第15話その出来栄えは・・・?

市長が指をパチンと鳴らすと壁が開きエレベーターが現れる

「どうぞ、コチラへ」

市長に促されるままエレベーターに乗り込む

そう言えば、この市役所に地下室があるなんて聞いた事ないなぁ

どんな場所か聞いてみよう

「市役所の地下に魔法の使える場所があるなんて、初めて知りましたよ。どんな場所なんですか?」

「これから向かう地下空間はごく一部の人しか知らない秘密の場所なんだよ。くれぐれも他言無用で頼むよ」

と何故か小声で返答する市長

「え?」

「一応、表向きは緊急時の地下シェルターって事になってるんだけどね。実のところ魔力栞や魔法図書の安全確認の為の試験場なんだよ」

釣られて俺も小声で話す

「なんで秘密にしてるんですか?安全確認の為なら公表しても大丈夫な気がしますが」

「ここで試験される魔法図書の大半は殺傷能力の高いものなんだよ。興味本位で来ると危険だから、一般の人は存在すら知らされてないんだよ」

「なるほど……でも俺は一般の方に入るのでは……」

「君はもう一般人ではないよ。Ms.ブラックから指名されてる時点でなんだから」

特別ねぇ、全く実感湧かないな

「あの、市長?なんでMs.ブラックって呼ぶんですか?普通に名前で呼べばいいじゃないですか」

「名前呼びなんて、畏れ多いことできないよ。私の実家は代々Ms.ブラックの家系に仕えてるからね。位が違うんだよ」

「そんな時代錯誤な」

「事実であり、真実だよ。Ms.ブラックは由緒正しい血筋なんだ、君もあまし失礼のないようにした方が身のためだよ」

「それは忠告ですか?」

「いや、警告だよ」

「二人ともさっきから何ヒソヒソ話してるんですか?」

「いえいえ、なんでもございませんよ。もう少しで着きますので、もう少々お待ち下さい」

「はい!楽しみだなぁ!どの位魔力が溜まるかなぁ、効率はどの位かなぁ」

楽しそうにする黒坂はどこにでもいる普通の少女の様に見えた


チーン

「着きました。こちらがライメイ市役所地下魔法試験場です」

ドアが開き目の前に広がる空間は予想していたものより大きかった

「わぁーー、広いですね!」

「ここの広さはおよそ私立中学の体育館4面分となります」

「こんなに広いなんて思いませんでした!ここなら、いくらでも魔法の練習できそうです!」

「使用には私の許可がいるので、ご利用になりたい時はご連絡をお入れてください」

「はい!……それじゃ、さっそくこの魔力栞使ってみますね!えーっと魔法図書は……」

「とりあえず、こちらの『魔法の基本その1~火球ファイヤーボール編~』で試されてはどうでしょう?」

「ありがとうございます!お借りしますね」

「いえいえ、お役に立て何よりです」

二人のやり取りを眺めていると市長の方は黒坂を丁重にもてなしているのが分かるし、黒坂の方ももてなされるのに慣れているように見える

「それじゃ、いきますね!」

黒坂はまるで絵本のような厚みの本に俺の作った魔力栞を挟む

「魔力の流れは、問題なし。魔力の貯蔵量も、大丈夫そう。よし!魔法図書『魔法の基本その1~火球編~』3ページ火球の生成!」

黒坂が詠唱をすると空中にバスケットボールサイズの火の玉が出現した

「やった!成功です!」

「お見事です、Ms.ブラック」

「おお、それ見るの学生の時以来だな」

火の玉は次第に火力が下がっていき、小さくなるとポンっという音共に消える

「やりましたね、塩谷さん!初作品で初成功です!」

「ああ、良かった」

この調子で行けば余命1年が撤回できそうだ!

「この魔力栞、初めてにしては凄いですよ!魔力の貯蔵効率が高いし、魔力の流れも詰まりが無くて!」

「お、おう。それは良かった」

どういう事だ?貯蔵効率?詰まり?

「塩谷くん、私から説明しよう。魔力の貯蔵効率というのは魔力栞が空の状態から満ちるまでにかかる時間が短いという事だよ。魔力の流れと詰まりとは、溜まった魔力を使用するのに無駄がどの程度あるか、という事だよ」

「はぁ」

「つまり……君の作った魔力栞は短時間に何回も魔法が放てるし、その魔法は無駄になる魔力が少ないという事だ」

「かなりの高評価って事か」

「そうです!あの短時間でこのクオリティの物を作れるなんて驚きです!」

「そんなに驚く事なのか?」

「当たり前です!このクオリティの魔力栞を作れる人なんてそう多くはいませんし、普通なら数年はかかるレベルですよ!」

「そ、そうか」

凄い褒めてくるな、そんなに気に入ったのか

「Ms.ブラック、その魔力栞を貸してもらえますかな」

市長が魔力栞を受け取り手を翳す

「ふむふむ。これは確かに素晴らしい出来だ」

「ですよね!」

「Ms.ブラック、すみませんがこの魔力栞譲ってもらえないでしょうか?」

「「え?」」

俺と黒坂は揃って同じ反応をする

「この魔力栞を研究して、教育現場へ反映したいのです。一見普通のデザインに見えるのですが、一体どこにこれほどのスペックが秘められてるのか調べたいのです」

「次代のため、ですか?」

「はい。その通りです」

「わかりました。塩谷さん、折角素晴らしい魔力栞を作ってもらったのにすいません!次の世代の育成のためにあの魔力栞は市長に譲ることにしますね」

「ああ、いいよいいよ。市長が買い取ってくれるなら代金はしっかり貰えそうだしな。えーっと、次に作るのはツイン?」

「ダブルです‼」

「ああ、そうだそうだ」

「ダブルは、また日を改めて打ち合わせしましょう。今日はもう帰らないといけない時間なので」

「ん?もうそんな時間か」

「うち、門限7時なんです。今から帰れば間に合うと思うので」

「そっか。それじゃ、連絡先だけ交換しとこう」

「そう、ですね!」

スマホを操作して連絡先を交換する

「これで良しっと」

「はい!」

「塩谷くん、この後市長室へ一緒に来てくれるかい?買い取り金額の相談をしたい」

「はい、わかりました。」

「それじゃ、地上へ戻ろうか」

市長、俺、黒坂の三人は再びエレベーターに乗り込み地上へ上がる


チーン

1階に到着しドアが開く

「Ms.ブラック、お疲れ様でした」

「いろいろ、ありがとうございました」

黒坂は奇麗にお辞儀をして小走りで帰っていった

見送った後、ドアは閉まりエレベーターは今度は市長室へ向かう

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