第21話 研究所のあの部屋

程なくして俺たちは研究所へ到着した

すかさず運転手は黒坂の方のドアを開ける

「お嬢様、到着致しました」

「ありがとう、帰りは」

「もちろん、お待ちしております。いってらっしゃいませ」

「はぁ、わかりました。帰りもよろしくお願いします」

「はい」

俺は勝手に降りて御礼の言葉をかける

「ありがとうございました。さすがはプロですね、乗り心地良かったです」

「お褒めいただき、ありがとうございます」


研究所の正面入り口で思わず立ち止まる

「でっかいなぁ」

「そうですね。でも中の広さは見た目以上でもっと凄いんですよ!」

「へぇー」

「さぁ!行きますよ!」

黒坂に促されて研究所に足を踏み入れる

中に入るとせわしなく動き回る研究員たちがいた

壁にはメモの様な物がびっしりと張られ、まるで壁全面が掲示板のようだ


「やあ、いらっしゃい」

先生は少し自慢気な表情で出迎えにきてくれた

「あ、先生!何か凄いですね、ここ」

「塩谷君はここ来るの初めてだったな。驚いただろう」

「はい。ここに居る人全員が研究員なんですか?」

「そうだとも。みんな自分の研究に熱心で、いつもこんな感じなのだ」

「そうなんですね」

俺の陰に隠れてしまっていたフードを被った黒坂がひょっこりと頭を出す

「こっほん!今日はよろしくお願いしますね。せんせー」

「ああ、Ms.ブラック様。こちらこそ、よろしく頼みます」

先生は黒坂の恰好を特に気にせず受け答えをする

黒坂はフーデッドローブ姿のままだったが気にならないんだろうか

「それで、試験場はB級ですよね?何号室ですか?」

「実は今回は特別に部屋の使用許可が下りたのだよ」

「あの部屋?」

「あの部屋って……部屋ですか⁉」

「そうだ。部屋だ」

あの部屋とやらは二人の間で共通の認識の場所があるみたいだ

「あの~、あの部屋って何ですか?」

「ふむ、説明するのも良いが、それより見てもらった方が早いな」

「行きましょう!いざ、あの部屋へ!」

黒坂は何やらテンション高めだからきっと良い場所なんだろうな、あの部屋とやらは

俺は先生と黒坂に同行しあの部屋とやらに向かった


「着いたぞ。ここが部屋だ」

A級能力測定部屋えーきゅうのうりょくそくていべや

「A級能力測定部屋?」

「そう!ANO部屋!だからあのANO部屋なの!」

「そういう事か、なるほどな。それで何が凄いんだ?」

「まあ、入ってみなさい」

あの部屋に入ってみると、機材の詰まった小さな部屋とガラス越しに大きな部屋が見えた

「こっちは記録室で、あっちが測定室です‼わぁーわぁー、初めて入った!私、ここ入ってみたかったの!前に雑誌で見てから来てみたかったの!」

「そ、そうか。よかったな、来れて」

「はい!塩谷さんのおかげで願い叶っちゃいました!」

「俺は、魔力栞依頼の品を作っただけだから」

「いえいえ!普通の魔力栞の試験はこんな特別な場所使えませんから!」

「そうだとも。塩谷君、君の作った魔力栞は全て要検査対象と認定されたのだ」

「要検査対象?なんですか、それ」

「君の作ったシングルの魔力栞の解析が一部完了したのだ。その結果、君の作る魔力栞はこの日本一の研究所で解析するべき物だって事になったのだよ」

「え?ここ日本一なんですか⁉」

というか、何か大ごとになってる!?

シングルあれは市長が大金で買ってくれて研究するとか言ってたけど、まさかそんな大ごとになってるとは……

「知らなかったのかい?それは不勉強だね。総合魔法学研究所、又の名を総魔研そうまけんとも呼ばれる全魔法学の研究所なのだよ」

「他の魔法学研究所は単純に魔研まけんって呼ばれてて、特定の魔法学しか扱えないんです。ここだけが全ての魔法学の研究を同時に並行してできる施設なんです!総魔研は魔法学の研究員のみならず魔法使いも入ってみたい憧れの施設なんです!」

