第19話 魔法学の先生

俺は作業道具を入れたままのカバンに読んでいた本を追加して家を出る

道中は何もなく、無事市役所までやってきた

現在の時刻12時10分

約束の時間10分遅れで市役所に入ると、奥から市長が走って向かってきた

「やあやあ!遅かったじゃないか!何をしていたんだい?」

肩を掴まれて前後に激しく揺さぶられる

「す、すいま、せん!ちょっと読書してたら時間忘れちゃいまして」

「何を呑気な事を言ってるんだい!そもそも君はあんまり読書するような人じゃないだろう!二度寝でもしてたんだろう?顔くらい洗ってから来なさい!」

遅刻したのが原因か、市長の口調が何かおかしい

「いやいや!本当に読書してて」

呆れたような声で市長は

「はぁー……じゃあ何で涎の跡が付いているんだい?」

とジェスチャー付きで指摘してきた

「えっ?涎⁉」

ゴシゴシと口周りをハンカチで拭う

「さぁ、行きますよ。先生がお待ちです」

「はい……」


元はといえば市長が置いてった本が無ければ……

俺と市長は急いで先生とやらが待つ部屋へ行く


「失礼します。塩谷君を連れてきました」

「入り給え」

市長と俺が部屋に入ると、そこにはスーツに白衣を羽織ったおじさんが座っていた「遅かったね、何かトラブルでもありましたかな?」

「いえいえ、問題ございません。では、私は公務もありますので」

「ああ、ご苦労様。さてそんな所に突っ立ってないで座りなさい」

「はい!失礼します」

「さて、塩谷君といったかね」

「はい。塩谷浩二といいます。遅れてしまってすいません!」

「はっはっは。そんなに畏まらなくてもよい」

「そうですか、じゃあ気楽に」

「それで本題なんだが、君は魔力栞について教わりたいと聞いているが」

「はい、ダブルの魔力栞の作り方について出来れば1から教えてもらえれば」

「1から…ということは、ふむ。よかろう、では授業を始めるとするか」

「よ、よろしくお願いします」

「では、ダブルの魔力栞というものはな。2色の色を使い1つのテーマで作るものと、1色の色を使い2つのテーマで作るものと二通りある」

「2色で1テーマ、1色で2テーマ……後の方が難易度高い気がするんですが」

「その通り!後者の方が難易度は高く、前者の方が割合簡単というのが一般的だ」

「という事は、後者の方が良い?」

「早合点するな塩谷君。確かに後者の方が良いように思うだろう。しかし、完成度という問題点がある」

「完成度?出来栄えって事ですか?」

「そうだ。後者は完成度を高く作れればダブルとトリプルの間のランクにまでなるが、完成度が低ければシングルと同程度か最悪の場合、魔力栞としての能力が発揮されないただの栞になってしまうか、爆発する」

「そう簡単には作れないって事ですか」

「そうだ。よって最大能力として比べれば劣っている前者の方が現状広く使われている」

「なるほど。それじゃ俺が作るのは前者の方の2色1テーマって事ですね」

「何を言っている?もちろん後者の方を作ってもらうぞ」

「え?難易度高い方より難易度低い方からじゃないですか、普通」

「普通では駄目だ、とあやつが言っていたからな」

普通ではダメってどういう事だよ!

「あやつって誰ですか?」

「ああ元教え子で、今は生意気に市長をやっておる」

「市長⁉」

「無駄話しはこの辺にして、製作の方に移るとしよう」

市長が元教え子?何か気になるな……

「気になるかね?しかし、急いだ方がよいのだろう?依頼人にクアッドの魔力栞を今年中に作らねばならないのだろう?」

「そうですけど。なんで知ってるんですか?」

「そんな事はどうでもよい、さぁ製作に入ってもらおうか」

よくはない、けど

「わかりました。そういえば、何処で作るんですか?市役所ここの中に作業部屋あったりするんですか?」

「作る場所?勿論、君の部屋だ。慣れた場所の方がよいだろう」

「慣れた?いえいえ、引っ越したばっかりでまだ全然使ってないんですが」

「それなら慣れる為にも使わねばな」

「……わかりました。行きましょう」

俺は来た道を戻り先生を案内する

そういえば、先生の名前知らないなぁ

白衣着てるからMr.ホワイトとか?だったら嫌だな……

「あの、先生?」

「なんだね、塩谷君」

「先生のお名前って」

「ああ、私としたことが名乗るのを忘れていたな。すまんすまん。私は五十嵐 一郎いがらし いちろう。普段はライメイ市にある施設で魔法学の研究をしている学者だ」

五十嵐先生って呼べばいいのか?

