第12話採血とインクの調合
俺、塩谷浩二は今危機に瀕している
インクの調合屋に来ているんだが、見た目があまりにも不穏だからだ
まるでファンタジー小説に出てくる魔女の工房のよう
所狭しと様々な器具が置いてあるが、用途がまるっきり分からないものだらけだ
「あんた、初めてかい?」
「は、はい」
「そうかい。イヒヒヒヒ。準備するからちょーっと待ってな」
おいおいおい!確実にヤバいだろここ
視線をこんな所に連れてきた張本人に向けるとよく分からない器具に目を輝かせていた
「準備できたよ、こっちへ来なさい」
白衣を着たお婆さんが奥の部屋へ手招きする
「……ゴクリ」
「あ、準備できたみたいですね!行ってらっしゃい、塩屋さん!」
「あ、ああ。行ってくる」
奥の部屋の中は一体どうなっているんだ?
俺、このまま実験材料にされて死ぬんじゃ……?
「し、失礼します」
部屋に入るとそこは……
驚くほど真っ白な清潔感あふれる診察室だった
「え?」
「ささ、そこに座んなさい」
「はい」
「利き腕出して」
「はい」
普通の病院と同じような手順でテキパキと準備するお婆さん
「チクっとするよ」
い、痛っ……くない!?今までこんなに痛みのない注射は初めてだ!
魔法か?魔法なのか!?
「はい終わり。ここ押さえて、そう。直ぐにできるから、待合室で休んでなさい」
「はい、わかりました」
針の痕を押さえてに待合室に戻る
「あ、お帰りなさい!どうしました塩屋さん?」
「あ、いや。あの婆さん凄いなって」
「そうですね!あの方は魔力の扱いがとても上手で有名だったんですよ」
「へぇ、そうなのか」
「はい、なんでも魔法図書も魔力栞も無しに色んな魔法を使えたそうですから」
「まさか、それは誇張しすぎだろ」
「そうですよね。信じられないですよね」
そんな他愛のない話をすること30分
「できたよ、これがあんたのインクだ」
俺はインクの入った瓶を受け取る
中には赤いインクが詰まっている
「あの、代金は?」
「いらないよ、特別割引だ」
「え?」
「ふふ、面白いもん見せてもらったからね」
「面白いもの?」
「ああ、あのMs.ブラックが、男連れとはね。ククク」
「そ、そんなんじゃないですよ!私は仕事を依頼しただけで!」
「そうですよ。それに俺みたいにな10歳も年の違うオッサンじゃ、彼女が可哀そうですよ」
「そうかい?私はてっきり専属契約でもして」
「そ、それは、今関係無いでしょ!塩屋さん!もう用は終わったし早くシングルの製作に入ってもらいますよ!」
「……?お、おう」
店を勢い良く出ていく黒坂さん
慌てて追いかけようとするとお婆さんに止められる
「お前さんちょっと待ちな」
「な、なんでしょう」
「あんた、魔力栞作んの初めてなのかい?」
「え、はい。そうですけど?」
「そうかい。なら、一つ覚えておきな」
お婆さんの眼つきが厳しくなる
「魔力栞の出来損ないってのはね、使用者を傷つける事があるんだ。くれぐれも半端なモン作んじゃないよ」
「わ、わかりました。気を付けます」
お婆さんに凄まれるなんて、なかなか体験できないなぁ
「気を付けます、だぁ?バカ者が!間違えんじゃないよ!あの娘の為なら私が幾らでもインク作ってやるから、絶対に不完全なモンを渡すんじゃないよ!いいね?」
「は、はい!」
怖ぇーーー!なんだこの婆さん、いきなりキレやがった⁉ていうか目力凄い!!
「ふんっ。なんでお前さんみたいな素人に……」
まだなんかブツブツ言ってるし
「何ボサっとつっ立ってんだい?さっさとあの娘を追いかけな」
「はい。失礼いたしましたー」
俺はおっかない婆さんから解放されて店を出る
「遅いですよっ!何してたんですか?」
「えーっと……お婆さんから注意を受けてて」
「注意?何かしたんですか?」
「いやいや、これからの事で」
「何を注意されたんですか?」
「えーっと、間違いを犯すな、的な?」
「……は?」
固まる黒坂さん
「君の為ならインクを幾らでも作るって」
「なななっ!何言ってんですか⁉⁉」
「???」
なんだ?なんか反応が噛み合ってない気がする
(そんな、私と塩谷さんはそんなんじゃ……でもでもあの素敵な栞を作った人だし……)
「ん?何か言ったか?栞って聞こえた気が」
「なんでもありませんっ!それよりシングルの試作は市役所でやりますから、普段使ってる道具持ってさっきの部屋まで来てください!じゃ、私は先に市役所行ってますから!」
「あ、ああ」
ダッシュで市役所へ戻る黒坂さんの背中は直ぐに見えなくなった
「足、速いなぁ」
俺は、一度商売道具を取りに自室へ向かう
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