「魔法使いも?」

「そうです!魔法使いにとっては自分の扱える魔法を増やせる夢のような施設なんです!」

「扱える魔法を増やす?」

「はい!魔法使いは魔法図書の内容から魔法を発動するのは知ってますよね?」

「あ、ああ」

そうなのか、知らなかった……

「でも、自分に合った魔法以外は使えないか、とても弱いんです」

「そうなのか」

「はい。なので魔法使いは自分に合った魔法を普段から探しています。ここなら全国から集められた選りすぐりの魔法図書が読めるんですよ!ということは」

「ということは?」

「自分に合った強い魔法が見つかる可能性が高いんです!」

「なるほどな」

「そろそろ、試験を始めてもよろしいでしょうか?Ms.ブラック様」

「あっ!すいません!」

「塩谷君、ダブルを出して貰えるかな?」

「はい」

カバンからダブルの魔力栞を取り出し先生に渡す

先生はスキャナーみたいな機材に入れていくつか操作をする

「よし、これで読み取りは完了だな。それではMs.ブラック様、お願いします」

黒坂は先生から魔力栞を受け取り、繋がった隣の部屋の測定室?に入っていった

先生がマイクで話しかける

「準備は宜しいでしょうか?」

「いつでもいけます!」

とスピーカーから返事が聞こえた

ガラスの向こうでフーデッドローブ姿の黒坂が本を開くのが見える

「では、詠唱を始めてください」

「はい」

一瞬の静寂の後、黒坂が詠唱を開始した

「魔法図書『魔女裁判の歴史~魔女たちの無念~』66ページ!死して身の潔白を証明するしかなかった魔女たちの絆!『火刑の業火ヘル・ファイア!』」

黒坂の魔法で大きな炎の球が出現した

人間くらいの大きさの炎の球は十字架の形に変わり、熱で揺らめいていた

計測機器の画面が様々な模様を描き魔法を測定する

「ふむ。これはどういう……」

先生は何か不可解な事でもあったかのような反応をする

「Ms.ブラック様、奥のターゲットに当ててみてください」

「はい」

そういうと黒坂はおもむろに腕を振る

その動きに合わせて炎の十字架がターゲットに向けて飛んでいく

当たった瞬間魔法は爆発しターゲットを真っ黒に焦がす

「お疲れ様です、Ms.ブラック様」

「もう一発撃ちますか?」

「いえ、一度こちらに戻ってきてください」

「わかりました」

黒坂は本から栞を取り出し記録室に戻ってきた

「Ms.ブラック様、お気付きでしょうが……」

「はい。この魔力栞は、なんと言うか……」

不穏な空気を醸し出す二人

もしかして失敗作?シングル以下の性能?

自信作、だったのにな……

俺に背を向けて一定の距離を置いて二人が何か話しこんでいる


「普通、ですね」

「はい。計測機器の全データがダブルの平均値を記録しています」

「そうですね。使ってみた感じ違和感もなくて、よくあるダブルの魔力栞と同じ感じです」

「シングルであれだけの性能を出したので、些か期待が大きすぎたのかもしれませんな」

「そうですね」


二人でコソコソ何話してんだろ?

「あの~、もしかして失敗作だった?作り直す必要ある?」

「いえいえ!そんなことはありませんよ!ダブルの平均的な魔力栞です」

「そうですな。これといった不備も異常も検出されなかった」

「じゃあ、なんでそんな不穏な空気を……」

「あ、すいません!塩谷さんが悪いのではなくて!ただ期待値が少し高かったので……」

「え……?」

「シングルの性能が高かったからな、今回も凄いものが出来たのではと期待していたのだが」

「失敗作じゃ、ないのか」

良かったぁー!、一安心だな!うん!

「残念ながら安心するには早いですな」

「そうですね、困りました」

「え?失敗じゃないんですよね?どういう事ですか⁉」

「この地域の条例で、【トリプルを製作する為には完成度の高いダブルを作れなくてはならない】のです」

「塩谷さんが作ってくれた今回のダブルの完成度では許可が下りないんです」

「て事は、今のままトリプルの製作に入ったら」

「罰金が科せられます」

「罰金⁉」

「ふむ、大体100万円でしょう」

「ひゃ、ひゃくまんえん⁉」

「はい。なので塩谷さん、頑張ってください‼」

「次もこの研究所で試験できるようにしておくから、連絡待ってるよ」


二人に応援されても気分は落ち込んでいた

シングルがよくわかんないまま、高評価もらえてこんなの楽勝だろって思ってたけど……

もしこのままダブルの完成度が上がらなかったらヤバい事になる

一年以内にもう二段階上のランクまで作れるようにならないと


俺は死ぬことになる……!


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