第24話 黒坂家2

俺、塩谷浩二(2x才)は黒坂邸にいる

黒坂愛衣くろさか あいは俺に魔力栞の製作を依頼した人物である

彼女は恐らく年下で、まだ学生で、正真正銘お嬢様なのだ

そんな彼女の母親である黒坂紫くろさか ゆかりさんのご厚意で一晩泊めてもらうことになった

紫さんの料理を褒めただけで気に入ってもらえたのか、凄く好意的に接してくれる

初めて対面した時は凄く驚かされたものだ、いつの間にか背後に居たのだから!

どうやって悟られないで背後に立っていたのか、聞きたい気もするが聞いちゃいけない気もする

でも、やっぱり気になる!

「あの、紫さん」

「何かしら浩二さん?」

「研究所で会った時、いつからあそこに居たんですか?」

「ふふふ。いつからと言われると困ってしまうわね」

「……?」

「声をかけるその時に着いたの」

「でも、研究所から出てきた俺の背後にいましたよね?」

「ええ、そうね。どうやってあそこに行ったのか気になるかしら?」

「そうですね。研究所から出てきた、という訳じゃ無さそうなので」

「ふふふ。確かに私は研究所の中から出てきた訳じゃないわ」

「じゃあどうやって?」

おもむろに顔を近づける紫さん

「そ・れ・は・魔法よ」

と耳元で囁く

紫さんの声が吐息が香りが間近に感じる状態は恋愛経験の少ない俺にとって刺激が強すぎた!

咄嗟に一歩後退り距離をとる

「ふふふ。私魔女なんですよ」

魔女というより魔性の女といった感じの微笑みで愛衣と同じく魔女宣言する紫さん

「魔、女?」

「ふふ。浩二さん初心なのね」

「いや、その……」

顔が熱く鏡を見なくても分かるほど真っ赤になっている

そんな顔を隠したくて後ろを向いたら、そこにジト目をした黒坂愛衣がいた

「随分と母上と仲良くなったようですね、塩谷さん?」

「えっと、これは紫さんにからかわれて」

「ゆ~か~り~さ~ん?何で母上を下の名前で呼んでるのですか?」

「頼まれたから!紫さんにそう頼まれたから!」

「そうよ、愛衣。浩二さんにそうお願いしたの、だって黒坂はこの家に二人いるんですもの」

「母上……ではなぜ塩谷さんの事を下の名前で呼んでるのです?」

「浩二さんが良いって言ってくれたからよ」

「……塩谷さん?」

「いや、特に問題ないと、思ったん、ですが……」

いや、普通は嫌がるな!知人がいつの間にか自分の母親と下の名前で呼び合ってたら!

「そうですか……なら私の事も愛衣と呼んでください!呼び捨てですよ!さん付け要らないです!いいですね?」

「はい!」

「あらあら、ふふふ」

勢いで返事しちゃったけど、いいのか?外でMs.ブラック様って呼ばれてるのに下の名前で呼んじゃって……?

「えっと、愛衣…?」

「……っ!!な、なんですか!こ、ここ、浩二、さん!」

どうしたんだ?何か様子が変だけど、呼ばれ慣れてないからか?

「外でも呼んでいいのか?Ms.ブラック様って呼ばれてるみたいだけど……」

「構いません!むしろ、黒坂と呼んだら許しませんから!」

「えっ⁉」

「それで、母上と何を話していたんですか?こ、浩二さん」

「いや、世間話を少し」

「どんな世間話をしたら顔がそんな赤くなるんですか?」

「えっと、それは……」

恥ずかしくて言えるか!耳元で囁かれただけでドギマギしました、なんて!

「言えないんですか?」

「ふふふ。あんまり浩二さんをイジメちゃだめよ?」

「母上?イジメてませんよ。質問しただけです」

「愛衣、浩二さんは私に近づかれてドキドキしちゃっただけなのよ。初心で可愛いいわね」

言わないで!お母様!!