「因みに、普段はとだけ呼ばれてるから君も遠慮なく先生と呼んでくれてよいからな」

「は、はい。わかりました」

そうこうしてるうちに家に到着した

「ここです」

ガチャリと鍵を開け中に入る

先生も続いて入ってくる

「ほう、なかなかよい所だな」

「ありがとうございます」

中に入り真っすぐに作業部屋へ向かう

「こっちです」

朝見たままのまっさらな状態の部屋に案内する

「それで、何をどうやって作れば良いんでしょうか」

「ふむ。まずはテーマか色を決め、次にデザイン、最後に製作といった手順になるが色とテーマどちらから決める?」

「じゃあ色で」

「よし、では何色にする」

「青で行きます」

「ならば、青でイメージする物をテーマにするべきだ。テーマと色の不一致は魔力貯蔵速度が最大2割ほど下がるという研究結果が出ている」

「わかりました。青、青、あお……あっ!アレにしよう!」

「決まったようだな」

「はい!さっそく作ってみます」

「ああ、では私は居間で待っていよう」

「よっし、まずは参考資料を探してっと」

イメージが決まれば後は形にしていくだけだ

広い机に花の写真集と、昆虫図鑑を広げデザインの参考にする

ここはこうなってて、こっちはこうか、そんでこの辺をこうして……あーでも、ここが違うな……それならこっちはこうして、ん?何かおかしいな

デザインの書き出しに難航して1時間以上の時間が経過していて、気づけば15時を過ぎていた

「よしっ!これでデザイン完成っと‼‼」

一旦休憩しよっと!

部屋を出て居間へ行くと先生が俺のマグカップでコーヒーを飲んでいた

あれ?俺そういえば何のおもてなしもしてないな……

「おお、出来たかな?」

「取り敢えずデザインは出来ました。後はメインの切り抜きですね」

「そうかそうか。順調そうで良かった良かった」

「すいません。何のおもてなしもしないで」

「何、構わんよ。事後承諾ですまないが、勝手にコーヒーを頂いたよ。インスタントの中でもこの銘柄は美味しいな」

「口に合って良かったです。好きに飲んでもらっていいんで」

「ふっふっふ。そんなにガバガバ飲んだら胃に悪いから1杯だけにしておくよ」

俺もコーヒーを飲むためにガラスのコップを取り出す

スプーンで瓶から粉末を掬いコップへ投入、電気ポットのお湯を注いでスプーンで溶かす

コップ熱い!いや、うん!当たり前だけど、コレは熱い!

一先ずコップ置いて冷凍庫から氷を取り出してコーヒーへIN

スプーンでかき回すとカラカラと音が鳴る

入れた氷が1/3程溶けた辺りでコップから溢れそうになり少し飲む

ぬるい……

ちびちび飲んで更に氷が半分になる頃には冷たいアイスコーヒーが出来上がった

居間の4人掛けテーブルで先生の正面に座る

「んぐ、んぐ…ふぅ」

「どんなデザインかとても気になるが、今の君の様子から察するに中々良い物ができたみたいだ」

「そうですね!結構力作ですよ!」

「ならば完成してからのお楽しみにとっておくとして、幾つか質問よいかな?」

「なんでしょう?俺に答えらる事だっらいいんですけど」

「君は、どちらかというと筆記より実技の方が好きだろう?」

「そうですね。筆記や暗記は苦手ですね」

「やはりか」

「どうしてわかったんですか?」

「君を見ていれば分かるさ。実際に作るとなった時の君の表情が楽しそうにニヤケていたからな」

「え、そんな顔してました?」

「していたよ。それを見て思ったよ。あぁ、この男は私の授業を聞いても理解できないだろうな、とね」

「そんなことは」

「では、魔法図書と魔導書の違いを説明できるかな?」

「えっと……魔導書ってなんですか?」

「ふむ、やはりな」

「うぐっ」

「では、次の質問だ。Ms.ブラックとはどういった関係だ?」

「関係ですか?普通に依頼人と製作者ですけど」

「本当にそれだけかい?」

「はい」

「Ms.ブラックの事は何とも思ってないのだね?」

「はい」

「ふむ。よかろう。質問は以上だ。さてそろそろ作業を再開した方がよいのではないかね?」

~時刻15時55分~

「もうこんな時間か!すぐに作業に戻ります!」

残りのコーヒーを一気飲みして作業部屋に駆け込む

「よっし!やるぞー‼‼」

それからは黙々と作業に没頭して完成までノンストップで駆け抜ける


よし、切り終わった

最後にインクでサインを入れてっと、完成だ!

えっと今何時だ?

~時刻17時28分~

五時半か、えっと作業再開したのがだいたい4時だから1時間半かかったのか

背伸びをして固まった体を解す

よしっ、コレを先生に見せて合格貰えればダブルはクリアかな

そしたら次は……なんだっけ、トラ、トラ?トライアングル!違うな、トライデント?でもないな……

まぁいっか、先生に教えてもらおっと


居間に完成した物を持っていく

「できました!」

「そうか。見せてみなさい」

俺は自信作を先生に渡す

「ほう、これはこれは」

今回デザインしたのは蝶とバラだ

青く綺麗なモルフォ蝶と優雅に咲く青いバラ

「なかなかよい出来の物だ、しかし実際に使ってみないと分からない部分もある」

「市長に頼んでみますか?」

「いや、私は魔法学の学者だが魔法発動は不得手でな。君さえよければ是非ウチの研究所で試験させてもらえないか?」

「構いませんけど、いつ試験しますか?」

「では、明日にしよう。昼過ぎに迎えをよこす。その者と一緒に来てくれるか」

「わかりました」

「この魔力栞は明日君が持ってきてくれ」

「持って行っても良いですよ?」

「いや、遠慮しておくよ。持って帰れば研究の為に解体バラしかねない」

「バラされるのは困るので、明日自分で持って行きます」

「そうしてくれ。では、また明日だ」

「はい、ありがとうございました」

挨拶の後、先生は急いで帰って行った


今日中に論文仕上げるぞ!とか言ってたけど、そんな事できるのかな……?



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