第14話シングル製作
俺は、使い慣れてる道具類を入れたカバンを手に市役所へ戻る
「やぁ、待ってたよ。塩谷くん」
「え?市長自らお出迎えですか?まるでVIPみたいですねー」
「おや、あまり嬉しそうじゃないね?悲しいなぁ」
「イエイエ、ソンナコトナイデスヨ……」
「そうかい?」
「アッハッハッハ」
「それじゃ、早速だけど細かい打ち合わせに入ろうか」
市長は華麗に180度ターンを決めて市役所へ歩きだす
その後に続いて俺も本日二度目の市役所入る
市長の後を付いて歩くと、何故か階段とは違う方向に向かう
「あの市長?最初使わせてもらった部屋に行くんじゃ?」
「ん?そうだよ」
「階段は」
「えっ?階段?使わないよ。エレベーターあるからね」
「えっ!?あるんですか?」
「何言ってるんだい、最初の時も乗っただろう?」
「いえ、階段で」
「ははっ、健康的でイイネ!だが今は急ぐからエレベーターで行くよ」
「は、はい」
あの受付の人、なんで階段なんかで?
「あ、もしかして彼女かな……」
「え?」
「ああ、いや……なんと言うか、ね。私の忠実な部下の一人にちょっと変わった人がいるんだ」
(そりゃ、いるでしょうね‼‼)
「彼女は何故か私が面会する予定の人を必ず階段で登らせるんだよ。困った癖だよね」
「ソウデスネ」
(そんな変な部下クビにしてしまえ!)
「でも、すごく有能なんだよね。私の希望を先回りして叶えてくれたり、凄く気が利くんだよね」
「お呼びでしょうか」
スタっと音もなく背後に立つ市長の有能な部下
「ひっ⁉いつの間に」
「ああ、大丈夫大丈夫。特に用はないから通常の職務に戻っていいよ」
「はい、畏まりました。何かありましたらお呼びください。直ぐに伺いに行きますので。では、失礼します」
市長に深々と頭を下げ華麗に180度ターンを決めてカウンターに戻っていく
「あの人、なんか怖くないですか?」
「そんなことないさ。さぁ、エレベーターに乗って行くよ」
「はい」
二人でエレベーターに乗り込み行く階を示すボタンを押そうとする
しかし、階数を示すボタンが無い
「あの?このボタンおかしくないですか?」
「ああ、これはね」
そう言って404と書かれたボタンを市長が押す
エレベーターはドアが閉まり動き出すが、普段乗っているエレベーターと挙動が明らかに違う
横方向に動き、続いて斜め上方向に少し上がって、最後に真上の方向に動く
チーン
到着を知らせるベルが鳴りドアが開く
そこはMs.ブラックこと黒坂愛衣の待つ部屋だった
なんとこれは、部屋に直接繋がったエレベーターだった
「遅いですよ。早く始めましょう」
「じゃ、私は他の仕事があるから失礼させてもらうよ。また後でね、塩谷くん」
俺は背中を軽く押されエレベーターから出される
振り返ると閉まるエレベーターのドアの隙間から市長が手を振っているのが見えた
完全にドアが閉まるとそこは只の壁にしか見えない
「なにがどうなってるんだ?」
「塩谷さん、何ボーっとしてるんですか?早速シングルの製作に入りますよ」
「ああ、そうだな。早く作らないと」
「そうですよ!一年以内に最高の魔力栞を作ってもらいますからね!」
「一年、以内?期限あるのか?」
「そりゃ、そうですよ。だから急がないとですね!」
「一年以内に出来なかったら?」
「死、でしょうか」
「シってDeath?」
「そうデスね!ふふ」
「いやいやいや!」
「大丈夫ですよ♪作れば良いんです」
(事もなげに言うが、最高レベルの魔力栞を簡単に作れる訳ねぇだろ!)
「さて、ではシングルの具体的な作り方の説明をしますね」
「ああ」
「シングルは1つのテーマを単色で作ります。ですが、テーマと言っても小さな物に限ります」
「小さい?蟻とかか?」
「いえ、物理的な大きさではなくスケールの大きさです」
「スケール?」
「例えば、花だったら花の個々の名前が最小のテーマって感じですね」
「バラとか菊とか」
「そうです!塩谷さんが以前作っていた華シリーズが近いですね」
「それならすぐ作れそうだな」
「はい。でも1色しか選べないので茎や葉を表現するのは注意してください」
「わかった。じゃあさっそく作るか」
「あ、私部屋出てましょうか?気が散るといけないので」
「いや、ここにいて構わないよ」
「いいんですか?」
「ああ、ちょっと待っててくれな。30分で仕上げるから」
「はい!」
俺はバンダナを頭に巻き、カバンから道具と材料を取り出す
こんなこともあろうかと少量ではあるが材料は持ち歩いていたが、正解だったようだ
「何色がいい?」
「え?えっと、赤がいい、です」
「ん、了解」
赤の色画用紙を使うか
テーマ、テーマっと・・・やっぱり赤と言えばバラか?