「母上に、ドキドキ……」

愛衣の表情が少し暗くなった

「いや、これは、その、な。紫さんすっごく美人だからさ……」

「まぁ!まぁ!嬉しいわ!浩二さんったらお上手なんだから!」

「…………そうですか」

愛衣さんの表情がどんどん冷たくなっていく

「えっと、あの、愛衣さん?」

「あらもうこんな時間……浩二さん、帰らないんですか?」

帰ってほしそうに言う愛衣は無表情になりつつある

「愛衣、浩二さん今晩は泊まっていくのよ?」

「えっ……?泊まる?」

そういえば愛衣は聞いてなかったな

「お世話になります」

「母上⁉どういう事ですか⁉」

「そのままの意味よ?浩二さんを一晩泊める事にしたの」

「なんで⁉」

「もう遅いから、これから帰るの大変でしょう?」

「だからって、泊めるって」

「いいじゃない愛衣、客間ならいっぱいあるのですし」

「そういう問題ではなくて!高校生の娘が居るのに男の人を泊めるなんて!」

「愛衣、大丈夫よ。浩二さんは良い人よ」

なんかすごい口論になってきたな……

「やっぱり俺、帰りますよ」

「大丈夫よ、客間なら本当にたくさんあるの」

「愛衣さんが、嫌がってますから」

「……別に、嫌なわけじゃ」

「でも、迷惑かけちゃ悪いから」

「迷惑ってわけじゃ……」

「そうよ。愛衣はちょっと驚いただけだから、ね、愛衣?」

「……はい」

「泊まっていって、ね。もっと浩二さんとお話ししたいの」

「いいのか?」

愛衣に聞くと控えめにコクコクと頷く

「そっか。それじゃ改めて、お世話になります!」

「はい。お世話します。ふふふ」

「私、お風呂入ってきます。絶対覗いちゃダメですからね!もし覗いたら死なせます!」

「覗かないよ。そんな事するわけないだろ?」

「……そうですか」

そう言って愛衣はお風呂に向かった


愛衣が出てくるまで俺と紫さんはリビングで紅茶を飲んで寛いでいることになった

普段はコーヒーばっかり飲んでるけど、たまには紅茶も良いものだなぁ

「浩二さん。覗かないんですか?」

「ぶっ……何言ってるんですか、紫さん⁉覗きませんよ!」

「そう?見たくないの?」

「見たいとか見たくないじゃなくて!見ちゃ駄目ですよ!」

「ふふふ。そうよね」

「そうですよ」

何かすごく試されてる気がするな……

間違っても見たいなんて言ったら殺される感じがする……

「浩二さん、目を瞑ってくれないかしら?」

「何ででしょうか?」

さっきみたいにからかわれるのは勘弁願いたい!

「ふふ、私の魔法を体験してみないかしら?」

「魔法ですか?目は瞑ってないとダメなんですか?」

「ええ。見せることはできないの。ごめんなさいね」

「わかりました。どのくらい瞑ってればいいんですか?」

「私が良いって言うまで開けちゃだめよ」

「わかりました。それってどんな魔法なんですか?」

「ひ・み・つ」

「痛くないですよね?」

「ええ、大丈夫よ。危険はないわ」

「それなら」

安心して俺は目を瞑った

気配で何となく紫さんが俺の背後に移動した気がした

「触るわよ」

耳元で囁かれてまたもドキリとする

腕と手を持ち上げられる

手の先に温かい湯気のようなものを感じた

そしてシャーという水の音が聞こえてくる

紫さんに背中を押され2歩ほど前進すると、手の先で感じていた温かさが肘まで届く

肘から先が湿度で濡れる感じがする

そして水の音と混じって鼻歌のようなものも聞こえてきた

「じっと、そのまま、動かないでね」

耳元で囁かれて、背中に体温を感じて、腕に触られてる感じがする

「えいっ!」

ぴちゃっ!

何か柔らかくて、温かくて、濡れているものに手が触れる

「ひゃっ!ななな、なんですか⁉母上⁉何してるんですか!」

「ん?愛衣?」

「え?浩二、さん?」

どういう事だ?なんで愛衣の声が?幻聴?内線か何かから聞こえたのか?

紫さんに後ろに引っ張られて2歩下がる

「は~い。おしまい!もう目開けていいわよ」

触れていた紫さんが離れてから、ゆっくりと目を開けるとそこは変わらずリビングだった

ただ、なぜか肘から先が濡れていた

一瞬触れたアレはなんだったんだろうか?

触り心地良かったなぁ……

少ししてから母上ー!と風呂場からくぐもった叫び声が聞こえた気がした

「ふふふ」

紫さんは悪戯が成功したような表情で微笑んでいた

「今のが魔法、ですか」

「そうよ。どうかしら私の魔法は」

「よくわからなかったんですけど、柔らかかった?です」

「ふふふ。詳しく知りたい?」

「はい……」

「私と結婚したら教えてあげるわ」

「紫さんと、結婚⁉」

「ふふ、冗談です。本当は家族以外誰にも教えられないの。ごめんなさいね」

なんだ、冗談か……びっくりしたな


冗談を交えて雑談しながら紅茶を飲んでいると、少しラフな恰好の愛衣が戻って来た

何故かお腹を抱えて近づいてくる

「母上?」

紫さんは何も応えず人差し指を口の前に立ててシーっとジェスチャーをする

愛衣は真っ赤になって何か言おうとするが、なんと言ったらいいのかわからないようで口を開け閉めする

「ふふ、浩二さん。次、お風呂どうぞ。着替えは用意しておきますから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「愛衣、浩二さんをお風呂へ案内してくれるかしら?」

「はい。戻ってきたらお話しがあります」

「ふふふ。行ってらっしゃい」

俺は愛衣に案内されて風呂場に向かう

愛衣は何か聞きたそうにソワソワしていたが、結局なにも聞いてこなかった

リビングから廊下に出ていくつか扉の前を通り過ぎて突き当りに到着した

「ここが脱衣所で、入って右が浴室です。ごゆっくりどうぞ!」

それだけ言うと愛衣は踵を返しリビングに戻っていった

脱衣所もそこそこ広く、ささっと服を脱いでタオル片手に浴室へ入る

俺は長風呂しない派だが、広々とした浴槽でぼせそうになるほど寛いでしまった


風呂から出ると、着替え一式が置いてあった

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