい。ふかふかのベットのおかげで、今までで一番良く眠れた気がします」
「それは、よかったわ」
「浩二さん、飲み物は何がいいかしら?」
「ブラックコーヒーでお願いします」
「はい、ブラックですね。愛衣、浩二さんに朝食を出してあげて」
「はい、母上」
愛衣は席を立ち俺に朝食を運んできてくれた
「これ、美味しいんですよ!」
持ってきてくれたのは洋風の食事だった
スクランブルエッグ、トースト、サラダの3点セット
「いただきます」
まずはスクランブルエッグから……うん、美味い!次はサラダを一口……このサラダのドレッシング、初めて食べる味だ。これも美味い!最後にトーストを頬張ると、サクっとした外側ともちっとした内側の絶妙な焼き加減!薄く切られ乗せられてたバターも香り高い!
これぞまさに至福のひと時!
「ふふ、コーヒーどうぞ」
「んっ、ありがとうございます」
丁度口の中が乾いてきた所に、淹れたてのコーヒーが登場した
ゴクゴクと半分程飲み、一息つく
「美味しいですね」
「ふふ、今日は愛衣も手伝ってくれたのよ。普段はやりたがらないのに」
「母上っ!えっと、その浩二さん?普段はその忙しくて……決して料理が苦手というわけじゃないですよ?」
「ああ、この朝食どれも美味しいから信じるよ」
「そう、ですか?へへ、美味しい、ですか……そうですか……良かったです!」
美味しい朝食を完食して、さてそろそろ帰るかと考えていたら
「浩二さん、ごめんなさいね。今日は愛衣の送迎があるの忘れてて、佐藤さんが愛衣を学校に送った後、戻ってきてから浩二さんをお家に送ることになってしまうの」
「ああ、そんな大丈夫ですよ。何なら愛衣さんと一緒に乗って行って、そのまま家に向かってもらっても良いですよ。わざわざ戻ってくるの面倒でしょう?」
「ふふ、愛衣はそれでも良いかしら?」
「は、はい。問題ないです、母上」
「それじゃあ、愛衣と浩二さんまとめて送ってもらいましょう」
帰り支度、と言ってもカバンを持つだけだが準備は完了した
チャイムの音が鳴る
佐藤さんが丁度到着したようだ
「行ってきます、母上」
「はい、行ってらっしゃい」
「ほんと、お世話になりました」
「また何時でも来てくださいね、浩二さん」
「ありがとうございます」
紫さんに見送られて佐藤さんの運転する車で黒坂家を出る
佐藤さんの後ろに愛衣が座り、俺はその隣に座った
「佐藤さん、学校までお願いします。その後、浩二さんをお家まで送ってください」
「畏まりました」
相変わらず乗り心地の良い運転で目的地へ向かう
しばらく走ると、愛衣と同じ制服を着た学生がチラホラ見えてくる
車は校門の前で停車した
「佐藤さん、いつもありがとうございます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「はい!」
愛衣は自分でドアを開けて降りた所で、友人に声を掛けられた
「愛衣ー!おっはよー!」
「おはよー!」
「今日も車で登校かぁ、良いなぁ」
「そうでもないよ」
ドアを開けっぱで会話する愛衣とその友人
友人さんが車の中を覗き込む、そして俺と目が合う
「ど、どうも」
「……愛衣。彼氏が出来たなら、なんで教えてくれないのよー!」
「えっ?何?彼氏?何言ってるの?いないよ⁉」
「じゃあその車の中の男は何者だぁー!!」
「え?浩二さんは、その」
「コウジさんていうんだ!下の名前で呼んでるんだ!」
「えっと、それは、その……」
アワアワと狼狽えてパニクってる愛衣が、視線で俺に助けを求める
「あーー、えっと、おはよう。俺は彼氏じゃないよ」
「じゃあ、愛衣とどんな関係なんですか⁉
「俺は愛衣さんから依頼を受けた製作者なんだよ」
「依頼?製作者?」
「ああ。ライメイ市で栞を作って売ってる、ただの栞屋だよ」
「栞屋……?本に挟む、栞?」
「そうそう。最近は電子書籍が流行ってるから、馴染み無いかもしれないけどさ」
「ふーーん、そうですか」
「分かってくれたかな?」
「はい。それはそうとコウジさんっての苗字って、もしかして塩谷ですか?」
「ん?そうだけど……何で知って」
「それは愛衣が」
「そ、そろそろ行かないと!遅刻しちゃうよ!」
「え?もうそんな時間⁉急がなくっちゃ!またね、コウジさん!」
「すいません浩二さん。行ってきます!」
ダッシュで離れていく二人を見送り、ドアを閉める
「佐藤さん、お願いします」
「ふっふっふ、畏まりました」
車はゆっくりと滑らかに発進する
「いやぁ、あんなお嬢様を見たのは初めてです」
「そうなんですか?」
「はい。普段のお嬢様はもっと物静かでいらっしゃるので」
「へー、そうなんですね」
「はい」
どうやら愛衣のはしゃぐ姿を見れて相当嬉しかったようだ
上機嫌に鼻歌まじりに運転する佐藤さん
それからまた少し走ると見慣れた景色が広がる
「まもなく到着でございます」
ライメイ市役所と隣接する製作者用の寮の入り口に車が横付けする
「到着致しました」
「ありがとうございます、佐藤さん。やっぱり運転上手ですね。とっても乗り心地良かったです」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
俺は下車してエントランスへ向かう
俺は自分の部屋へ帰る
たった一日帰ってないだけなのに、随分と久しぶりな感じがした
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