第10話魔力栞の誕生
「塩谷さん、魔力栞がいつどこで見つかったかご存知ですか?」
「いや、聞いたことないな」
「魔力栞が最初に発見されたのは、ここ日本なんですよ」
「へぇ、そうなのか」
「はい。塩谷さんみたいに栞作りの好きな人が最初に魔力栞を作ったんです」
「俺みたいにって、どういう事だ?」
「昔、まだ魔法の存在が不確定だった頃のお話です」
製作者「ふぅ。やっと、やっと完成したぞ。俺的に過去最高の出来だ!よし、アイツに自慢しに行こう!」
製作者は町はずれに住む古くからの友人に栞を見せに行きます
製作者「よう!本の虫!」
読書家「誰が本の虫だ!誰が!……で何用だ、栞マニア」
製作者「ああ、お前にとっておきの栞を見せてやろうと思ってな」
読書家「はぁ?どうせいつも通り、ネタ栞だろ」
製作者「いんや、今回ばかりは本気の本気」
読書家「いつも君はそう言って、変わった栞を僕に押し付けるんだよな」
製作者「ふん。今回のは過去最高の出来栄えさ!」
読書家「随分と自信満々だな。じゃあ、さっさと見せてくれよ。僕は読書で忙しいんだ」
製作者「そうかそうか、見たいか。なら見せてやろう。コレだ!」
友人の目の前に栞を突き出す
読書家「……」
製作者「おーい、なんか反応しろよー」
読書家「……」
製作者「なんだよ、感想の一つも無しかよ」
読書家「……くれ」
製作者「ん?なんか言ったか?」
読書家「そいつを、くれ」
製作者「呉?」
読書家「その栞を譲ってくれ!いくら欲しい?金なら出す!その栞を僕にくれ!」
製作者「お、落ち着けって!確かにこの栞は素晴らしい出来だが、お前がそこまで執着する意味が分からねぇって!どうしたんだよ一体!」
読書家「……はっ!僕は何を……?」
製作者「この栞を見ていきなりおかしくなった」
読書家「おかしく?……そう、か。それで……その栞、どうするんだ?」
製作者「売りに出そうかと」
読書家「いつ?どこで?いくらで売るんだ?」
製作者「いや、やっぱ売らない」
読書家「そ、そうか……」
製作者「お前にやるよ。なんかスゲー気に入ってくれたみたいだし」
読書家「え?いい、のか?この出来栄えならそれなりの値段で取引されるぞ」
製作者「ああ、いいよ。お前にやる!但し一つ約束な!」
読書家「返せと言われても返さないぞ」
製作者「ンな事言わねぇよ。ちゃんと使え!仕舞い込むな、それだけだ」
読書家「ああ、勿論今すぐ使うよ」
読書家は丁度今読みかけの本に栞を挟んだ
製作者「その本なんだ?タイトルが無いみたいだが」
読書家「ああ、これか。これは魔導書だよ」
製作者「魔導書だぁ?随分胡散臭いもの読んでんな」
読書家「いやいや、これは本物だよ」
製作者「本物ねぇ。なら何かやってみせてくれよ」
読書家「やるって、魔法をか?」
製作者「そうそう」
読書家「僕は魔法使いじゃないんだ、できるわけないだろ」
製作者「フリで良いから、なんかソレっぽい事してくれって。栞の代金だと思ってさ」
読書家「くっ、栞の代金か。なら仕方ない」
パラパラとページをめくり派手目な魔法の呪文を探す
読書家「よし、これでいいか」
呪文を覚えて栞を挟む
読書家「四大精霊が一つ、炎を司る精霊の頂点!出でよ、サラマンダー!!」
読書家がノリノリで呪文を唱えると、青く光る人魂の様なものがふわりと現れる
製作者「スゲーな!これマジックだよな!いつの間に覚えたんだよ!後でタネ明かししてくれよ?」
読書家「い、いや。なんだコレ……本当に魔法、なのか?」
サラマンダーが点滅を始める
最初はゆっくり、次第に速く
チカチカと点滅する毎に光は強くなる
製作者「なんか、ヤバくないか?」
読書家「ああ、逃げるぞ」
二人は点滅するサラマンダーから走って距離をとる
ある程度離れた所で振り返ると、サラマンダーの光は依然点滅を繰り返していた
離れたにも関わらず光は眩しさを増し、直視できないほど強くなっていた
そして、限界に到達したのであろうサラマンダーは大爆発を引き起こす
幸い読書家の家は町はずれにポツンと一軒建っているだけで近所は雑木林と山しかない
サラマンダーの爆風が読書家の家諸共辺り一帯にある物を全て吹き飛ばす
読書家の自宅、雑木林や山の木々、それら全てを一瞬で灰に変える
その爆発音は町の中央まで響き警察と消防がサイレンを鳴らし駆けつける
発見された二人は幸い命に別状なく、かすり傷程度だったが検査のため入院する羽目になった
病室で事情聴取をうけたが、まともに取り合ってもらえず
爆発の原因はガス漏れによるものとして報じられた
退院前日の夜、二人の下に黒ずくめの男が訪れた
面会時間はすでに終わっていて、二人とも寝る態勢に入っていた
製作者「えっと、どちら様で?」
黒い男「お二人に聞きたい事がありまして」
読書家「面会時間は終了してますが、どうやって入って来たんですか」
黒い男「お二人が起こした爆発は、ガスが原因ではありませんね」
ふたり「⁉⁉」
黒い男「やはりそうでしたか。あれはほぼ間違いなく炎の精霊サラマンダーによる焼失の魔法だと思っているのですが」
読書家「なぜ、それを」
黒い男「なぜって、それは私が魔術師だからですよ」
製作者「魔術師?」
黒い男「はい。魔術師です。それと我々魔術師の組織にお二人共入ってはくれませんか?」
読書家「なんで、俺達を?」
黒い男「それは勿論、魔術の発展のためですよ」
製作者「魔術の発展?」
黒い男「そうです!お二人は魔術師でないにも関わらず、高位の精霊であるサラマンダーを召喚した!本来なら修練を重ね、才能を徹底的に磨かなければ出来ないほどの大魔術を実行した!お二人が起こした奇跡の秘密を、力を!我々に教えて欲しいんですよ!」
製作者「断ったら?」
黒い男「死んでいただきます」
読書家「断ったら殺すって、それ脅迫ですよ!」
黒い男「ええ、そうですね。それでは、我々の組織『魔術結社ライトニング』へ入ってくれますよね?」
黒ずくめの男はニコニコと微笑む
翌朝、病室はもぬけの殻だった
「そうして、二人は魔術師の世界へ入りました。現在の魔力栞の基礎を築いたのが製作者の方で、魔法図書の扱い方の基礎を作ったのが読書家の方です」
話し終えた黒坂さんは冷めたお茶を一口飲み喉を潤す
「初めて聞いたな、そんな話」
「そうでしょうね、あまり知られてない事ですから」
「魔法学の授業で習う内容じゃないのか?」
「はい。今の話はごく一部の人間しか知りません。だから誰にも話しちゃダメですよ」
「なんで、そんな秘密の話を俺に?」
「それはですね、塩谷さんに作ってもらう魔力栞が今の話に出てきたもの以上のスペックだからです!」
ふふーん、どうだ!と言わんばかりににんまりドヤ顔の黒坂愛衣さん
可愛いが、はっきり言ってウザい
「無茶振りにもほどがあるだろ……」
無理難題を突き付けられ途方に暮れる俺をよそに、黒坂愛衣はウキウキしている
きっとこう思っているのだろう
(今の話を聞いて職人魂に火が付いたに違いない)と
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