しかし、バラを作るには時間がかかりすぎるな
バラ以外となると・・・・・・
あ、アレでいこう。えーっと南国系の・・・名前何だっけな
まぁ、形は覚えてるし何とかなるだろ
慣れた手付きで画用紙に下絵を薄く描く
そして、デザインナイフと呼ばれるカッターで切っていく
俺の作る栞は紙を切り抜く、所謂切り絵みたいなものだ
出来るだけ手際よく、無駄なく切り進めていく
きっちり30分とはいかず、15分程オーバーして45分かけてやっと完成した
「ふぅ、できた」
「完成ですか?」
「完成だ」
黒坂に完成した栞を見せる
「わぁ!ハイビスカスですね!」
「そう、ハイビスカスだ」
そうか、思い出した!この花ハイビスカスだ!
「それじゃ、さっそく魔力栞にしてみましょう!」
「そういえば、このインクどうやって使うんだ?」
おっかない婆さんから受け取ったインクの小瓶をカバンから取り出す
「一般的にはスタンプ台に滲み込ませて使いますね。でも、実はサインでも大丈夫なんですよ」
「サインなんて書いた事ないぞ?」
「今作っちゃいましょ!」
「そうは言ってもなぁ」
「塩谷、シオヤ、Shioya……」
「名前以外じゃ、ダメなのか?」
「・・・?いえ、そんな事無いですけど」
「それなら、栞屋で」
「えーー?何かもったいない気が」
「そうか?ずっと使ってるから気に入ってるんだが」
「どうせならShiori‐yaとかにしませんか?」
「わざわざローマ字にする必要あるか?」
「カッコいいです!」
「英語の方がカッコいいと思うが・・・」
「英語・・・英語で栞屋ってなんていうんですか?」
「栞はbookmarkだろ」
「ああ、ブクマですね!」
「屋はstoreだな」
「ブックマークストア?ですか」
「長いな」
「そうですね」
「ブクマ屋」
「ぱっとしないですね」
「そうだな」
「んー、創作者ってクリエイターとも呼ばれますよね」
「ああ。俺はあんまり馴染みないが、そう呼ばれてる人もいるな。確か他にも○○メーカーって呼ばれる人もいるらしいぞ」
「クリエイター・・・メーカー・・・」
「栞屋で良い気がするんだがなぁ」
「どっちも~する人って意味でerが付いてるから・・・あっ!!」
「どうした⁉」
「思いつきました!ブックマークを作る人だから、ブックマーカーでどうですか?」
「Bookmarker、か」
うん、シンプルで悪くないな
「ダメですか・・・?」
「いや、いいんじゃないか」
「それじゃ、さっそく栞の空いてる所にサインしてください!」
「Bookmarkerっと」
言われた通りにサインする、すると栞が淡く光った
「凄いです!一回でちゃんと魔力栞になりました!」
「ん?どういう事だ?」
「淡く光ったのは魔力です。魔力が栞に流れ込むとああやって光るんです!」
「そうなのか」
「魔力栞として機能しない物にサインをしても全く光らないんです」
「て事は、ちゃんと魔力栞として完成したって事でいいのか?」
「はい!早く使ってみたいです!」
「使うったってここじゃ危険だろ?」
「そうですね・・・」
「やあやあ!魔力栞作りは順調かな?」
「「市長!?」」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。私は
「いつのまに部屋に入って来たんですか!?」
「まったく気づきませんでした」
「うん?二人してサインに悩んでる辺りから、ずっと見守ってたよ」
「でも、部屋には俺達しか見当たらなかったんですが」
「ああ、邪魔したら悪いと思ってね。透明になる魔法で隠れてたんだよ。私って気が利くだろ?」
「「ソウデスネ」」
「サインも決まったようだし、新しく登録よろしくね。ブックマーカーの塩屋くん」
「あ、そっか。魔力栞は別商品扱いか」
「そうだよ。ささ、この書類に必要事項を記入してね」
「あ、そうだ。市長さん!」
「なんですかなMs.ブラック」
「魔法の試し打ちがしたいんですが、近くに良い場所ないですか?」
「ああ、それならココの地下をお使いください」
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