第18話作業部屋にて

ささっと朝飯を食べて部屋の中を確認することにした俺は、トーストと目玉焼きを用意する

トースターにパンを1枚突っ込み、フライパンに油を垂らし火にかける

フライパンが温まったら卵を落とす

ジューーーーっと卵の水分と熱された油のせめぎ合いの音が食欲を刺激する

少量の水を回し入れて蓋をして蒸し焼きにする

焼き加減はしっかり固焼きで、味付けは塩胡椒が一番

トーストも焼き上がり綺麗なキツネ色になった

熱々のトーストにマーガリンを一欠け乗せて融かしながら伸ばす

それぞれを皿に乗せテーブルへ持っていく


「いただきます!」


サクサクともちもちのトーストを頬張る

うまい、今日は焼き加減も完璧だな!

目玉焼きは、っと黄身が固まってない・・・だと⁉

くそぅ、焼き時間が短かったか……次はもう少し長く焼くか


「ごちそうさまでした」


食器をパパっと洗って片付ける

さて、この後どうするかな

時間は10時20分か

ここを11時半に出れば丁度良い時間に着くはずだから、後1時間10分あるな

そうだっ!作業部屋で何か作ろう!

作業部屋へ入って見渡すとそこには新品の机と椅子、棚などが置いてある

「あれ?なんだコレ」

作業机の上に見慣れぬ本が置いてあった

『魔法の始まりと発展』

こんな本持ってなかったはずなんだけどな

多分だが市長あの人の仕業だろうなぁ

「これは、読めってことなんだろうな」

仕方ない、読むか


※この本に書かれている内容は筆者本人による取材で判明した事とそれに基づいた予測をまとめたものである


最初の注意書きからしてコレは……かなり胡散臭そうな感じがするな

まぁ、読めってんなら読むけどさ

市長はいったい何でこんな本チョイスしたんだか


第1章 始まりの物語り

約100年前、世界各地で局地的な爆発や突風などの怪奇現象が観測された

次第に世界中を混乱と疑心暗鬼が支配するようになった

それから数年後、秘密結社ライトニングと名乗る集団が世界にネット配信などを使って声明を発表した

彼らが公表しようとした情報は各国政府によってほぼ全て削除されたが、一部だけ規制をすり抜けて人々の手に渡ってしまっていた

この頃の通説は、怪奇現象の原因がライトニングにあるとする自作自演説だ

しかし、公開された情報を元に魔法を使おうとする魔法使い派が少しだが存在していた

今現在は逆転して魔法使い派が大多数を占めている。しかし、秘密結社ライトニングによる自作自演が完全に否定された訳ではないのだ

未だ秘密結社ライトニングの関係者と目される人々は世界的に指名手配されている


「ふぅー」

やっぱり胡散臭い内容だな

でも、もう少しだけ読んでみるか


私は秘密結社ライトニングの情報を世界各地で探した

何処を本拠地としているのか、構成員の人数や過去の活動などありとあらゆる文献や噂を調べ上げた

しかし、何も見つからなかった

本当に存在しているのかさえ怪しくなってきた

こんなにも探して見つからないとなると、実は秘密結社ライトニングは実在しないと結論付けたくなる

その日もいつものように情報集めのためあっちこっち飛び回って、しかし何の成果も上げられなかった

帰宅前に馴染みの店で酒を買おうと「よう、おやっさん」と店主に声をかける

すると店主のおやっさんは「今日も空振りかい?」と笑いながら返事をする

ジェスチャーでそれに応え安い酒をカウンターへ持っていく

「お前さん、酒を買う頻度上がってないか?ウチとしてはありがてぇが、あんまり飲むと体に障るぞ」

「うるせぇな、飲みたい気分なんだよ」

「そうかよ。それはそれとな、お前さんの知り合いに真っ黒いフードの男っていたか?」

「居ねぇよ。居たら良いんだけどなぁ」

「あんな怪しい見た目の奴と知り合いたいなんて、やっぱお前さんは変わってるねぇ」

