第13話部屋に帰ると

俺は自室の鍵を開け中に入る

作業に必要な道具のハサミやカッターをカバンに詰める

ピンポーン

おや、誰か来たようだ

「はーーい。どちら様ですかーー?」

「どうもー、ライメイ引越社です!」

「引っ越し?うちは頼んでないですよ?」

「こちら塩谷浩二様のお宅で間違いないですよね?」

「そうですけど」

「では、合ってますね。よし、やるぞー」

ぞろぞろと部屋に入ってくる引っ越し屋の男たち

「ちょ、ちょっと待ってください!一体どういう事なんですか⁉俺依頼なんてしてませんよ!」

「ええ、依頼者は塩屋様ではなく市長ですから」

「はいぃー⁉え、まさか強制退去?市外追放⁉」

「いえ、運搬先は市外ではないですよ」

「じゃ、じゃあ、どこに?」

「市役所併設の寮です」

「あんな所の家賃なんて払えませんよ⁉」

「それは、我々に言われても……」

「と、とにかく一旦作業止めてください!市長に確認させてください!」

プルルルル

こんな時に誰だーーーー!

「はい!もしもし!今忙しいんですが!」

「あーもしもし?私、私」

「誰ですか⁉悪戯ですか、そうですか!?切りますよ!」

「いやいや、ついさっき会話したばっかりなのにもう忘れちゃったのかな?」

「はぁ?何言って」

「私、し・ちょ・う、です!」

「しちょう?って市長⁉」

「そうですよ。引っ越しは順調ですか?」

「順調も何も、なんでいきなり引っ越しなんて」

「ああ、それはね。当分の間、君には製作に打ち込んでもらおうと思ってね」

「自慢じゃありませんが、あんな高い家賃払えませんよ俺!!」

「ほんと自慢する事じゃないね。でも安心していいよ。家賃も生活費もコチラで用意するからさ」

「は?それってどういう」

「つまり、君はこれから依頼を完遂するまで私の管理下で、魔力栞だけを作ってもらう事に注力してもらうよ」

「あの、バイトは」

「既に退職済みだよ」

「そんな……」

「わかったら、早く市役所に戻ってきなよ。Ms.ブラックがお待ちかねだよ」

「……はい」

通話を終え、脱力する

「あの~、作業再開していいですよね?」

「あ、はい。おねがいします」


俺は今日多くの物を失った

住み慣れた部屋、バイト、自分の血

そして……自由

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る