「それ、どういう意味だよ」

「ん?気に障ったか?悪い悪い。つまみサービスしとくからそんな恐い声出すなよ」

「いや、そうじゃねくて」

「なんだ?つまみ要らねぇのか?」

「それは要る!じゃなくて、“真っ黒いフードの男”についてもっと詳しく!」

「なんでぇ、随分と眼光らせてイキイキしやがって」

「いいから、早く教えてくれ!いつ来た?今日か?なら何時ごろだ?」

「落ち着けって、近い近い!シッシッ」

「ああ、すまない」

「ソイツは今日の昼頃にフラッと入って来てよ。俺にこう言うんだよ『この近辺で秘密結社ライトニングを追っている奴を知らないか』ってさ」

「やっぱり……それで?俺の事喋ったのか?」

「いや、あんまりにも怪しいんでな。知らぬ存ぜぬで押し通した」

「そうか。ほかに何か言ってなかったか?何でもいい、手掛かりが欲しい」

「そういえば、こんなモン置いていったな」

店主は屑入れから1枚のカードを拾い上げた


そこには、秘密結社ライトニングのマークが記されていた

マークの下に小さな文字でなにか文字が書かれていた

一先ず家に帰ってから調べる事にして、店を後にする


帰宅後、秘密結社ライトニングに関する資料を積み上げた作業机の上にカードを置く

マークと文字をもっと詳しく観るために拡大鏡をのぞき込む

秘密結社ライトニングが公開したあの動画の中で出てきたマークと似ているな

文字の方はっと

“選択せよ 死 か 従属 か”

妙に隙間の空いた文章だな

死か従属か、ね

死ぬのは嫌だからな、従属の方がまだマシだろうか

「我は従属を選ぶ!……なんてな」

手を翳してカードに宣誓の真似事をする

「そうか。従属を選ぶか」

「だ、誰だ!」

振り返るとそこには真っ黒いフードの男が自然に立っていた

帰宅してから鍵は勿論かけた

どっから入ってきたんだ?元からいた?いや人の気配なんて無かったと思う

「従属を選んだ者よ、名を名乗れ」

「私の名前は」

口が喉が勝手に動き自分の名前を喋る

腕も足も動かない、まるで金縛りに遭っているようだ


「ふむ、そうか。これから貴様はC18と名乗れ。それがライトニングでの名だ」

「はい。畏まりました」

「うん?何か聞きたそうな顔だな」

「はい、質問させてもらえますか」

「よかろう。ただし、一つまでだ」

「ありがとうございます。では一つ質問させていただきます。私はこれからどうなるのでしょうか?」

「死を選ばなかった貴様は秘密結社ライトニングの構成員として働いてもらう。拒否権は無く、全ての任務は完遂しなければならない。任務の失敗は命で償ってもらう。貴様は秘密結社ライトニングに従属したのだからな」

「わかりました」

「では、初任務だ。貴様にはこれから本を書いてもらう」

「はい」

「本の内容は我々の事を少しと魔法の扱い方だ」

「いいのですか?」

「勿論、完成した原稿は我々が検閲する。期日は1年以内だ。いいな?」

「はい。この命を懸けて任務の完遂に努めます」


パタンと本を閉じるて目を開ける

「ふぅーーー」

久しぶりに読書したなぁ

さてと、時間は……

11時45分

あ、ああぁぁぁぁあぁぁ!

ヤバい!予定の時間過ぎてる⁉

あれ?なんで?さっきまで時間に余裕あったのに!

あれ?体痛い?ちょっと読書したくらいで凝りすぎでしょ!俺の体!

まるで机でに背中やら肩やら痛い!

勘弁してくれ!クソっ!走って行って間に合うか?いや、無理だろ!だって俺足遅いもん


どうする?……どうしようもない?

そうだな。うん。どうしようもないなら焦っても仕方ないな

よし、遅刻確定なら仕方ない。歩いていこう!

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